初級迷宮
「(シュテルンって、あれじゃなかったっすかね?サラサが言ってた・・・)」
「(勇者の末裔の1人ね・・・。確か、そんなだった気がするわ)」
ああー・・・、たしかにそんなことを言っていたような。でも、この娘は、強そうでも無さそうだけど・・・。人違い?いやいや、こういう娘もいるのかもしれないなぁ・・・。
「よっと・・・・、うーん、森かぁ。中級迷宮ほど、歩きづらくは無さそうだな・・・」
初級迷宮内は、天気もよく、周りが見にくいという程でもない間隔で、木々が生えている。背が高い草も生い茂っていなければ、人間が歩きやすそうな道すらある。うーん、本当に町外の街道と、あまり変わらないように見えるなぁ・・・。
「ふぁあ・・・、ここが迷宮ですか・・・」
ニーナは、ちょっと緊張しているようだ。まぁ、初めてならこんな反応になるだろう。俺も、最初の頃はだいぶ慎重に行動したもんなぁ・・・・。懐かしい・・・。
「取り敢えず、進んでいこうか。俺がゆっくり前を警戒しながら歩くから、ニーナは後ろに注意しながら付いてきてくれ。何かあったら、俺に言うんだぞ」
「は、はい!!わ、分かりました・・・!!」
うーん、大丈夫だろうか・・・。なんかニーナの動きが、ギクシャクしている気がする。恐ろしさと、緊張とで、変な動きになってるってとこかな・・・?まぁ、慣れるまで、待つしか無さそうだ・・・。
「ひぃうぅ!!!」
「おっと!!」
やはり動きが変だからか、枝を踏んでニーナが転けそうになる。注意していたので、素早く支えることができた。・・・・ほんと軽いなぁ・・・・。つついたら壊れそうって、意見も分かる気がする。
「あ・・・、ご、ごめんなさい」
「いいよ。気をつけてね」
「は、はい!!」
ニーナを離し、また、ゆっくりと迷宮探索を開始する。取り敢えず、迷宮に来たんだし、魔物との戦闘を経験させてあげたほうがいいだろう。俺は、一番近い気配のある方に向かって歩き出した。
「(何か、昔を思い出しますね。マスター・・・)」
「(そうだな。フィーと一緒に、レム、ミルクを見つけるまで頑張ったっけ・・・。懐かしい・・・)」
思えばあの時は、フィーに魔物のいる位置を探ってもらっていた。今では、魔力を感じることで、俺自身でも位置を当てることが出来る。・・・・成長したもんだ・・。
「おっと、ニーナ、見てごらん」
「え、は、はい・・・・。・・・・む、虫ですかね?」
「ああ、ダンゴムシみたいだな。あの魔物」
固そうな皮膚をした大きめの虫が、一匹地面を移動している。その見た目は、ダンゴムシによく似ているが、大きさ的には、猫ぐらいの大きさがある。うーん、かっこ良くも見えるが、気持ち悪くもあるな・・・。
「ダンゴムシ、って何ですか?」
「え、知らない?こう、指でつつくと、丸々虫・・・」
「見たことないです。・・・すいません・・・」
「いやいや、知らなくても問題ないよ。ほら、まぁ、あんな感じの虫だよ・・・」
「ダンゴムシって、すごく大きいんですね・・・」
「いや、本来のダンゴムシは、もっと小さいよ。見た目はあれに近いけど・・・」
「なるほど・・・。ちょっと、怖いです・・・」
確かに、多脚がワシャワシャ動いてるところは、見ていて怖いかもしれない・・・・。
「ちょっと、攻撃してみて。フォローは俺がするから」
「え、私がですか・・?」
「ニーナはまだ、迷宮に慣れてないみたいだからね。これも経験だと思って、やってみて」
「で、でも、なにか、可哀想です・・・。ただ歩いてるだけなのに・・・」
「・・・確かにそうかもね。でも、ここは迷宮だ。別にやり過ごすことは悪いことじゃないけど、そう言っていられない状況にも、必ずなる。だから、いつでも相手を倒す覚悟だけはしておくんだよ」
「・・・・はい」
ニーナは、少し暗い顔をする。あまりこの娘は、戦闘には向いてないかもしれないなぁ。まぁ、戦うだけが生きる道ではない。それもありかな・・・・・。
「じゃあ、別の場所の探索に行こう。ここは、やり過ごす練習ということで、ゆっくり慎重に進もうね」
「はい・・・!!えっと、ゆっくり・・・・、ふぎゃあ!!!」
ニーナのローブの端が枝にひっかかって、バランスを崩す。俺は上手く受け止めたが、その声でダンゴムシが気づいてしまった。あいつは、器用に丸々と、回転しながらこっちに突っ込んでくる。やっぱ、ダンゴムシじゃないか・・!!ダンゴムシは、こんな攻撃しないけど・・・。
「あっ・・・!!」
ダンゴムシの衝突コース上には、ニーナがいる。ニーナは、近づくダンゴムシに、思わず目を閉じてしまうが・・・。
「よっと!!」
俺は、片腕で、突っ込んできたダンゴムシを止めた。ふむ、そんな威力はないな・・・。人間が蹴ったボールくらいか・・・。
「あ、あの・・・・」
「やり過ごす練習は失敗・・・。ここからは、戦闘の練習だ・・・」
俺はゆっくり、ダンゴムシを距離を離すように投げる。
「さぁ、ニーナ。こういう状況なら、戦うしかない。攻撃してみて」
「・・・・、はい」
少し間はあったが、覚悟を決めたようにニーナは、ダンゴムシを見つめて詠唱を始める。
「・・・我が右腕に集え、炎の力よ。その強力な力で、敵を穿け!!ファイアブラスト!!!」
ニーナの腕から、少し小さめの、炎の弾丸が射出される。ダンゴムシは、丸まってその攻撃を受けようとするが・・・。ニーナの魔法は、ダンゴムシを大きくそれて、着弾した・・・。
「ニーナ・・・、魔法を撃つときに目を閉じちゃあ、狙いが定まらないよ・・・」
「あ、・・・す、すいません・・・」
魔法がやんだので、またダンゴムシが突っ込んでくるが。俺もまた、ダンゴムシを受け止めて、投げ返す。
「いいかい、ニーナ。当てるイメージをするんだ。魔力は、自分で操れる。こう飛んでいけば当たるというふうに、自分で操作をするんだ」
「あ、あの、私、そこら辺がとても苦手でして・・・」
「ふむ・・・、ちょっと良いかな・・・」
「あっ・・・」
俺は、自分の腕をニーナの腕に添える。ダンゴムシは、警戒しているのか動かない。ついでに土魔法で、足場の土を固めて、動きを止めておくことにした。
「いいかい、こうするんだ・・・」
「え・・・」
ニーナの腕に、俺の魔力を流して動きを伝える。これなら、イメージがしやすいだろう。なんせ、直接的に分かるんだから。
「(ふむ、ご主人様は、やはり天才ですね・・。そう、やすやすと、相手の身体に魔力を送り込むとは・・・)」
「(普通は、そんな簡単にできるものでは、ないですよね・・・)」
え、そうなのか・・・。意外と普通に出来るけど・・・。まぁ、魔力操作の練習が、今に生きてるってことかな・・。
「分かった?」
「は、はい。なんとなく・・・」
「じゃあ、やってみて」
「分かりました」
ダンゴムシは足を止められ、動けなくて、その場でうねうねして脱出しようとしている・・・。なんか可哀想だなぁ・・・。やってるの、俺だけど・・・。
「えっと、相手をよく見て。当てるイメージ・・・。さっきみたいに、コントロールして・・・。よし!!我が右腕に集え、炎の力よ。その強力な力で、敵を穿け!!ファイアブラスト!!!」
先程と同じ大きさの、火の弾丸が、ニーナの腕から射出される。今度は間違いなく、ダンゴムシに当たり、その身を焼いた。
「あ、当たりました・・!!」
「うん、その調子だ・・・」
ダンゴムシは、そのまま死んでしまったらしい・・・。なんとなく可哀想になったので、魔法で土に埋めておいた。
「よし、それじゃあ次に行こうか?今度は、枝に引っかからないように注意して」
「は、はい!!」
俺の後を、ニーナは辺りを見回しながらついてくる。手応えがあった内に、もう2、3度、戦闘をさせてあげたほうがいいだろう。と思った俺は、近場の魔物の気配に向かって歩いて行く、が・・・。
「む・・・」
「え、あれって・・・」
そこにいたのは、傷ついて横たわっている、一匹の魔物だった・・・。