姉
結局、音の原因は不明ということで、解散ということになった。念のため、注意して帰るように言われたが。原因を知っている俺としては、特に注意する必要もない。しかし、疲れたな・・・。訓練で鍛えているから、身体は全然動き足りないと言っているが、やはり初対面の人との出会いや、新たな環境に入ることによる精神的な疲れは出るものだ。この疲れを、飛ばす為に早く帰ろう。今の俺には、部屋に帰れば、可愛いお嫁さんが待っているのだから・・・。皆とも、周りを気にせず喋れるし・・・。
「ふーん。悪くは、無さそうね・・・」
「・・・・・」
目の前にわざわざ、立ち塞がるように立つあたり、俺に用ってことだよな・・・。でも俺は、この人に、見覚えが無い。髪は金髪で長め、動きやすそうな服装に、腰には剣。感じからして上級生か?人違い・・・、ってわけでも無さそうだが・・・。
「あのー、どこかで会いましたっけ?」
「いえ、初対面よ。ごめんなさい、アリーちゃんの夫ていう人が、どんな人か気になってね・・・」
・・・なるほど、アリー絡みか。ならば、甘んじて受けよう。俺は、アリーの夫だからだ。
「アリーのお知り合いですか?」
「ええ、昔から、仲良くさせて頂いてるわ。でも、あなたのことなんて、聞いたこともなかったもんだから。ビックリしちゃって」
「あー、まぁ、アリーは、そういうことを話したがる方でもないですからね・・・」
「確かにそうかもね・・・。会った時は、大抵魔法の話ばっかりだったし・・・。でも、あのお祖父さんがよくOKしたものね。アリーちゃんの父親も・・・」
「・・・・実は、そこら辺は、まだ交渉中でして・・・」
「あー、やっぱり・・・。まぁ、それも仕方ないわね・・・」
やっぱり、そうなんだなぁ・・・。まぁ、アリーとの仲を邪魔するなら、何であろうと容赦はしないが・・・。
「・・・・・うーん、でもそこまで、アリーちゃんが引かれそうなものを持っているとは思えないわね・・・。まぁ、人は外見で、全てが分かるわけでもないけど・・・」
「はぁ・・・。普通で、すみません・・・」
「いえ、・・・顔は、いいほうだと思うわよ。でも、魔力は普通に感じるのよねぇ・・・」
いいほうか・・・。なんか、ホッとしたような、お世辞を言われたような・・・。魔力が普通なのは、能力でごまかしてるからだけど。やっぱり、見る人はそういうところ、見ようとしてくるんだなぁ・・・。隠蔽しといてよかった・・・。並じゃないなんて、知れてもいいこと無さそうだし・・・。
「うーん、見てても、埒が明かないわね・・・」
そう言うと、いきなり剣に手をかけ、俺に斬りかかろうとする。・・・この剣の抜き方、一片の躊躇も無く、切ろうとしているな・・・。仕方ないので、剣を抜く前に柄の先端を手で押さえて、止めた。
「おっ・・・」
女性は、剣を抜けなかったことに驚いて、押さえている俺の腕を見つめている・・・。
「・・・こういうのは、ちょっと良くないんじゃないですか?短絡的すぎるというか・・・」
「・・・ふはははははははははは!!!!!!!・・・やっぱり、普通じゃないわね!!ふふっ、シュアちゃんの目もまだまだね・・・」
・・・シュア?ということは・・・。
「もしかして、シュア・ゲインハルトさんのお姉さん?」
「あら、知ってたの?」
「ええ、姉がいるということだけは・・・」
「そう、シア・ゲインハルト。それが私よ。よろしくね、ベイ・アルフェルト君」
「はぁ・・・。よろしくお願いします・・・」
シアとシュア・・・。一文字違いかぁ・・・。覚えやすいな。
「まぁ、剣を振り抜けなかったのは驚いたけど、これでもまだ足りない気がするわね・・・。もうちょっと、君の実力が知りたいなぁ・・・・・・」
「・・・・・」
・・・・剣に、魔力を貯め始めている。・・・しかもこれ、聖属性の魔力か・・・。使える人間も、いるんだなぁ。俺は別として・・・。うーん、安易に相殺しても、俺も聖属性の魔力を使えますよ、と言うようなもんだし・・・。さて、どうしたもんだか・・・。
「じゃあ、受けてみ・・・」
「よっと・・・!!」
「へっ・・・」
単純に、足払いにした。体勢が崩れた拍子に、集中力が散って、魔法が発動する前に消える。シアは、そのまま尻餅をついた。
「痛た・・・」
「大丈夫ですか?」
「もう・・・、こういうのは、腕で抱きとめながらやるもんでしょ・・!!!」
いや、そんな事言われても・・・。そう言うものなのか?
「はぁ・・・、うん、やっぱり普通じゃないね、君。少しは分かった気がするけど、まだまだ何か隠してる気がするなぁ・・・・」
埃を払いながら、シアは立ち上がる。・・・そんなに興味を持たれても困るなぁ・・。実力行使じゃなくて、サラサぐらい、無理のない付き合い方にして欲しい。
「まぁ、残りは、次の機会にでも教えてもらうとしましょう・・・。今日は、君の勝ち!!でも、次は私が勝つからね!!」
いつから、勝負になっていたんだ・・・?そんな俺の脳内ツッコミをよそに、シアは、背を向けて校舎に向かっていく。
「じゃあね、ベイ君。今度は、アリーちゃんと一緒の時に会いましょう」
「・・・・」
アリーと一緒の時に・・・かぁ。厄介事の匂いがするなぁ・・・。・・・帰ったら、アリーに相談しよう。俺は、校舎に戻るシアを見送った後、アリーの待つ部屋に向かって歩き出した。
*
「うーん、悪く無いわね、彼・・・。結構、気に入っちゃったかも・・・」
流石、あのアリーが選んだだけの事はあると、シアは1人で感心していた。魔法は見ることが出来なかったが、自分の魔力も見えていたようだし、恐らく、そちらも普通では無いだろう。自分も、並では無い努力をして鍛えてきたつもりだが。彼はどこか、それとは異質な強さに思えた。そう思ったシアは、ベイに興味を感じずにはいられなかった。それと、同時に・・・・・。
「ふふっ、次、いえ、その次くらいには、まともに勝負がしたいものね・・・。久しぶりに、面白くなってきたわ・・・・」
彼女の抑えきれない気持ちを示すように、シアの身体から、聖属性の魔力が溢れ出ていた・・・。
*
ブルルルッ、なんだ・・・いきなり寒気が・・・・。風邪かな?帰ってゆっくり休むか・・・・。
「(こん!!!)」
「(ふむふむ、ご主人様。シデンが温めると申しております。勿論、我々も肌を直接合わせて、温める用意があります!!!)」
「(マスター!!いつでもいけます!!)」
「(は、恥ずかしいですが、主のためなら・・・)」
「(私も、いつでも・・・)」
「(暖かさなら、火属性のあたしの出番よねぇ!!)」
「(え、えっと・・・、頑張ります!!!)」
「(・・・ミエル様も、大胆になってきたっすねぇ。私達には、まだ難易度高いっす・・・)」
「(い、1回、水着で触れ合ったけど・・・。まだ、慣れないわね・・・)」
「(・・・私は、端で見ておくことにします・・・。恥ずかしいので・・・)」
うーん、皆の気遣いが嬉しいなぁ・・・。でも、寒気は一瞬だけだったような・・・。まぁ、いいか・・・。軽く、訓練したらゆっくり休もう。
「(こん!!)」
・・・そう言えばさっき、ミルク、シデンの言葉が分かってたみたいだなぁ・・・。シデンの教育は、ミルクに任せるというのも、有りかもなぁ・・・・。危険な気もするけど・・。取り敢えず、そこら辺も含めて、アリーと相談しよう。アリーに早く会いたくて、俺は早足で、部屋に帰った。