「ハローエブリデイ」
「勘弁してくださいよぉ……お尻なんか触ってませんよぉ」
シノンはそう言ってゴミくずを見るような顔の女性を見た。
「……いいから10万払いな。駅員に突き出されたいの?ゴミくず」
ここは地下鉄の駅のホーム。
シノンの毎日は満員電車で女の匂いを嗅ぐことから始まる。
通学する時間が彼にとって至福の時間なのだ。
だが、今日に限ってはその挙動が災いした。
なぜなら痴漢冤罪を生業としている女をターゲットにしてしまったからである。
さらに女の追撃は止まない
「早く10万払いな。あたいも今からクリーニングの仕事があるんだ」
「そんなぁ、第一そんなお金ありません………」
「なら親に電話しな!」
シノンはしぶしぶ母親に電話をかけ,女は口座番号を伝え消えていった。
「うぅ……ついてないぜ……これから女の首筋の匂いを嗅ぐの止めようかな……」
悪魔のような女の背を見送り、シノンは高校に向かう……
………。
學校の門をくぐると、グラウンドには朝練に勤しむ女学生の声が弾んでいた。
廊下を歩けば、ばか騒ぎをする男子学生。
さも青春をしてますよと言わんばかりの彼らに憤るシノン18歳……
自然と教室へ向かう彼の足取りは速くなった………。
教室に入る彼に言葉をかける者はいない。
男子生徒すら彼を見向きもしなかった。
それをさも当然のように自分の席に座るシノン。
いや、何かぼそぼそと話す声が聞こえる……。
シノンは隣の席の女生徒を一瞥した。
「…………ブーーンっ!ブーーンっ!今日はいいハントができたワイ!がっはっは!」
………僅かに聞こえる程度の小さな声で女生徒が遊んでいる。
その手に握られているのは竜にまたがった人型のレゴ。
机に広がっているのは大きな王城のレゴフィールドだった。
「(こいつ、いつも通り気味悪いな……)」
さらに重くなった気分で授業の準備をするシノン。
まもなくチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。
「(相変わらずまぶしいな……)」
朝からついていないシノンにとって、担任の光る頭はストレスの要因でしかなかった。
「よし!今からHR始めるぞ!日直は誰だ?」
「シノン君と翠星さんです」
担任の質問に凛々しく答える委員長
「(げっ!よりによって陰気なレゴ野郎とかよ……)」
「そうか!じゃあ号令よろしく!」
「……起立………」(ぼそっ)
シノンは言われるがまま号令をかける。
「礼……」
おはようございまーす!とクラスメイトが続く中、横の席の翠星はレゴ人形の首を折り挨拶を済ませた。
クラスの中でも『バカ』のレッテルが張られてるのは当然なのである。
「早速だが、今日このクラスに転入生が来ることになった!」
突然の担任の発言に盛り上がる教室内。さらにハゲ担任は続ける。
「入ってこい!ためち!」
がらっ!!
…………扉を開けたのは全身黒タイツで鞭を持った女だった。
クラスの生徒は皆、絶句していた……。
空気が凍るとはこのことだ……。
女はゆっくり教卓に近づき教室を冷ややかな目で見渡し、言った。
「骨のあるやつは、、いるかしら、、、」
その言葉にリアクションできる者などいなかった。
無音の教室の中、シノンの喉の音だけが鳴った……。
……ごくりと……。
続く