シュア
「……はぁ。で、それはいつぐらいに起こるのかしら?」
「う~ん、だいたい今年の10月くらいかな。もし来てくれるって言うなら、学校関係の休学処理はこっちでやっておくわ。あ、アリーちゃんはもう大会で優勝してるし、そっちはしなくてもいいわね」
「10月なら、ベイも不要よ」
「へ~~。つまり、ベイ君は今年優勝するってわけね」
「負ける要素がないわね」
正直、俺に勝てる奴がいたら、そいつはかなりやばい奴だと思うんだが。そんな奴がいるとは思えないし。大丈夫だろう。多分……。
「ふ~ん。まぁ、ベイ君は私に勝ってるからね。優勝ぐらい楽にしてもらわないと困るわね」
「お姉さまに、こいつが!?」
「ええ。そうよ、シュアちゃん。軽く、あしらわれちゃった」
「こんな奴に、そんなことが出来るはずありません!!!!しかも、お姉さまは王国の騎士団で特殊部隊を任されるほどの実力!!そんなお姉さまが負けるなんて!!!!」
「う~ん、でも本当なの。軽い遊び程度だったけど」
「……大丈夫です、お姉さま!!お姉さまが本気でやれば、こんなやつ。お姉さまの足元にも及びません!!」
シュアは、俺を鋭く睨みつけてくる。怖い。いや、さっきからずっと睨まれてたようなもんだけど、今は、更に鋭い目つきで見られている。まるで、憎しみでもこもっているかのような目だ。俺、そこまでのことしたかな?
「無理ね。あなた達が、いくら本気を出そうが、2人でかかろうがベイは倒せないわ」
きっぱりアリーは、シュアとシアに向けてそう言い放つ。 ……アリーさん、それって煽りになるのでは? やめて下さいよ。シュアの目つきがきつくなる。
「……へぇ」
「そんなことが、あるはずがない!!!!」
アリーの言葉に、反発の声を上げるシュアに対し、シアは何故か微笑んでいる。 ……なんだろう。穏やかな笑みに見えるのに、薄ら寒いものを感じる。俺の方を変な目で見てくるし。あれは、どういう目だ? 品定めでもされているかのような気分だ。
「……やっぱり、ベイ君って面白いわね。アリーちゃんに、そうまで言わせるなんて。よっぽど信頼されてるのね」
「当然。私の夫よ?まぁ、そんな力がなくても、ベイを愛しているけど」
「ヒュ~~!!羨ましい発言ね!!」
「お姉さま!!これだけ言われて、黙ってるんですか!!」
「う~~ん、そうね~。でも、私が軽くあしらわれたのは事実だから」
シアが、俺とシュアを見比べる。
「じゃあ、こうしましょう!!シュアちゃんが、ベイ君と練習試合をする。それで、はっきりさせましょう!!」
「え~~」
「いいでしょう。望むところです!!」
シュアは、俺に向かって敵意を向ける。
「……ベイの相手にもならないわよ?」
「それならそれで、シュアちゃんにベイ君の凄さが分かっていい。と、いうことで。ねぇ、ベイ君。それでいいわよね?」
「え?いや、なんでそうなるんですか?」
「だって、アリーちゃんがそこまで言うんだもの。本当にしろ、嘘にしろ、その実力を見せてもらわないと。私はいいにしても、シュアちゃんの収まりがつかないわ」
「叩きのめしてあげます!!!!」
なんで、シュアはそんなに乗り気なんだ。 ……これは、相手をするしかないのか。
「よし、決定!!では、闘技場を借りに行きましょう!!」
「……はぁ、ベイ、相手をしてあげて。言っても分からないなら、こうするしか無いわ」
う~ん、アリーがそう言うなら、やるしか無いか。俺は、シュアに睨まれながら、闘技場に移動した。
*
「よ~し、ここなら大丈夫だから。二人共、思いっきり戦っていいわよ」
闘技場をあっさり借りれるあたり、流石、生徒会長というところだろうか。個人的には、戦う話が流れて欲しかったが。仕方ないので、中央でシュアと向き合う。
「……覚悟するのね」
「……」
やたら、シュアは俺に向かって敵意を向けてくるが、本当になんでだろうな。特に、何かした覚えは無いんだが。
「あれ、ベイ君は腰の剣を抜かないの?」
「ベイが抜くわけないでしょう。シュアごときに」
……アリーさん、その言葉でシュアの俺を見る目つきが更に鋭くなったんで、やめてもらえませんか。そろそろ目を閉じる勢いで鋭いんですけど。
「う~ん、じゃあ、このまま始めってっことで!!」
「死ね!!!!」
適当な開始の合図とともに、シュアが魔法を撃ってくる。いや、死ねって。確実に、さっきのアリーの煽りが効いてるな。聖属性の魔法の弾丸を10発、同時に展開して、俺に向かって撃ってくる。これ、まともに食らったらマジで死ぬやつだな。
「……」
正直に言うとめんどくさい。俺が聖属性を使って相殺すれば楽だが、普通は聖属性魔法なんて、大抵の人間は使えない。仕方ないので、土魔法の弾丸を作り、撃ち当て合って消す。
「無詠唱くらいは、出来るみたいね!!」
シュアが、剣を振りかぶり、切りかかってくる。適当な威力の魔法の弾丸を撃って牽制するが、器用に避けて、止まってくれそうにない。しかも、剣で魔法をいなしている。結構強いな。
「シュアちゃんは、いろんな家の人の技を見て練習してたからね。あれぐらいだったら出来るのよねぇ」
「サルバノ家の技かしら?便利なものね」
う~ん、確かに、あのいなしは厄介だ。まともに魔法が当てられそうにない。そうこうしている間に、シュアに接近された。
「剣を抜かなかったこと、後悔するといいわ!!」
シュアが、俺を袈裟懸けに切ろうとする。一步下がって避けるが、シュアも逃すまいと連続で切りかかってくる。……ふむ。
「あ、シュアちゃん、後ろ!!」
「……えっ」
シュアの剣を躱し、俺はシュアの後ろで魔法を発動させた。後ろから、雷の弾丸がシュア目掛けて、射出される。
「ちっ!!」
慌てて、剣で魔法をいなそうとするシュアだが、雷の弾丸はいなされる直前で2つに分裂させた。片方はいなされたが、もう片方はそのままシュアに命中した。
「うああぁぁぁぁぁ!!!!
「シュアちゃん!!!!」
「うっ、小細工を……」
普通なら、魔法は放って終わりだが。集中していれば、ある程度操作できる。皆と訓練している時には、普通に5、6個に分裂するときもあるので、これぐらい普通じゃないか?と思ったが、そうでもないらしい。俺は、少し怯んでいるシュアに近づき。
「くっ、この!!」
俺目掛けて、剣を振りぬいてくるシュアの手首を掴んで、投げた。
「うわあ!!」
そのまま、シュアは地面にぶつかる。手首を拘束したまま。俺は、シュアの首前に手を構えて、いつでもとどめをさせる状態にした。喉を潰すとか、絞めるとかそんな感じかな。まぁ、実際にはやらないけど。
「う~ん、そこまで!!ベイ君の勝ち!!」
シアの勝利判定の声が響く。俺は、急いでシュアの拘束を解いて離れた。
「……くっ」
シュアは、悔しそう俯いている。少しして立ち上がると、俺の方を向いて。
「……悔しいですが、少し強いのは認めてあげますよ」
と、言った。素直なところもあるんだなぁ。
「でも、本気で戦えば、あなたなんて、お姉さまの足元にも及びませんからね!!」
「え、ああ、どうだろう?」
「及ばないんです!!」
う~ん、戦ったことで、シュアの態度が少し柔らかくなった気がする。ほんの少しだけどな。