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0日目

ふとステータス表記のあるものが書きたくなったの書いてみました!(今回はありませんが><)

初めから強かったりするので盛り上がりに欠けるかも知れませんが、少しでも楽しんでいただけると嬉しいです^^

0日目


「はあっ!はあっ!」


 広大な森の中で、少女の呼吸音と駆ける足音が響く。


「ヴァウワウッ!!」


「ガオオンッ!!」


 その後ろから二匹の狼が追いかける。少女が縄張りに侵入してきてので気が立っているようだ。


「はあっ!はあっ!……けほっ!……はあはあっ」


 息を切らせ、時に咽ながらも少女は走り続ける。一瞬でも止まってしまえば命は無いとわかっているから。


 ふと少女は胸の前で組んでいた両手に視線を向ける。こんな体勢では走りにくいだろうに、何故か重ねられたままの両手。しかしよく見てみると、なにかもぞもぞしているのがわかる。


「だ、だいじょうぶ……もう少ししたら森を抜けられるから……だから心配しないで?」


 手の中にいる何かに向かって少女は優しげに声を掛ける。それでも落ち着かないのか、中にいる何かは忙しなくもぞもぞし続ける。すると少女の指の間からひょこっと小さななにかが飛び出た。


 それはライトブラウンの毛に包まれた、ふわふわな尻尾だった。大きさは少女の小指よりも小さい。少女が大事そうに抱えているのはどうやら小さな動物のようだが、このそっぽだけでは何かはわからなかった。


「こ、こらっ……くすぐったいから暴れちゃだめ……っ」


 もぞもぞ動くそれに掌をくすぐられ、緊迫した状況にもかかわらず少女は僅かに笑みを零す。……が、それが仇となった。


 ガッ!


「……あっ!?あうっ!!」


 一瞬の気の緩みで足元が疎かになり、地面から突き出ていた木の根に足を取られてしまった。走る勢いそのままに、少女は叩きつけられるように地面に転がる。


「グルルルッ!!」


 そして後ろから追ってきていた狼との距離を一気に詰められる。が、狼はすぐに喰らい付こうとはせずに、哀れな獲物をまるで嘲笑うかのように見つめ続けている。


「やぁ……やだ……っ!」


 自分を見つめる狼を見て、少女は転んだ痛みと恐怖から涙を流す。その様子さえも狼達には楽しいのか、焦らすようにじり……じり……とゆっくりした足取りで近づく。


「こ、こないでっ!」


「ガアアアッ!!」


「ひっ……!」


 なけなしの勇気を振り絞って少女が叫ぶも、狼の一喝ですぐに動けなくなってしまう。目からはらはらと涙を零す事しか出来ず、少女は手の内に抱えた愛しのペットをぎゅっと抱き締め……


「あ、れ……?」


 さっきまで感じていたふわふわの感触が無いことに気付き、少女は声を洩らす。さっき転んだ時に手放してしまったのだろうか?自らの命の危機も忘れて辺りをキョロキョロ見回すも、その姿と見つけることは出来なかった。


 喪失感に呆然とするも、あの子だけでも逃げてくれたのなら……という気持ちが浮かぶ。元はといえば、自分が連れ出さなければあの子まで危険な目に遭わなくて済んだんだ……無事で居てくれるなら、それで……


「グルルル……ガアアッ!!」


「っ!!」


 そんな思いに辿り着いた瞬間、狼の一匹が動いた。少女の首元に喰らい付こうと、大きな口を開けて鋭い牙を剥き出しにする。迫る恐怖と死の予感に少女は目を硬く瞑る。


 ドシュッ……


「ガアアアッ!?」


「ううっ……!…………あ、れ……?」


 柔らかい何かに、何かが食い込む音と共に狼の声が聞こえた。だけどそれは、狼の牙が少女に喰らいついた音でも、肉の味に歓喜する狼の声でもなかった。なぜなら少女は自分がまだ生きていて、その音と声を聞いているのだから。


 チリン。


 小さな鈴の音にハッとし、恐る恐る目を開く。そこには……目から血を流して悶絶する狼と、小さく丸っこい毛玉の姿があった。その毛玉は狼から守るようにして、少女の前に立塞がっている。


「あ……」


 それは逃げたと思っていた、少女のペットのネズミ……ではなくハムスターだった。短い尻尾に赤いリボンが着けられ、その中心部に小さな金色の鈴が付いていたのを見てすぐに解った。少女の小さな掌よりも更に小さいその身体は、ふわふわのライトブラウンの毛皮に覆われており、お尻からはぴょこんと小さな尻尾が覗いていた。


 そんな愛くるしい姿とは裏腹に、ハムスターの小さな両手から生える爪に赤い物がべったりと付着していた。目から血を流す狼とそれを見やったところで、ようやくその爪で狼の目を抉ったのだとわかった。


「ガウウッ!!ガアアッ!!」


 片目を潰され悶絶し続ける狼に向かって、愛らしい毛玉が動く。今度は無事な眼に向かって素早く飛び掛り、小さな爪を思いっきり振るう。


 ザシュッ……


「ギャウアアアアゥッ!!」


 再び狼の悲鳴が森に響き渡る。あまりの激痛に身体を痙攣させているのか、身体をびくんびくん!と震わせていたかと思ったら、そのまま動かなくなった。目をやられただけで息絶えるとは思えないので、恐らくショックで気絶したのだろう。


 すたっと毛玉が音も無く地面に着地すると、少女の下へと素早く駆け戻ってきた。今度は爪だけでなくふわふわの体毛にも血が付着していたが、少女は気にせずにペットのハムスターの頭をそっと撫でた。


「たすけて……くれたの?」


「キュキュッ!」


 少女の問い掛けに肯定する様に鳴き声を上げ、乗せられた手に小さな鼻を擦り付ける。その仕草に心から安堵を覚え、少女は我慢できずに小さな守護者を抱き締めた。


「あり、がと……!あたし、もうだめだって……おも、て……!」


「キューキュッ、キュキュッ!」


 嗚咽を上げながら感謝の言葉を告げる主人を慰めるようにキュウキュウ鳴く。しかし、そんな平穏も長くは続かなかった。


「ガアオオオオオンッ!!」


「ひっ!?……あ、ああ……!」


 少女を追ってきていた狼は一匹だけでは無かった。遅れて追いついてきた二匹目が少女に向かって猛スピードで突っ込んでくる。完全に安心しきっていた少女は、それをかわすどころかその場から動けそうに無かった。


「キュウウッ!!」


 そんな主人を再び守るべく、少女の手の内から毛玉が飛び出して狼の顔面に体当たりする。


「ギャウッ!?……ガアッ!!」


 突然の攻撃に一瞬怯むものの、ぶつかった衝撃で宙を飛ぶハムスターを視界に納めた瞬間、素早く鋭い爪を走らせた。


 ズザァンッ!!


「ヂュウ……ッ!!」


「ああっ!!」


 切裂かれた小さな毛玉が短い悲鳴を上げ、血を噴出しながら地面を転がった。ふわふわの白い体毛に覆われたお腹が大きく引き裂かれ、夥しい量の血が溢れ出る。


 愛しいペットの傍に駆け寄り両手で抱える少女。しかし、小さな身体に刻み付けられた大きな爪痕は間違いなく致命傷だ。まだかすかに身体を震わせて生きているのは解るが、少女の手の中で小さな命が失われつつあるのを見つめることしか出来ない。


「ごめ、なさい……!あたしの、せいで……っ」


「ガアアッ!!」


 狼の牙が自分に迫るのにも気付かず、少女はハムスターを見つめたまま動かない。そして、あと数センチで少女の細い首に牙が届く……瞬間。


 ダァン……ッ!!


「ギャゥッ……!!」


 突如銃声が鳴り響き、少女に迫っていた狼の身体が吹き飛んだ。その音の元を手繰るとそこには猟銃を構えた男性が立っていた。狼の鳴き声を聞きつけた近隣住民からの要請で、臨時の巡回をしていた猟師団の一人だ。


「大丈夫かっ!!」


 大声で声を掛けながら男性が蹲る少女に駆け寄り、怪我の有無を確認する。大きな怪我が無いことを確認し安堵の表情を浮かべるが、少女が自身の手を見つめたまま動こうとしないので不審に思いその手の中を覗き込む。


「そいつは……嬢ちゃんのハムスターか?」


「う、うぅ……」


 涙をボロボロ零しながら微かに少女が頷く。先ほどの狼にやられたと解る、真新しい爪痕が目に入った。そして、もう助からないとも。


「この子……あた、し……たすけ……っ!」


「……そうか。主人思いの、良いやつだったんだな」


「そんなこと言わないでっ!!この子、まだ生きてるのっ!!絶対……助けるのっ!!」


 嗚咽を上げながら話す少女へ思わず過去形で言葉を返してしまった男性に、猛烈な勢いで反論する。この子はまだ生きてる……急いで手当てすれば、きっと助かるに決まってる。だから……っ!


「……キュ……ッ」


「ッ!!」


 その願いが通じたのか、少女の手の中でハムスターが小さく鳴き声をあげる。ボロボロの身体を震わせながらも、そのくりっとした目は少女へと真っ直ぐ向けられていた。


「キュ……キュゥ……」


「無理して、鳴かないで……すぐに病院で手当てしてもらうからっ」


「キュゥ……キュッ」


 慌てて駆け出そうとする少女に、しかしハムスターは首を横に振る仕草をする。まるで自分はもう助からない、そう言っているように少女は感じた。そして、何かを伝えたがっているのか、じっと自分の目を見つめていることも。


 だけどそれを受け入れてしまったら、この子は……そう思うと悲しみに涙が更に溢れ、いやいやと首を振る。


「そ、そんなこと……ないっ!急げば、きっと……!」


「キューキュ……キュゥ」


 なおも飛び出そうとする少女に、ハムスターは優しく声を掛けてなだめる。ぷるぷる震える手を精一杯動かして、掌をすりすりと撫でる。その感触に少女の激情が少し和らいだのを感じ、ハムスターはキュウッ♪と鳴いた。


「……ごめ、んね……あたしが、パパとママが、離れちゃうのに反対して……家出なんてしなきゃ……森なんかに、入らなきゃ、こんなことにならなかったのに……ごめんね、ごめん、ね……!」


 ハムスターの血が付着するにも関わらず、少女は頬を寄せて密着させる。多量の血を流して尚、ふわふわな体毛が少女の頬をくすぐる。


「キューキュ……キュキュキュ?」


 君のせいじゃないよ、だから泣かないで?そう言うかの様に鳴いた後、小さな口を寄せて少女の頬に口付けをする。


「あ……」


 突然の口付けに驚くも、それに込められた優しい気持ちを少女は理解した。愛しいペットの目を見つめ返すと、肯定するようにウィンクを返された。そして……。


「キュウキュウ……キュ…………」


 バイバイ。そう最後に鳴いた直後、ハムスターの身体から力が抜けて少女の掌にぽふっと倒れた。


「……やだ、やだよ……!ねえ、起きて?起きてよっ!!……うああああああっ!!」


 動かなくなった愛しのハムスターを前に、我慢の糸が切れた少女は大きな声を上げて泣き出した。傍で見守っていた猟師の男性のほかに、巡回に回っていた猟師団の面々が集まってきていることにも気付かず……泣き疲れて眠ってしまうまで、ずっと……。



 眠ってしまった少女を抱え、猟師団が町に向かって戻る。身元を証明出きるものを身につけておらず、仕方ないので警察に届けようと話を団員達は話し合っていた。


 だから抱えた際に少女の手から小さな亡骸が零れ落ちてしまったことに誰も気が付かなかった。そして……


 その亡骸が白い光に包まれてその場から消えてしまったことに、気付く者は誰一人としていなかった。

ここまで読んで下さりありがとうございます!

この小説は気が向いたときに投稿となりますので、どうか気長に待っていただけるようお願いします^^

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