報告と考察
「ふ~ん……」
早起きして、家族にフィーのことはばれずに済んだ。だが、いつも特訓にフィーも参加しているのだから、アリーに見せない訳にはいかない。事情を説明すると、目を見開いたあとさっきからずっとアリーはフィーを眺めていた。
「……」
さっきからアリーは、俺を見てフィーを見て反応を探るように見てくる。なんだろう、空気が重い気がする。
「まぁ、美少女ね……。妖精族魔物の上位種を見れる機会があるなんて思わなかったわ。しかも、魔物が変化するなんて。面白いわね。とりあえず、フィーの戦闘力の変化を見てみたいんだけど、いいかしら?」
フィーが、こちらを見てくるので頷く。
「うん、マスター。じゃあ、行っきま~す!!」
そう言うと、フィーは飛んだ。 フィーは、今までと同様に空中を自由に飛ぶことが出来る。だが、段違いに速い!! 木々を細かく避け、スピードをほぼ落とさずに移動して行く。ぐるっと、練習場周りを一周して戻って来た。訓練をしている俺とアリーでも、目で追うのがやっとだ。
「えっと、風属性魔法は、中級まで使えます。むえいしょう?で出せます!!」
フィーは、風の球体を手のひらに発生させた。風の中級魔法・ウインドブラストだ。
「えっと、あと魔力量も前より多くなってるので、いっぱい魔法が出せます!!力は、あまりありません。魔力で、前より速く動けます!!」
「なるほど、魔力特化な成長なのね。一昨日会ったフィーより、確かに魔力コントロールが上手くなっているわ」
フィーの能力を見て、アリーはそう納得した。その後訓練を始めたが、フィーはかなり強かった。実戦形式でお互いを低威力魔法で狙い合う訓練では、こちらが撃つのを見てから余裕の回避をされる。今日は俺もアリーも、一発もフィーに当てることは出来なかった。正直、大きくなって当てやすいと思っていたが、全然そんなことはなかった。中級クラスの魔物は、これほど強いのか。威力・スピード・効果範囲の大きい魔法じゃないと当てにくいかもしれない。フィーが風属性で、速いっていうのもあるかもしれないけど……。他の中級クラス魔物も、何かしらの特化した実力を持っているだろうから、この差を埋められるように練習しないといけないなぁ。……というか、フィーが強くなったせいで必然的に訓練のレベルが上った。……辛い。
「う~ん、中級でこれほどの実力があるとわね。今の私達でも、かなり練習して強くなったつもりだったけど甘かったわ。ふふふ、まだまだ強くならなきゃね」
まるで、闘気のようなものがアリーから放たれているような感覚を感じた。アリー、怖いよ……。
「マスター」
フィーが、自然に俺に抱きついてきた。そういえば、いつもフィーは俺の肩に座ったりしていたけど、これからは出来なさそうだな。その代わりかな?
「よしよし、フィー強くなってたな。すごいぞ~」
撫で撫ですると、えへへ~、とフィーは嬉しそうに微笑む。ああ、可愛いなぁ……。……ビクッ!! ふと見ると、アリーさんがジト目でこちらを眺めていた。先ほどとは、なにか違うオーラを感じる。……いや、違うんですよアリーさん。可愛い子は愛でないといけないというか、仲間は大切にといいますか……。頑張ったフィーに、労いが必要なんですよ!! 決していやらしいとかそういう気持ちは、無い訳では無いですけど。これは必要、必要な行為なんです!! という気持ちを込めてあはは……、とアリーにぎこちなく俺は笑みを向けた。
「……」
スッとアリーは目を閉じると、こちらにやって来て俺の腕に抱きついてくる。……その顔は、赤くなっていた。えっと、アリーは何も言わない。フィーにしているように、アリーも撫でてあげた。ビクッとすると、そのまま撫でられたままになる。撫でる度に、徐々に顔の赤みが増しているように見えた。
「フ……、フンッ!!」
アリーはそっぽを向くと、ぎゅっとさらに腕の抱きつく力を強めてこちらにひっついてくる。うん、可愛い!! フィーも、頬を俺に押し付けてぎゅっと抱きしめてきた。なんというか、幸せだな。
訓練がおわって、フィーの召喚を戻しアリーを家まで送って行く。そして、足取り軽く家に帰った。それから召喚魔石・大の作成を始める。細かく分けてパーツを作っていくのだが、なかなか進まない。込める魔力量の大きさが増え、より制御が難しくなっているためだ。フィーをかまいながら進めていくと、4時間ほどで半分ほど形にすることが出来た。完成までだいたい8時間かかる計算になる。パーツごとに作っているので、特クラスの魔石までなら今でも作れるかもしれないが。かかる時間を考えると、とても根気がいりそうだ。
問題は、フィーがどこまで成長するかだな。妖精族で、今見つかっている最高クラスは神魔級。そこまで成長するとなれば、国の軍隊より上の戦力だ。用意する魔石も最高クラスじゃないといけない。まだ進化がどのタイミングで起きるのかは分からないが、用意しておいたほうがいいだろう。
何故進化したのかをちょっと考えてみよう。まず、俺が進化したらいいなと考えたことが、原因にあるような気がする。もしかしたら、関係無いかもしれないが、俺の魔力がフィーに働きかけて進化した可能性も考えられる。次に思いつくのは、他の魔物との違いかな。今まで、魔物が進化したという報告例が無いこと。これは、その場面が今まで発見されて無いというだけの可能性もあるだろうが。恐らく、環境が違う可能性のほうが高い。迷宮などの魔物は、多くの魔力が存在する迷宮ほど強い魔物が存在する。つまり、それだけ魔物が魔力の強い場所ほど強くなるという証明だ。つまり、魔石に収納されて俺の中の魔力に常に触れている状態になっているフィーは、その状態に近くなっている。そのために、大幅な魔力を受け続ける環境にさらされたフィーは、その魔力に適応するために進化した可能性がある。今思いつくのは、そんなところかな。
つまり、俺の中の魔力量が増すほど、仲間にした魔物は強くなる。しかも俺は、仲間にした魔物の魔力も使えるから仲間にすればするほど保有魔力量が伸びる。それだけ体内の魔力量が増えて、進化がしやすくなる。という可能性があるわけか。……早く新しい仲間が欲しい。でも、魔石も用意しないといけないし。進化する可能性も考えると、時間をかけた魔石を用意する必要がある。俺の実力も、中級クラス魔物に通用するかどうかといったところだ。今は焦らず、実力をつけていくべきか……。時間をかけて用意していこう。俺はそう思った。
(しかし、新しい仲間かぁ……)
というか、この近くに日帰りでいける迷宮が風属性中級迷宮しかないのがいけないんだよなぁ。初級があれば、一日で行ってくるんだけど。しかも、中級しかないから、ちょっと今の段階では行くのが戸惑われる。日帰り出来ないと、カエラやノービスが心配でもしたらいけないしな。
とにかく、旅が出来る年齢と中級に挑める実力。その2つ、あるいはどちらかは欲しい所だ。その頃には、魔石もある程度用意出来てるだろうし。仲間集めは、それからの方が良さそうだな。そう方針を決めた俺は、明日も頑張るべくベッドで眠るのだった。
「マスターと添い寝!!マスターと添い寝!!」
「……」
フィーとの添い寝は、その日から日課になり、俺の早起きも日課になった……。