キツネ
全身の毛は、所々に血が付いているのか、真っ赤に染まっており。息も、絶えかけているように見える。見た目的には、キツネに近いが、少し小さい。
「うーん・・・」
「可哀想・・・」
近づいて調べる。よく見ると、片足が無く。鋭利な刃物で切られたようになっていた。他の生徒の仕業だろうか・・・。
「・・・・」
流石に、魔物といえど、こういう状態になっているものを見逃すのは忍びない。襲ってきているなら別だが・・・。それに・・・・。
「あ・・・」
さっきからニーナが、手を出そうとしては、気を落としている。確か、回復魔法が得意と言っていたが、欠損をしていて、ここまで傷ついていると、上級まででは回復が間に合わないだろう。逆に、苦しみを長引かせてしまう場合もある・・・。それで、迷っているんだろう・・・。・・・仕方ない。
「よっと・・・」
「え・・・」
俺は、聖魔級回復魔法をかける。切られ、無くなっていた足が、徐々に回復し、息も正常に戻っていった。しばらく、治るまでそうしていたが。ニーナは、唖然として俺を見ていた・・・。
「くうぅ~ん」
お、反応があった。これでもう大丈夫だろう。俺は、すぐに回復をやめる。やり過ぎると、あれになってしまうし・・・。
「・・・こん」
「・・・・こん?・・・・鳴き声がこれか・・・」
さっきまで、虫の息だった魔物が起き上がる。俺を見ると、嬉しそうに身体をすり寄せてきた。うーん、可愛いじゃないか・・・。敵意もないようだし、抱き上げる・・・。おお・・・・、もふもふだぁ・・・・!!!!
「こん!!」
心なしか、こいつも嬉しそうだな。うんうん、治してよかった。すぐ攻撃されるかも、とか思ってたけど、杞憂だった。
「(・・・ご主人様、もうちょっと・・・、そうじゃなくて、両脇に手を入れて、高い高いする感じで抱いてみてもらえますか?)」
うん?なんだ、ミルクはいきなり・・・。取り敢えず、やってみるか・・。お、こいつも嬉しそうだな。ミルクは、魔物が喜びそうな構い方が、分かるのかな・・・?
「(ふむふむ、なるほど・・・。メスですね・・・!!!)」
見てるのそこかよぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!いや、まぁ、ミルクには重要な事なんだろうけど・・・。
「こん!!!」
下ろして欲しそうに鳴いたので、一旦地面に下ろす。ニーナの方をちらりと見ると、踵を返して、森の奥へと駆けて行ってしまった。
「・・・・・行っちゃったか」
「・・・・」
良かったなぁ・・・、もふもふ・・・。それはそうと、さっきからニーナが無言なんだが、大丈夫だろうか・・・。
「ニーナ・・・?」
「え!!は、はい・・・!!」
「その・・・・、この事は内緒にな・・・!!」
「は、・・・はい!!分かりました!!」
「よし、・・・じゃあ、気を取り直して、また探索しに行くか」
「はい!!」
よし、釘をさせたので、これでいいだろう。ちょっとしたトラブルはあったが、また、近場の魔物の気配を目指して、俺達は進んでいく。・・・・うん?こっちの気配は、さっきの魔物だよなぁ・・・。まだ近くにいるのか。せっかく助けたんだし、あいつとは、違う魔物のところに行こう。
「・・・・あの、ベイ君・・・」
ベイ君!!!・・・・マリーさんに呼ばれて以来の、呼ばれ方だな・・・。
「どうした、ニーナ?」
「・・・・さっきのって、その・・・、聖魔級・・・回復魔法だよね?」
「・・・・ああ、そうだよ」
「・・・・やっぱり。すごいね・・・。私も一瞬ぐらいは使えるんだけど、あんな長時間・・・。しかも、私の魔法とは色が違ったような・・・」
「・・・・」
いやいやいや、その年で、一瞬でも聖魔級魔法使えるとか、それでも十分すごいから!!まぁ、アリーは例外だから仕方ないけども・・・。俺も、皆のお陰だし・・・。いや、正直に言う訳にはいかない。なにか、言い訳せねば・・・!!!
「えっと・・・、ほら、これを見て・・・」
「・・・魔石?」
「そう、聖魔級回復魔法の魔石。これで、回復させてたんだ」
まぁ、今作ったんですけども・・・。
「そんな、レアな魔石を持ってるなんて・・・・!」
「まぁ、たまたまだよ、たまたま。いざという時に、使う練習もしたかったし、調度良かったよ」
「じゃあ、さっき色が違ったのは、その魔石から魔法を使ったせい?」
「じゃないかなぁ・・・・。よく知らないけど・・・」
実は、その特性の違いについて1番知りたいのは、他ならぬこの俺です!!普通の回復魔法、撃たせて下さい!!お願いします!!!
「・・・・だから、その、俺がすごいってわけではないんだ」
「・・・・ううん、でも、ベイ君はあの子を救ったもの。それでもすごいよ」
ニーナは、輝いた目で俺を見ている。・・・やはりニーナは、戦闘向きというよりは、回復魔法士向きだなと思う。誰かや、何かを癒やし、救いたい。そういう思いが、ニーナの表情からは感じられた。
「・・・ありがとう」
「私も、さっきみたいな怪我を癒せるようになりたいなぁ・・・。頑張らなきゃ・・・!!」
いつの間にか、最初のようなギクシャクした感じは、ニーナから無くなっているようだった。回復魔法に対しての彼女の情熱が、周りへの恐れや、緊張を取り除いたようだ・・・。
「よし、それじゃあ、回復は任せるよ、ニーナ」
「はい!!頑張ります!!」
ニーナは、気合を入れて返事をする。まぁ、多分俺が怪我をすることはないと思うけど、本人がやる気なので、いざという時には頑張ってもらおう。初級迷宮で、いざって時があるかは、別だが・・・・。
「お、ニーナ、次の魔物がいたぞ・・・」
「・・・ね、ねずみ・・・ですかね?」
「そうだな。見た感じそう見える。少し、でかいけど・・・」
ねずみは、辺りを探りながら動いている。餌でも探してるんだろうか?
「よし、俺が前衛をするから、ニーナは、チャンスがあったら魔法を撃ってみて・・・」
「はい、分かりました」
さっき、ニーナは魔法を当てることができたし、今回も、俺はゆっくり攻撃をいなしながら距離をとって、ニーナに、魔法を使う手応えを感じてもらおう。そう思って、俺は、ねずみの前に進み出るが・・・・。
「こん!!!」
「!!!!」
さっきのキツネが、物陰から飛び出して、ねずみに襲いかかった。見事に、相手の喉を一噛みで仕留めている。ねずみがぐったりすると、そのねずみを俺の前に咥えてきて、その場で離した。
「こん!!」
「・・・・・ああ、ありがとう」
俺は頭を撫でてやる。すると、またキツネは森に戻っていった。
「・・・さっきの子ですよね・・・」
「ああ、そうだろうな・・・」
「恩返しってことでしょうか。魔物にも、ああいう子がいるんですねぇ・・・・」
ニーナは、何か考えている。まぁ、当初の計画とは違ったが、恩を返されるのは悪くないので、これはこれでよしとしよう。次、ニーナに、頑張ってもらえばいい・・・。取り敢えずねずみは、魔法で土に埋めておいた。
「よし、次に行こうか?」
「はい」
また、近場の魔物求め、俺達は進む・・・。
「(ふむ、ご主人様・・・。まだ、付いてきてますよ・・・)」
「(ああ、分かってる・・・)」
「(回復魔法もかけましたし。頭も撫でましたからねぇ・・・。・・・もう、落ちちゃってると思いますよ?)」
「(え!!・・・いやいや、そんな、まさか・・・)」
「(殿、その可能性が高いかと・・・)」
「(主様に、ああされたら・・・・。そうなっても、仕方ないわね・・・)」
フィーも、レムも、うんうん頷いている。・・・いや、もう少しだけ様子を見よう・・。焦って、考えることではない・・・。と、思っていたが・・・・。
「こん!!!」
それから、キツネは大活躍だった。ねずみが2体同時でも、鳥型魔物が襲いかかっても、尽く、ニーナが魔法を撃つ時間を与えずに倒す。同種との魔物でさえ、殺しはしなかったものの、なんとか撃退した。
「こん!!」
しかも、その度に俺に寄ってきては、頭を撫でられて、森に戻っていく。・・・・これ、落ちてる?
「(落ちてます、マスター!!)」
「(落ちてますね)」
「(これは、確定でしょう・・!!)」
「(間違いないかと・・・)」
「(まぁ、仕方ないわね・・・)」
「(・・・・ですよね?)」
「(まぁ、ここまで繰り返して、まだ付いてきてるんっすから・・・。ねぇ・・・)」
「(そうとしか思えませんね・・・)」
「(私達にも、後輩ができるということですか・・・)」
やはり、落ちているらしい・・・。と言っても、ニーナの前で、流石に召喚石を出すわけには行かないしなぁ・・・・。どうしたものか・・・・。
90!!!!!!90です!!!!なんと90回めの更新になります!!!!!いやぁ、・・・・長いですね!!!でも、皆様の反応のお陰でここまでやってこれました。ありがとうございます。もう、長期連載作品を名乗ってもOKなくらいですね。さてさて、もう100が見えてきましたので、その時のお話でも。100回めは今のところ本編関係無しに、ミルクがギャグする話を書こうと思っています。また、長期的な作品になってしまったことから、なにかご質問、感想があればお答え、読ませて頂いて、今後のこの小説を楽しむのに役立てていただければなぁと思います。感想をいただければ作者が喜びますので、是非送って下さい。長々と連載しておりますが、今後とも、楽しんで読んでいただければ、と思います!!ではでは、まだまだ続く、召喚魔法で異世界踏破をよろしくお願いします!!