シュテルン
朝の賑やかさもどこえやら。今の俺は、退屈な時間を過ごしていた。アリー達の作った朝ごはんを食べ、アリーとサラサと登校。アリーは、今日も神魔級回復魔法の研究。そして俺は、初級魔法の授業を受けていた。
「このように、最初は簡単な呪文でも、威力が大きくなる度により長い制御呪文が必要とされ……」
あっ、はい。知ってるんですよ、それ。何回も魔法書を読んで、繰り返し目にした一文だ。周りを見ると、俺以外にも知ってるよそれ。みたいな雰囲気の生徒が何人か居る。まぁ、初級だしな。そんなもんだろう。 ……ああ、外はこんなにいい天気なのに。知っていることを聞くために座ってるのは、かなりめんどくさいなぁ。でもこれ、出ないといけない授業なんだよね。あれか、初歩的な知識はこれで教えましたよっていう、一応授業でも言っときましたからねみたいな授業なのかな、これは。
「初級はとても簡単なので、無詠唱を覚える練習に最適です」
……もうちょっとおわるまで時間がかかるかな。退屈すぎて窓の外を眺めていると、カラスが空を飛んでいる。木の一本に止まり、羽を休めているようだ。今は、外でのびのびしているカラスが羨ましい。でも、あのカラスちょっと変わってるな。頭のところの毛がやや立ってるような。
「お、時間ですね。では、今日はこれでおわります」
おお、やっとおわった。今度から、ミズキに神魔級回復魔法の呪文を写してもらって持ってこようかな。この授業内容だと、あまりにも暇すぎる。
「あ、あの、ベイ君」
「おーい、ベイ。お昼を一緒に食べよう。……むっ」
「えっ?」
俺は、声のする方に顔を向ける。すると、ニーナとサラサが俺の方に近づいてきていた。ああ、お昼だしな。二人共誘ってくれたわけか。有り難いな。
「ああ。サラサ、ニーナ。じゃあ、3人で一緒に食べないか?」
「は、はい!!」
「まぁ、私もそれでいいが。……サラサ・エジェリンだ。戦士科に所属している。よろしくな」
「え、エジェリン。……に、ニーナ・シュテルンです。……よろしくお願いします」
「……シュテルンか」
2人は、お互いの名前を聞いてお互いを観察するように見つめ合っている。やっぱり、ニーナは勇者の子孫なんだろうか。まぁ、取り敢えず食堂に行こう。俺は、2人を先導して食堂に向かった。
「ふむ」
「え、えっと」
座ってから、2人はお互いに見合ってばかりで話をしない。腹の探り合いみたいになっている。それじゃあ、何も話は進まないんだよなぁ。こういう時にコミュニケーション能力ってやつがいるのだろう。俺も一応持ってはいるが、そんなにレベルが高くない技能だ。だがしかし、ここは俺が話しの入口を作るほかないだろう。
「もしかして、ニーナも勇者関係者?」
取り敢えず俺は、ざっくりとそう聞くことにした。
「は、はい!!そ、そうです。シュテルン家は、そういう家なんだよって、おばあちゃんに教えてもらってて。えっと、エジェリンって家にも、聞き覚えが……」
「うむ。私の家も、勇者がいた家系だ。やはり、シュテルン家の者だったか。まぁ、仲良くしてくれ」
「は、はい。改めて、よろしくお願いします」
2人は、握手を交わす。うん。すんなり仲良くなれたみたいで良かった。
「あ、あの。申し訳ないんですが、アルフェルトって家は、聞いたこと無くて……」
「うん?あ~~、俺は勇者関係じゃないよ。妻が、そっちのほうでね」
「え!?つ、妻ですか!!……まさか、サラサさんが!?」
「う~ん、残念ながら、私はまだ妻候補だな」
「アリー・バルトシュルツっていう子が、俺の妻になる予定なんだ。そのおかげで、勇者に関しては、人よりちょっと知ってるってだけさ」
「バルトシュルツですか。確か、神魔級召喚獣を従えた大魔法使いの家系、でしたっけ。へ~~、ベイ君は、そんな家の人とお付き合いされてるんですねぇ」
「まぁ、ほとんどアリーとだけだけどね。今度、ニーナにも紹介するよ。アリーも、会ってみたいって感じだったし」
ニーナの話は、昨日のうちにしている。シュテルンて言うんだって、て言ったら、ちょっと見てみたいわね。と言っていた。
「そ、そうですか。私なんかが会っても、大丈夫でしょうか?」
「ああ、アリーはいい子だから。ぜんぜん、大丈夫だと思うよ」
「私、子孫って言っても、特別魔法が上手いとかそういうのでもないんで。……少し、不安です」
「平気だって。アリーなら、実力の良し悪しで人を変に扱ったりはしないさ」
「うむ。アリーさんは、出来た方でいらっしゃるからな」
ニーナは、その言葉にどこかホッとした様子だった。
「そう言えば、ニーナはシュアに話をされていないのか?」
「シュア?生徒会長のことですか?」
「その分だと知らないか。ならいいんだ」
「あ、はい、多分知らないことだと思います」
シュテルン家は、声をかけられていないのか。交流がないからか。はたまた巻き込みたくないからか。そもそも声を掛ける気がないのか。どれだろうな。
「シュテルンって、どんな家系なんだ?」
「えっと、シュテルンは代々、回復魔法士の家系です。勇者だった私の先祖も、聖魔級の回復魔法を自由自在に使って仲間を助けたのだとか」
「聖魔級!!それはすごいなぁ」
「ですよね。……私も、そんな先祖のような立派な回復魔法士になれたらいいなって。そう思って、この学校に来ました」
「ふむ、回復魔法士になるなら、他にもいい学校がありそうなものだが」
「実は、この学校は先祖が卒業した学校でもあるんです。それにここには、先祖が書き記した神魔級、回復魔法書があるのだとか」
……え。あの本、ニーナの先祖が書いたの?
「そうなのか?」
「ええ。私が行った時には、誰かに借りられていたようなのですが。是非、私もその研究がしてみたいんです!!」
ああ、俺達だ。借りて行ったの。……この前、返したらしいから、今ならあるんじゃないかな。
「多分、借りてたのアリーだから、今ならあると思うよ」
「ほ、本当ですか!!あ、後で見に行きます!!」
ニーナは、俺の言葉を聞いてそわそわしている。早く借りて読みたいんだろう。でも、すごい分厚いからな。苦労するんだろうなぁ。
「あ、あの。その。アリーさんは、読んだ感想とか言ってなかったですか?」
「感想?そうだなぁ~。呪文が長い。大人数で唱えることを前提にしている。魔法陣を書く、素材集め自体が難易度が高い。つまり複雑で難しい魔法だ。って言ってたね」
「なるほど。やはり、神魔級ともなると、一筋縄では行かないんですね」
ニーナは、真剣な表情で考えている。それだけ、回復魔法への思い入れが強いんだろう。俺も、普通の回復魔法が使えれば、もうちょっと思いれ深く学べたかもしれない。まぁ、ある意味で回復魔法には思いれ深い状況ではあるんだけども。
「まぁ、それはそれとして。そろそろ、弁当を食べないか?私は、お腹が減ったんだが」
「おっと、そうだな。話に夢中になってた」
「あ、そうですね。そうしましょう」
「今日は、どんな弁当かな」
「うわぁ、ベイ君のお弁当、すごい美味しそうですね」
「流石、アリーさんだな。既に見た目で、完成度の高さが分かる」
2人の推測通り、アリーの作った弁当はとても美味しかった。これで、午後からの授業も頑張れるな。ありがとう、アリー。
ズドオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォンンンンンンンンンンン!!!!!!!!
……遠くで、どこかで聞いたような轟音がまたした。
「(殿。……非常に申し上げにくいんですが)」
「(……アリーだろ?)」
「(はい)」
あのアリーが、二度もこんな轟音を出すとは。余程、難しい魔法なんだろう。俺は、魔力切れで疲れているだろうアリーのもとに、2人と別れて急いだ。