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序3 狭間の幕間劇

 


  完全に、世界から隔絶した此処に在っても。

  私の立場は、危うい。

  私が、貴方の枷になるのならば、この身すら必要ないけれど。

  それでは、貴方が過ごした千年が無駄になってしまう。

  貴方が貴方を捨ててしまうかもしれない、そう思うと私は動けない。

  だけど、無茶はしないで。

  だから、無茶はしないで。

  私がいえたことではないけれど。


             とある霧の賢者の言葉。









 どこかの空間。

 真白の霧か雲か、そんな空間。

 椅子と本棚、ベッドのある場所もあるけれど其処から離れてしまえば白だけが埋め尽くしてしまう。

 其処から少々離れた真白い空間に、二人の黒と白の人物が、存在する。

 黒い方は、黒い癖があり逆に艶のない髪を背中の中程まで伸ばし、細く古びた赤いリボンで纏めていた。

 瞳は、愉しげな色宿る黒曜石色だった。肌は、どこまでも白く、人形を想起させる。

 また、明らかに男性であるのに黒いルージュを引いていた。

 服は、スーツのようなフォーマルな服に、コートと言うよりも外套と呼んだ方がしっくりと来るモノに、翡翠に赤い組紐の紐タイというもので、スーツも外套も真黒というよりは、夜色のものだ。 

 それに、焦げ茶のロイド眼鏡を掛けている二十歳後半ほどに見える青年だ。

 極力、色実のない青年・・・にみえるなにか。この空間では、一番浮いて見える。

 とりあえず、スキアー=ヴァローナという。

 白い方は、限りなく白に近い淡い赤色の直毛を銀のサークレットで押さえ、先のだけを青く輝く布で纏めていた。

 瞳は、憂いを含んだ中にも気の強そうな淡い蒼玉色だった。

 肌は、何処までも白く、死人を想起させる。

 また、唇は珊瑚のように艶やかだった。服は、古ぼけた白の吟遊詩人のようなシンプルなローブ。装飾は、腰のベルトと豪奢なしかし、枷のような銀刺繍だ。

 数少ない色味の例外は、銀鎖で結ばれたサファイアで彫られた花がついたチョーカーぐらいである。

 白皙というのに相応しい静謐な容貌の二十歳と少しぐらいの女性だ。

 年相応の雰囲気を持っているが、不思議と若くも見える。

 名前をリュリュレイア=ユーティルネンと言う。

 スキアーは彼女をレイアと呼んでいたのは遥か昔のことである。

 既に鬼籍に入っているが、スキアーとは別の方法で自分を保存している。

 この霧のようなモノが満ちた空間を支配していたのは、いたいほどの『静寂』だった。

 しかし、その静寂を打ち破ったのは、スキアーの方だった。

 「未だ同じ・・・変わらぬ望みを抱くのだね」

 淡々とした、それでいてどこか喜色を滲ませた声にレイアは応えるものを持っていなかった。

 否。持っていないふりをした。

 くつくつと押し殺された笑い声は、おそらくレイアが振り向かない間は後ろに存在するスキアーが漏らしたものだ。


 スキアー=ヴァローナ


 千年前にレイアが死に別れた友人と呼べる数少ない一人の成れの果て。

 今では、ある一点においてのみ、レイアと通じる存在である。


 「・・・・・・私の望み、か。」

 「そう。純粋で単純であるが故に、ひどく複雑で難解なモノだ。」

 「っ!」

 彼の出現はいつだって唐突で、こっちの不意をつく。

 しかし目の前に立ち塞がるような、まともに姿の見える現れ方はしなかった。

 レイアが、作り出し支配するこの空間に、日参までは行かなくても、暇さえあれば、顔を出していてすら、そうしなかった。

 週四も顔出していても、視界に入ることは数少なく、死角に存在しているのが当たり前だった。

 「きちんと顔を見せてくれるのは随分と久しぶりよね。」

 「おや、機嫌を損ねてしまったかな。

 《白き隠者》、いや《白き深遠なる紡ぎ手》と言えばいいのかな?」

 「私の名は『リュリュレイア=ユーティルネン』よ。

  その呼称は、止めて欲しいわ、隠者なんて柄じゃないわ。」

 ロイド眼鏡の奥の瞳がすぅっと細まる。

 久しぶりに見た顔は変わらない。

 緩みそうになる頬を引き締めながら、レイアは答えた。

 「レイア。君は何故立て篭る?」

  ・・・彼の言葉の意味はよくわかっている。

 彼の隣りに立つのは、レイアの役目ではない。

 もう、居ない過日の友人達の役目でもない。

 二人が、道を分かち得ない理由があるのに、それを無視してここにいるのだ、リュリュレイアは。

 だからこその、スキアーの言葉。

 「私が、逆らっても行けないような事なのに?」

  彼女にしては、多少皮肉な物言いになってしまったのは仕方がない。

 「『レイアの望み』は、妨げとなってしまう」

 「知っているわ

  ・・・・・でも、知っているはずよね?」

 レイアの持つ望み。

 それがレイアをこの場所を紡ぎ続ける立場に引き止める唯一の蜘蛛の糸だ。

 そしてそれこそがレイアをスキアーと立場を違えている唯一にして、最大の理由。

 そしてそれこそがレイアをスキアーと同じく外に居ない唯一にして、最大の理由。

 「私の望みは、もう絶対に叶わない」

 「だからこそレイア、君と私とは違う。

  例え君が《白き隠者》として全てを厭い、全てに唾棄し、全てに背を向けようと・・・・・・。

  ・・・・・そう、自我を捨て去ろうとも。」

 かつて、レイア達は『居場所』を追い求めた。

 全てを知ろうとし、あらゆる魔法も魔術も希望も絶望すらも身のうちに溜めようとした。

 レイアの一番の望みであり、彼らの望みであり、自分の願いでもあったから。

 でも、今はそれを望んでいない。

 多少の異端でも、魔王クラスにも居場所はできたから。

 ・・・・・それでも。

「ジン」

 レイアは、スキアーが神影ジンエイである事を止めてから、始めてその名前を呼んだ。

 1000年前死んですぐ以来だ。

 レイアが、この空間を作り出し閉じ篭り、彼がそれを見つけ出してそれ以来に呼んだ。

 不意をつかれたように黙り込んだ彼に昔の面影を見出すのは簡単だった。

 (私達は決定的に変われないわ。)

 「でも、まだわかっていないわよね?」




 いつだって、


 どんな時だって、


 どこでだって、


 どんな想いの中にいたって、



 ―――私が欲しかったのは。






 「・・・・・・・私には全ての者の望みを叶える力がある。読み取る力も持っている。

  正確には、持ってしまったというべきなのだろうね。」

 「例外なのは、私が、貴方と同じであるから。

  誰でも自分の姿や望みを見ることはできないわ。

  まして、貴方なら、尚更、難しいの。」

 「なるほど。そう思うのならば、それも一つの真実の断面だろう。

  しかし私はレイアの望みがわかっている」

 レイアはなんだか淋しいような、虚しいような気分になってらしくないとは思うが首を振る。

 そうではあるけれど、そうじゃないのに。

 そうじゃないけど、そうではあるけれど。

 「何が違うのかね?君の望みは私の『消滅』だろう」

 これが、白き隠者と黒き傍観者の間に出来た深い深い、地獄の底さえも通り過ぎるほどの溝。

 垣間見えるたびに沸き起こる絶望感を、どう言い表せるというのだろう。

 百万言を弄しても、できないだろう。

 五人の中で一番初めに死んだ《黒砲姫》の味わった闇より、なお暗く。

 非道な方法で《占札使鬼フォーチュンテラー・スピリット》を作った《初代管理人》の無力感よりも、なお虚ろに。

 彼女を蝕んでいく。

 「それは望みを叶えるための通過地点でしかないわ、残念ながらね。」

 「何を・・・・・・」

 「ねえ、ジン」

 レイアは哂う。

 哀しげに嗤う。

 《黒砲姫》のように純粋で優しくあったなら。

 いやせめて、普通に可愛らしい女の子であったなら。

 泣いてしまいたかったけれど。

 「私はずっと、」

 1000年前から、ずっと願いを途切れさせていない願い。

 「あの頃に戻りたいだけなのよ・・・・・・?」




  いつだって、

 

  どんな時だって、


  どこでだって、

 

  どんな想いの中にいたって、



  ―――私が欲しかったのは。




  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


  貴方を含めた5人過ごしていた時間。

  

  セレンティーナが、お菓子を焼いて


  私が、お茶をいれて、


  ジンが、言葉で遊んで、あの人が嗜めて、


  アイツが困ったように見守る時間。


  あの頃の私や貴方達。


  御伽噺のように古い、二人がまだ友人で在れた頃の―――




 「・・・・・レイア・・・・・?」

 その声はあまりにも昔のままだった。

 「・・・・・・ただの、幕間の小話よ。

  それだけ、それだけのお話だわ。

 (貴方は、もう私を『リュリュ』とは呼ばないじゃない?)」

 レイアは、そう言って、顔を手で覆い首を振るだけだ。

 彼にしてみても、解らないのだー哀しいのか、虚しいのか、怒っているのかさえ、解らない。

 「・・・・・・・・レイア、真実と言うのは、一つではないのだよ?」

 「それでも、貴方が裏切り者と言う事には変わりないのに。」

 「だから、こそ、なんだけどね。

  ・・・・・・・いいニュースかどうかはともかく、あの子が《使鬼スピリット》と契約するみたいだよ。」

 「・・・・・そう、なの?」

 「嬉しくないのかい?」

 「さぁ、どうなんでしょーね。

  事態が動くと言う事は、結末に向かうと言う事だから、良きにしろきにしろね」

 「・・・・・・・・ま、ともあれ、またね、と言うところだ。

  それとね、私が全く傷つかないと思わないで欲しいな。」

 刹那、ジンエイは、一気にレイアとの距離を詰めると、軽く・・・それこそ、かすめるようなキスとその言葉だけを残し、現れたとき同様、消えた。

 リュリュレイアが、それを認識した時には、ジンエイの姿は無く、誰も見る者もいなかったが、顔を赤くしていた。

 「・・・・・・相変わらず、わからないわね。

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・余計な事まで想い出してしまったじゃないの。」

 そして、連鎖的に、あの一夜まで想い出してしまったようで、更に顔を赤くしてしまった。

 一応、レイアより年上なのにジンエイは自分よりも年下に思えてしまう時がある。

 「・・・・・・・なんにせよ、私にはまだ動けず、待つしかないんだけどね。」

  それでも、神影が欠けても、自分が欠けても、物語は不可解なままなのだろう。

 だから、この結界空間を維持し続け、待とうと思う。

 「だから、・・・、見ていてあげて。」







ちょっと、整理。


ジンエイ/スキアー=ヴァローナ

黒尽くめ紳士。異世界トリップな元現代人、現幽霊。


リュリュレイア=ユーティルネン/白き隠者

白尽くめ女性。気の強い凛とした女性。

性格からはあまり、想像できないが、白魔法や補助系魔法を体系立てた白魔女。


セレンティーナ/あの子/黒砲姫

五人の中で一番最初に死んだ子。おっとりほわほわ。

性格に似合わず、黒魔法系を得意とした移動砲台。某ピアニィ様系。


あの人/《初代管理人》

占札使鬼フォーチュンテラー・スピリット》を作った人。

五人の中では2番目に長生きしたが、還暦は迎えていない。

と言うか、この人が一番アレ。人当たりがいいだけに始末が悪い。


あの子の旦那/マルコ

白き賢者に最後に呼ばれた人、上記の四人の仲間。

タンク系。《初代管理人》の諸行を知っていて放置。

学園の学長として、天寿を全うした。



また、この物語は、語り手が基本的に三人称チックですがコロコロ変わります。

形式としては、翻訳されているので、一部、現代語にわざわざ直していたり、食材なども現代に準じていますが、実際は違う植物などの可能性があります。



たまに、語り手は変わります。




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