1日目
更新が遅いですが、メインの息抜きで始めた物なのでご容赦くださいな><
1日目
「我が命散れども、主だけは……っ!……ぬ?」
彼が目を覚ましたのは暗い森の中だった。夜目が利くので問題ないが、陽が差しこまないほどのはの密集具合のせいで、昼夜がわからない。自分は何故こんなところにいるんだろうか?そう思うも、寝ぼけた頭ではなかなか思い出せない。彼はふわふわな体毛に包まれた小さな身体を起こし、キョロキョロと周りを見回す。
「ここは……ハッ、我が主は!?」
ふと大切な事を思い出した。そうだ!自分は主人に連れられて、夜の森の中に入ったのだ!そして狼たちの縄張りに入ってしまい、追いかけてくる彼奴らから必死に逃げて……
「……我は主を庇ってやられたのだったな」
ぼやけていた記憶が鮮明になる。そして自分がやられた後、人間の猟師の手によって狼が討たれたことも思いだして、ふうっと安堵の溜息を吐く。
「我が主は……おそらく無事であろう。して……ここは、冥界と呼ばれる所だろうか?」
改めて周りを見渡す。視界に入るものは木、木、木……そして草や所々に転がる石。
「はて、冥界とはこのようなところなのだろうか?我が生を受けた世界と同じように見えるが……?」
主人である少女に色々な話をよく聞かされていたが、生き物が生を全うすると天国と呼ばれる冥界へ行くと教えられていた。そこは色鮮やかな花々や果物が多く存在し、またありとあらゆる動物達が幸せに暮らす楽園だと聞いていた。そしてそこは永遠に沈むことの無い太陽によって明るく照らされ、一切の陰りも無いと聞いていたのだが……。
「……」
何度も辺りを見渡すが楽園には到底見えない、ただの暗い森だ。その上日の光が一切届かない森の奥に見える。
「ならば……地獄、か?」
もう一つ死後に行くとされる地獄のことを思いだす。そこは罪を犯した者達が落とされる奈落とされ、陽の光が決して差し込まぬ闇の世界だという。代わりにマグマが明かりを灯し、雑草の一つも生えない岩肌が全ての世界だという。……この時点で違うと判断し思い出すのをやめた。
「もしや我は……死んではいないのでは?」
天国でも地獄でもない……ならばそうとしか思えなかった。致命傷を負ったにも関わらず、無傷で生きていることに違和感を感じるが、他に考えられないのでそう判断した。
ただじっとしていても何も始まらないので、とりあえず森の中を歩き回ってみることにして見る。前足と後ろ足を使いいつもしているように歩く……ふむ、問題ない。いつも通りの自分の身体、我が主が好んでくれていたハムスターの身体だ。
「調子は悪くないようだ。いや……いつもに増して良い位だな」
自身の体よりも背の高い草を踏み締める。そんな自身の足の力強さを、ふむ……と満足気に見やる。いつもならケージの中で動き回るのもなかなか大変だったはずなのだが、この身体中に湧き上がる力の素晴らしいこと!
「まるで生まれ変わったかのような心地だ。……悪くない」
今なら主を襲った狼どもを相手にしても遅れは取らないだろう……そんな気がする。まああの狼どもは既に退治されているだろうから、今更ではあるが。
試しに駆けてみるとやはりいつもに比べて数倍早い……気がする。いつも駆ける場所がケージの中の回転する玩具の中だけだったので詳しくは判断できないが、疲労を感じないので少なくとも体力は上がっているような気がする。
「は、ははは……ふははははははっ!!素晴らしい、これは素晴らしいぞっ!!」
自身の足が叩き出す速度に高揚し、彼は夢中になって森の中を走り続けた。ケージの中という狭い空間ではなく、無限に広がる自然の中を駆けられる喜びがそうさせる。この光景を見るものが居たら、ハムスターではなく、謎の毛玉が高速で飛んで行ったようにしか見えなかっただろう。
彼がようやく走るのを止めたのは、それから10分後。延々と変わらない木々の景色が突如開け、目の間に大きな湖を見つけたのだ。……実際にはただの水溜りなのだが、ハムスターの彼にとって見れば、湖に見えるのは仕方が無い。
「ふむ……思わずはしゃいでしまって喉が渇いたところだ。なんとも都合が良い」
テテテッと水溜りに近づいて口を付ける。……少し泥臭いが、飲めないほどでは無い。
のどの渇きが十分に潤せた所で水溜りから顔を上げる。が、今度は腹の虫が鳴き出した。
「……腹が減ったな。この辺りに食料となるものは無いだろうか?」
これだけ木が沢山あるのなら、実を付けるものもあるはず……そう思って探索を開始しようとすると、何者かの気配を感じた。狼のような大きな動物の気配ではなく、何か自分よりも小さな生き物の気配だ。
「ぬ……虫か?これもまたちょうど良い。我の糧にしてやろうぞ」
小さな虫であれば自分の食料になる。そう思って気配のした方へ音を立てないように近づく。そして、一際背の高い草に隠れるようにしながらそれを覗き込む。
「ジジ……ジジジ……」
「あれは……ふむ、ミミズか」
気配の主はどうやらミミズだったようだ。うねうねとひょろ長い身体を波打たせながら地面を這っている。そして、先端にある口を開けて小さく鳴いている。
「む……やつは発音器官など持っていたか?そもそも口なんぞあったのか?」
無い首を傾げながら、まあ良いと彼はミミズの背後へ忍び寄る。口があろうと鳴き声を発しようと、自分にとってやつは生きる為の糧だ。容赦なく喰らってやろう。
うねうねと這いずりながら前進し、時折キョロキョロしながら「ジジジ……」と鳴き声をあげるミミズ。ミミズも自身の獲物を探しているのだろうが……このとき既に、自分が他の動物の獲物に成り代わっていたことに気付けなかった。
「……もらった!!」
「ジジッ!?」
隙を突いて勢いよく飛び出してきたハムスターに気付くも全てが遅かった。飛び出してきた物がなんなのか認識する間もなく、力強い足に胴体をドチャッ!と踏み抜かれる。
「ぬおうっ!?」
本当は踏みつけて捕らえたつもりだったのだが、まさかそのまま潰してしまうとは思わなかった。自身の脚力に驚きながらもミミズに止めを刺そうと前足を伸ばす……までも無かった。
「……」
胴を潰されたことによって既に息絶えていた。うねうねとわずかに身体は動いていたがそれだけで、数秒後には完全に動きが止まった。
「まさか潰してしまうとは思わなかったが……とりあえずこれで食料は手に入」
《リトルワームを討伐。経験値を2獲得しました》
「むっ!何者だ!!」
突如聞こえた謎の声に素早く反応し、大声と共に鋭い視線を周りに走らせる。が、声の主どころが何者視界に入ることは無かった。
「今の声はなんだ?……ええい面妖な!」
姿も見えず気配も無い……そんな様子に気味悪がりながらも、戦利品のミミズの亡骸を抱えて水溜りの近くまで移動する。
「ここならば何者が現れても見通しが利くだろう……しかしなんだ?先ほどから感じるこの違和感は……」
目が覚めてから色々おかしい。目を覚ました場所がこんな森だったことといい、突如沸きあがったこの力といい、さっきの声といい……一体なんなのだろうか?解らないことだらけで不安が募る。
「……そもそも自分は主から離れて何をしているのだ?我が主が理由も無く我を捨てるとは思えん……ならばこれが、人間がまれに行ける夢という世界なのか?」
今までそんなものは見たことが無いが、主である少女が「怖い夢見た~!」と言って泣いている姿を見たことがあった。当初はそれがなんなのかわからなかったが、後に主と主の母が話しているのを聞いて、それが寝ている間に見る世界であるというのがわかった。それはなんとも摩訶不思議な世界で、その中では空を飛んだり、力が通常の何百倍も強くなったり、口や手から火や雷を放ったりなど出来るという。
そう思うと突然自分の力が格段に跳ね上がったことにも納得が行く。さっきのミミズが普通のものとどこか違うように見えたのも、きっとそれが原因なのだろう。
「なるほど……これが夢の世界、か。人間では無い我にも行くことが出来たのだな」
その考えに落ち着くと、心に圧し掛かっていた不安が拡散した。ふむ、どうやらこれが正解であるようだ。
「なればこの世界から出ることが出来れば、再び主の下へ戻れるのだろう。問題はどうやって出るかであるが……それは急がなくても良かろう」
普通ならここで再び慌てるものだが、この夢と呼ばれる世界は、どうやら時間の進みが元の世界と違うらしいと知っていたからだ。主である少女が行っていた夢の世界の話をしてくれた中で、自分と朝から次の日の朝まで遊んだなどと話してくれていたことがあったのだ。主が寝てから目を覚ますまでの間がそんなに長かったことなど一度も無いので、そう推測したのだ。なので自分もこの夢から醒めた時は、恐らくいつも通り晩が過ぎた次の日の朝なのだろう……その考えから急ぐことは無いだろうと判断したのだ。
「夢の中では主に会えないのが辛いところだが……折角の体験だ、心行くまで堪能してやろうではないか」
時間を気にする必要が無いのであれば慌てる必要など無い。たまにはケージという狭い世界から解き放た
れて、この広い夢の世界を満喫した所で罰は当るまい!
こうして一匹のハムスターによる、夢世界を舞台にした大冒険が幕を……
グウゥ~~~~~!
「……む。空腹であることを忘れていた……」
心の中でそれっぽいナレーションを流していたが、自身の腹の音で消えてしまった。誰もいないが顔を赤らめつつ、戦利品のミミズを食することにした。
「しかしなんと肉付きの良いミミズなのだろうか!現実の世界ではこれほど大きなミミズなど見たことが無い!」
改めて先ほど仕留めたミミズを観察し、その大きさに歓喜の声を上げる。長さもさることながら、その太さは自身の拳を二つ合わせたものの約1.5倍ほどもあった。人間にとってはそれほどでは無いだろうが、ハムスターである彼にとっては大物の何者でも無い。その立派さに思わず見惚れていると、再び腹の虫が騒ぎ出す。
「いかん、我慢できん……!早速喰らうとするか」
これ以上我慢出きそうに無いので、早速食べることにする。ここは景気よく頭から食べてやろうと思ったが、口の中に意外にも鋭い牙が並んで生えていたので尻尾から食べることにする。
「では……頂こう」
ちょこんと手を合わせて軽く祈り(主である少女が食事前にしていたので、見ているうちに覚えた)、口を大きく開けてミミズの肉にガブッ!と喰らいつく。……喰らいつくと言っても、元々口が小さいのでほんの端っこに噛み付いただけだ。しかし本来ならはむはむと愛らしく食べるのだが、顎の力に比べて異常に力が上がっているお蔭で太いその肉を一気に噛み千切ることが出来た。
「むぐむぐむぐ……むっ!」
小さな口をもごもご動かして咀嚼する。すると突然、目をカッ!と見開いた。
「……うまい、うまいぞっ!!なんだこの肉は!?今まで食べたミミズの比では無いぞ!?」
口の中に広がる肉のうまみに思わず叫び声が上がる。大きいだけで大したことは無いだろうと思っていたが、その想像は良い方向に裏切られた。空腹だったから、それともこれも夢世界補正だとでも言うのか……何にしてもうますぎる!!
溜まらず二口、三口と食が進む。それこそはむはむ食べになっていたが、口に含んだ端からどんどん胃袋へと納まっていく。元の世界では考えられないほどの食べっぷりだ。もし少女がこの光景を見ていたら驚きに腰を抜かしていただろう。
そして5分もしないうちにミミズは全て彼の胃袋の中に納まってしまった。初めは食べるまいと思っていた口も含めて全てだ。確かに硬かったが、他と歯ごたえが違ったのが逆にアクセントになりなかなかに美味だった。
「うむ、素晴らしいっ!!なんとも美味であったなっ!!」
大食を平らげて、満足そうにお腹を擦るハムスター。しかしあれだけ食べたというのに、そのお腹は以前と全く変わらない大きさだった。これも夢の世界ならではの不思議現象だろう。
「ふむ……満足感はあるのだが、これならいくら食べても腹は膨れそうに無いな。つまり好きなだけ食い放題ということか?ふははは、これは良い!」
夢世界の仕様に嬉しそうな笑みが浮かぶ。ならば他にも獲物が居ないか探しに行こうと、丸い腰を上げようとした所で、再びあの声が聞こえた。
《リトルワーム一匹を取り込んだことにより、対象のステータスの一部が加算されます》
「また貴様かっ!?どこだっ!?どこにいるっ!!」
またもや聞こえた声に対して大声を上げて威嚇するも、それだけを告げて再び沈黙する声。声の主はどこか気配を探っても、やはり自分の周囲には居ない。
「おのれ……まあよい、危害を加えてこないのなら気にする必要はあるまい。もし手を出してくるのなら容赦はせんぞ?」
見えない何者かにそう脅しをかけながら、今度こそ腰を上げて次なる獲物を求めて動き出した。
「ふん……そこだっ!!」
「ジーーーッ!」
グチャッ!とミミズの胴を踏み抜く。
「ジャーッ!!」
背後から蛇以上に横に裂けた口を開き、潰したのとは別のミミズが噛み付こうとしてくる。しかし……。
「遅いっ!」
素早く身体を捻ると、その勢いのまま拳を叩き込む。ベチャァッ!!と上顎が消し飛ぶ。それを見た彼はしまったと毒吐く。
「む……これはもったいないことをしたな。力加減を覚えねば……」
肉に比べて数が少ない牙を無駄にしてしまったことを反省しつつ、次からは気をつけようと胸に刻んでおく。
今いるのは、先ほどミミズを食した場所から少し離れた所で見つけたミミズの巣穴だ。ミミズに巣があるとは知らなかったが、美味い獲物が一度で沢山取れるのだから文句は無い…・大歓迎だ。
「ふむ、今ので最後だったようだな」
《リトルワーム5体を討伐。経験値を合計10獲得しました》
「またか……害意は無いようだが、こうも不可解だと気になって仕方が」
《パンパカパ~~~ン!!!》
「ぬおっ!!?」
突然大音響が頭の中に響き渡り、思わず身体を仰け反らす。そんな彼に構わず声は続ける。
《おめでとうございます!レベルが1から2へ上がりました!詳細確認は任意でステータスを確認して下さい》
「お、おのれ……害意が無いと油断した途端にこれか……。しかし、一体何のことを言っているのだ?」
ぐわんぐわんする頭を振って何とか調子を取り戻し、声が告げた内容を整理する。リトルワームというのはあのミミズの名前だろうか?最初の一匹を狩ったときにもそんな名前が出ていた気がするので、恐らくそうでは無いだろうか。
経験値というのは全くわからない。1匹倒した所で2獲得し、今5匹倒して10獲得したのだから、リトルワームとやらを倒して何かを得たのだろうか?それにしては何も見たら無いが……
「ぬう、解らん。後はレベルやらと……ステータスか。詳細を確認するにはステータスを確認しろと言われたが、どうしろと……むおっ!?」
そう呟いた瞬間ヴゥン!と音がして、文字がずらずらと浮かび上がってきた。度重なる不可解な現象にパニックになりかけるが、根性で何とか捻じ伏せる。
「ふう……一体、なんだというのだ?……この文字群は主が使っていたものと同じか。なになに……」
頭に浮かび上がった文字に集中して読み進める。幸い、主の少女やその家族のお蔭で人間達が使っている文字に触れる機会は多かったので、難なく読み解くことが出来た。その内容を整理してみるとこんな感じだった。
《ステータス》
レベル2 名称:ハムスター 体力10 筋力1+1 魔力1 反応50 次のレベルまで20
装備品:なし
技能:体術1 鑑定1
特性:魔神の豪力 魔神の胆力 神速 暴食 魅了 能力取込(変態可) 女神の加護
以上のようなことが読み取ることが出来た。出来たが……何のことだかさっぱり解らない。読めることと意味が理解できることは全くの別だ。唯一理解できたのは、自分の種族名であるハムスターの部分だけだ。
「全く意味がわからん……これでどうしろというのだ?」
読み解いたら余計に解らないことが増えてしまった……。誰かに説明を求めたいところだが、ここには自分以外誰もいないのでそれも出来ない。はあ……と溜息を吐きつつ、何気なく頭の中でステータスとやらの中にある、単語の一つを突いてみる。
《体術1:身体のあらゆる部位を使用し、相手を打ち倒す為の術。1は自身に降りかかる危険に対し、自衛できる程度》
「ぬ、今のが説明か?何故今……いや、我が今考えたからか……?」
試しに今度は別の単語に集中して頭の中で突いてみる。
《鑑定1:知りたい物に触れたり注視すると、その名称や性質を知ることが出来る。1は自身の情報の解析と、手で触れたものの名称と表面上の情報を解析できる》
頭の中で流れる声の説明に、ふむ……と小さく頷く。どうやら説明を聞くにはこれであっていたようだ。更に、説明を聞く為には今調べた鑑定とやらが必要のようだ。
「なんと都合の良い……これも夢世界であるからか?」
あまりタイミングが良すぎる気がするが、恐らくこれもこの世界の特性なのだろう。折角なので使える物は利用させてもらおう。
技能の欄は調べ終わったので、今度は特性について調べてみる。
《魔神の豪力:ステータスの筋力に、ボーナスで+999》
《魔神の胆力:ステータスの体力に、ボーナスで+999》
《神速:自身のあらゆる動作を任意で光速化出来る》
《暴食:あらゆる物を食べることが出来るようになるが、代わりに満腹感を得られなくなる》
《魅了:愛らしい姿で一部を除いてあらゆる生物を魅了する。魅了された生物は、この技能を持つ衝動的に愛でたくてたまらなくなる》
《能力取込(変態可):体内に取り込んだ相手の能力を自分のものにすることが出来る。取り込む対象によって必要な物量が変わる。また変態可は、取込によって得た一部の生物の身体的特徴を、任意で自身の身体へ再現することが出来る様になる》
……ここまでの説明を見て、なんとも反則的では無いかと思う。魔神の豪力や胆力に関してはステータスの+999というのが良いのかわかりかねるが、それ以外は頭の回転の悪い自分でも卑怯な性能だと解った。
魅了はどうでも良いとして……神速は狩りにとても役立ちそうだし、暴食は美味い物をいくらでも食べられるようになるのがとても魅力的だ。その上能力取込が食べれば食べるほど自身が強化される能力なので、このコンビネーションはなかなか良さそうだ。
「この二つさえあれば、我が主をあらゆる脅威から守り通すことが出来そうだな。ぜひとも現実の世界に持ち帰りたいところだが……まあ、この夢世界だけの特権だろうな」
あまりの良性能に惜しいが……この世界に居る間だけでも楽しませてもらおう。そう内心でうきうきしながら、最後の女神の加護とやらを解析してみる。
《女神の加護:???》
「ぬ?」
が、いざ解析してみると表示されたのは?マークだけだった。解析し損ねたか?ならばもう一度……
《女神の加護:???》
「……駄目か。まあよい……加護と名が付いているのだ、害意あるものではあるまい」
理由は不明だが、《鑑定1》という技能では恐らく役不足なのだろう。不明なのは少し気持ち悪いが出来ないものは仕方あるまい、今は捨て置くとするか。
ちなみにステータスの最初の欄に書かれていた、単語と数字が合わさったものも調べてみたのだが、単語の意味が返ってくるだけで数値の意味までは解らなかったので、こちらも今は気にしないでおくことにした。
さて、ステータスとやらの確認が済んだので、先ほど狩ったミミズどもを喰らいたいのだが……
「ええい、文字共が鬱陶しいっ!!用が済んだのならとっとと去らんか!」
頭の中に表示されたままのステータスの文字列に、苛立ちながら言うが一向に消える気配は無い。どうやって出したかも解らないので、どうすればいいのかわからないのだ。
「いかん、冷静にならねば……ふぅ……む?端に何か書いてあるな……」
湧きあがる怒りを軽く深呼吸することによって押さえ、再びステータスと相対する。すると下部の方に何か小さく書いてあるのを見つけた。頭の中なのに下部とはなんともおかしな言い回しだが、感覚的に下だと感じたのだ。
「ステータスを閉じる……か?うおっ!?」
書いてある文字を読んだ瞬間、頭の中に浮かんでいた文字列がシュンッ!と軽い音を立てて消え去った。なるほど、ステータスを閉じると念じれば文字は消えるのか……。
「なれば……ステータスよ開け!」
そう念じると再びステータスが頭の中に浮かび上がった。その結果を見てようやく仕組みが理解できた。
「解ればどうということは無いな。これに意味があるのかはわからぬが、技能や特性とやらの内容を覚えるのは億劫だと思っていたから都合はよいな」
思い通りに行ったことに満足した所でステータスを消し、今度こそミミズ達を食べることにした。慣れない考察などをしたせいで疲れたが、一口食べたところで疲れが吹き飛んだ。
ミミズ……正式名称をリトルワームという魔物を5匹食べ終わった所で眠気を覚えた彼は、手ごろな木の上に登ってそこで眠ることにした。動き回っても疲れなかったとはいえ、慣れない世界に来て精神的に疲れていたのだ。
「はて、夢世界で寝ることは出来るのか?いや、考えるのは止すか……」
ふと疑問が浮かんだがすぐにその考えを放棄する。そして目を瞑った途端、眠気が倍増して襲ってきた。
「眠れそうだな……では、主……おやすみ……」
主人である少女が眠る際に口にしていた言葉を、心の中の少女に呟いてからハムスターの彼は穏やかな眠りに就いた。
《リトルワーム5匹の取り込んだことにより、対象のステータスの一部が加算されます》
《筋力1+1が筋力1+6になりました》
《リトルワームの摂取量が規定値を越えた為、能力の獲得が完了しました》
《技能:土潜りを獲得しました。詳細はステータスを確認して下さい》
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!




