紫電
「おーい、そろそろ集合時間だぞ!!迷宮の外に、集まるように!!」
なんだかんだで、かなり時間が経っていたようだ。巡回する教員の声が耳に入る。うーん、結局あのキツネは、どうするべきかな・・・・。・・・一旦ニーナを置いてきてから、来ることにしようかな・・・。
「取り敢えず、俺達も迷宮から出るか・・・」
「はい」
そういえば、結局最後まで、キツネの活躍で魔法を撃たせてあげられなかったな・・・。魔物に助けられるという、レアな体験はできたけども・・・。
「・・・魔法操作の感覚は、分かった?」
「え、は、はい!!・・・・で、でもまだ、そんな練習できてないので・・・。分からなかったら、また教えてもらってもいいですか・・・?」
「ああ、いいよ。いつでも聞いて」
やっぱり、一回じゃあ、自信はつかないよなぁ・・・。
「(さらっと、次会う口実を作りましたね、この眼鏡っこ。うーん、やりますね・・・・)」
「・・・・」
そこまでニーナは、考えてないと思うんだが・・・。ほら、今も感覚を覚えようと、必死に思い出してるっぽいし・・・。
「そう。こうで、こんな・・・。あ、でもなんか違う気がする・・・」
「・・・・・」
普通に、また聞きに来そうだなぁ・・・。そうこうしている内に、迷宮の外に出た。
「(ほう・・・、いい後輩ですね。迷宮を出て、なおついてくるとは・・・。いい忠誠心です)」
・・・・本当に、迷宮から出て付いてきてるよ。いいのか?普通の魔物が外にいると、魔力回復が遅くなって、弱っていくだけだぞ・・・。・・・・これで、このままほっとくことも、できなくなった訳だ・・・。
「・・・・ちょっと、待っててもらっていい?」
「え、・・・はい、分かりました」
「すぐ戻るから」
そう、ニーナに言うと、俺は魔力反応のある草陰に入っていく。
「こん!!」
「・・・・お前、根性あるなぁ・・・」
嬉しそうに、キツネは擦り寄ってきた。うん、落ちてるな。間違いない。・・・ここなら、誰も見てないか・・・。俺は、召喚石を取り出す。
「これに魔力を流すんだ。出来るかな?」
「・・・・こん?」
・・・・伝わらないか。なら、念話で意志を伝えてみよう。これに手を置いて、こうするんだ。
「こん」
お、うまい具合に伝わったようだ。即座に、前足で石に触れて、魔力が流れる。・・・・紫色に石が変わった。ということは、雷・・・・。てっきり、火だと思っていたが・・・。
「まぁ、これからよろしくな・・・。えっと、シデンでいいかな。お前の名前だ」
「こん!!」
嬉しそうにしているので、頭を撫でる。即座に、石に収納して、俺は、ニーナの元に戻っていった。
「(わーい、歓迎するね!シデンちゃん!!)」
「(うむ、これから共に、主に尽くそう・・・)」
「(ふふふ、ご主人様の為に、早く人化するのです・・・!!!)」
「(よろしくな)」
「(うーん!!可愛い!!もふもふしたい!!)」
「(私達にも、遂に後輩が・・・!)」
「(一番下は卒業っすね。でも、この娘もまた、ミズキ地獄に挑むんすか・・・。鍛えてあげないと・・・)」
「(そうね。きついものね・・・)」
「(・・・後輩のため、頑張って教えてあげないとですね・・・)」
「(こん!!!!!!!????????????)」
シデンは、魔石の中にいる皆に声をかけられて、驚いているようだ。まぁ、いきなり、すごい強い魔物に囲まれるわけだから、そうもなるよな・・・。頑張れ、シデン・・・・。
「お待たせ、それじゃあ行こうか?」
「・・・なにか、あったんですか?」
「ああ、助けてくれた魔物に、お礼を言ってきた」
「なるほど・・・」
まぁ、連れてきてるんですけどね・・・。
「よーし、皆揃ったか。では、初めての迷宮探索で戸惑った者もいると思う。魔法を学ぶということは・・・」
戻ると、教師が授業のまとめに入る。今日はここで、現地解散かな?あまり身体も動かせていないから、帰ったらアリーと一緒に、訓練にでも出ようかな・・・。そう、思っていると・・・。
ズドオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォンンンンンンンンンンン!!!!!!!!!
「!!!!!!!!!!!!!!???????????????」
いきなりの轟音に、生徒や教員までも、音のした方を向いて黙る。・・・・一体、なんだ。何をしたらあんな音がする・・・。
「(ああ・・・・・・・。すいません。あれ、やったのアリーさんです・・・・)」
「(え・・・・・・)」
ミズキがそう喋る。・・・・ということは、ミズキ地獄を受けたアリーが、あれをやったということか・・・・。・・・・アリー・バルトシュルツ。俺のお嫁さんで、天才魔法使い・・・。その力は、不抜けるどころか、ここまでの威力を出すようになっているのか・・・・。さすがというか、何と言うか・・・。
「(取り敢えず、行ったほうがいいよな?)」
「(そうですね・・・。お願いします・・・)」
皆が、判断に困って慌てている間に抜け出し、俺は転移で、アリーのもとに向かった。
「アリー・・・・。って、なんじゃこりゃ・・・」
そこは、迷宮の中の一つのようだった。木々は無くなり、大きく地面はえぐれている・・・。
「う、うう、ベイ・・・・」
「殿、ここです」
「アリー、ミズキ・・・。これは、またすごいな。迷宮の外にまで、音が響いてたぞ」
「・・・・まぁ、やり過ぎたわね・・・。ミズキが、全然捕まらなくて・・・、つい・・・・」
「アリーさん、本番でいきなり試したことのない魔法を使うのは、どうかと思うのですが・・・」
「昔、お祖父様がやっていてね・・・。あれなら、行けると思ったんだけど・・・。結構、難しいものね。お陰で、魔力切れよ・・・・」
凄まじい魔法もあるもんだな・・・。取り敢えず、アリーを回復させよう。聖魔級回復魔法も、疲れている今のアリーになら、撃ってもそこまで、変な効果は出ないはずだ。というわけで、アリーの魔力を、急速回復させる。
「ふぅぅ!!・・・はぁあ!!・・・う、うん。元気になってきたわ・・・!!」
・・・・確かに、魔力は戻ってきているようだが・・・。俺にも、にじり寄ってきている・・・。・・・ここらへんでやめておこう・・・。これ以上は、前みたいになりそうだ。
「チュッ」
アリーが俺に抱きついて、キスをする。押し倒す、とまでは行かないけども、キスはしたいらしい。いや、俺も嬉しいから全然OKだけど。その前に、ここを直して、離れないとなぁ・・・。
「土魔法で、地面を戻して・・・・。さらに、適当に回復魔法で木々を再生させる・・・。っと、これでいいかな・・・」
我ながら、これだけの修復をこの短時間でできるとは・・・。俺もすごくなってるな・・・。皆のお陰だけど・・・。
「チュッ」
「よし、一旦ここを離れよう。家に送るよ、アリー」
「分かったわ、ベイ。チュッ。ありがとう」
そして俺達は、アリーを一旦送り届けてから。また、迷宮の集合場所に、ひっそり戻った。
*
「で、結局、アリーちゃんを仲間にすることは、出来なかったのね。シュアちゃん・・・」
「ええ。・・・すいません、お姉さま」
「・・・・まぁ、アリーちゃんですもの。こっちが持ってる情報を明かさない限り、協力しては、くれないでしょうね・・・」
「・・・どうでしょうか?今は、魔法より、男にうつつを抜かしているようですが・・・・」
「男?あのアリーちゃんに?・・・・そんな、まさか・・・・・」
「いえ、事実のようです。もう、結婚の約束もしているのだとか・・・・」
「うーん、占いでは、そんなこと言ってなかったような・・・・?どんな男なの?」
「あいつは・・・・」
突如、シュアは黙り、顔が赤くなっていく。
「・・・・?どうしたの、シュアちゃん?」
「い、いえ!!・・・な、なんでもございません!!何も取り柄の無さそうな、そんな男でしたよ!!」
シュアは、ひどくうろたえて、そう言った。
「うーん、でもアリーちゃんの夫かぁ・・・。これは、会っておく価値がありそうね・・・」
そう言うと、彼女は口元に手を当てて、微笑んだ。