入学式
俺とサラサは、入り口で受付を済ませ、案内に従って進む。会場内についたが、観客席側の席に、特に席の割当とかもなく適当に座っていくらしい。科ごとに座る場所を分けたりとかはしないようだ。取り敢えず、俺とサラサは隣に並んで座ることにした。
「……ふむ、面白い魔術だな」
「うん?」
サラサが見ている方向を見ると、魔法で巨大なスクリーンが会場中央上空にできていた。いったいどういう仕組みなんだ。立体映像を写す科学技術ってわけじゃないよな。 魔法だよな?
「あー、おほん。もう少しで式が始まります。皆さん、そのままでお待ちください」
聞いたことのある声が、式場内に響いた。確か、俺の入学資料を書くときに会った、フィガと言う先生の声だったような気がする。恐らく、風魔法で声を増幅してマイクで喋ったかのような効果を出しているのだろう。魔法って便利だよなぁ。
「見て見ろ、ベイ。あそこの、会場中央に出てきた金髪の女生徒だ。あれが、勇者の末裔。しかも、そのリーダー格だった者の子孫だ。4年のシュア・ゲインハルト」
「へぇ~、彼女が……」
何と言うか、話しかけづらそうな雰囲気の子だな。可愛いけど、固そうというか刺がありそうというか。
「私は、あいつが苦手でな。実力もそこそこにあるのだが、どうも他人を軽んじる発言をしすぎる。しかも、あそこにいるということは、それなりの役職につくということだろう。ああいう奴が権力を持つのは、いいことではないな」
「……そんなに、嫌な感じなのか?」
「まぁ、私が会ったのは二年前だが、概ねそんな感じだった。兄達の稽古を横目に、動きが雑だの、技が理にかなってないだの、よく暴言を吐かれたものだ」
「へぇ~、意外だな。そんな風には、見えないが」
「そういう奴なんだ。あいつの姉は、良く出来た人なんだが。まぁ、そんな姉を持ってしまったからかもしれん。ともかく、目を付けられないようにしといたほうがいいぞ」
「分かった。ありがとう、サラサ」
「うむ」
そんな話をしている内に、準備が整ったらしく、フィガさんの声によって辺りが静かになっていった。
「準備が整いました。えー、それではこれより、ウィルクス魔術・戦士学校入学式を行いたいと思います。始めに、ウィルクス魔術戦士学校・学校長、ヴィア・ソレスト校長より挨拶をしていただきます。校長先生、どうぞ」
「うむ、ありがとう。フィガ先生」
学校長、ヴィア・ソレストは席を立ち、ステージ中央に進む。スクリーンに映し出された彼の顔は、とても威厳のある人物のように見えた。頼りになりそうな校長先生だなと思う。白いローブを身につけ、身だしなみもきっちりと整えている。やはり校長というからには、これぐらいきっちりしている人の方が好感が持てるな。
「おほん。まず、新入生の皆さん、入学おめでとう。これから君たちは、ウィルクス魔術・戦士学校の生徒となるわけだが……。この学校の校風は、皆さんも知っていると思う。自分の学びたいことを学び、より自分が深めたい知識、又は、力を得るための糧として、この学校を存分に役立てて欲しい。この学校は、いくつかの授業を君たちに課してはいるが、やはり自分で決めて進んだ道にこそ真の大きな力が宿るというものだ!! 我々は、君達の選ぶその道を全力で応援しよう。この学校に入学したからには、先生である我々に、何でも相談してくれたまえ。必ず、君たちの力になると誓おう!!そして将来、君たちが目指すべき自分の姿を、君達の力で獲得して欲しいと思う!!この言葉を、君たちへの最初の指導として送らせてもらいたい。そして、これを持って入学の挨拶とする。以上、ウィルクス魔術・戦士学校にようこそ、新入生諸君。改めて、入学おめでとう」
校長の発言に、周りから拍手が起こる。取り敢えず、俺も合わせておこう。校長は、拍手を受けながら、壇上を降りていった。
「続きまして副校長、バイフィス・メギア先生よりご挨拶を……」
うーん、何と言うか。やはり、こう言う式の話は長い。校長の挨拶は、短めに感じたが。それでも、あと数時間はこの代表者挨拶的なのが続くのだろう。面倒くさいな、聞いてるの。そう思って俺が皆と念話で雑談しながら話を聞き流していると、式はいくらか感覚的に早く進んだ。副校長挨拶の後は、2学科の学科長からの挨拶があり。生徒代表あいさつへと続いた。
「こほん。ご紹介に預かりました、現生徒会長のシーア・レナンスです。皆さんのご入学を、心より祝福しますと同時に……」
現生徒会長というと5年か。そう言えば、この学校の生徒会はどうなっているんだろうか? 選挙とかで決めたりするのかな?
「……以上を持ちまして、私の入学祝いの挨拶とさせていただきます。また、この場で次の生徒会長の就任式をさせていただこうと思います」
へ~、新入生挨拶で交代なのか。やはり、5年になると忙しくなるせいだろうか?
「次の生徒会長になります、副会長のシュア・ゲインハルトさん。どうぞ、前に」
「ありがとうございます。シーア生徒会長」
シュアが、式場中央に出る。うーん、生徒会長かぁ。サラサの発言でいい印象を持たなかったから、果たして良いことなのか、悪いことなのか。まぁ、良くはないんだろうなぁ。
「ただいまご紹介頂きました、シュア・ゲインハルトです。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」
うーん、こうして挨拶を聞いている分には、そこまでひどい子には見えないな。まぁ、気をつけておくに越したことは無いか。その後、式は滞り無く進み、おわりを迎えた。
「う~ん、ずっと座りっぱなしだったなぁ~」
「そうだな。落ち着いていられない私には、辛い時間だった」
サラサと、退場の挨拶に従って外にでる。新入生の授業は明日からで、その時に授業の説明もあるらしい。外に出ると、アリーが俺達を出迎えてくれた。
「お疲れ様、ベイ。これで正式に、同じ学校の生徒ね」
「ああ、アリー。そうだね。これから、一緒に頑張ろう」
とは言っても、もうアリーは、無理に授業を受ける必要もない訳だが。けど、アリーが嬉しそうだし、良いか。
「サラサも、学科は違うけど、よろしくね」
「はい、アリーさん。私なりに、頑張ろうと思います」
そんな風に話をしていると、俺達にとある人物が近づいてきた。
「あら、サラサ・エジェリン。そう言えば、あなたも新入生だったわね。入学おめでとう」
「……シュア・ゲインハルト。ああ、ありがとう。久しぶりだな」
その人物は、サラサに気を付けたほうがいいと言われた、シュア・ゲインハルトその人だった。シュアは、腕を組んで言葉を続ける。
「ええ、久しぶり。そして、アリー・バルトシュルツさん。あなたに、話があるんだけど?」
「……私に、何の話があるのよ?」
なんだろう、アリーも心なしかこの娘を警戒しているような気がする。やはり、いい印象がないんだろうか?
「そうね。サラサには聞かせてもいいけど、そこの子には、ちょっと席を外してもらいたいわね」
「……私の夫に席を外せというような話題なら、お断りするわ」
「……夫!!あなた、いつの間に結婚を……」
「まだ、結婚はしてないわよ。でも、いずれそうなるわ」
「……なるほど、分かりました。あなたがそう言うなら、彼もいて構いません。ですが、場所を移しましょう。重要な案件ですので」
「分かったわ。で、どこにする?」
「生徒会室でいいでしょう。今は、会議室で前生徒会長退任お疲れ様祝いの準備で無人ですので。鍵は、私が持っていますし」
「分かったわ。ちょっと私達もすることがあるの。少ししたら行くから、先に行っといてもらえる」
「分かりました。では、後ほど……」
そう言うとシュアは、校舎に向かっていく。あれ、魔法科なのか? サラサと繋がりがあるから、てっきり戦士科だと思っていた。
「……めんどくさそうね。行きたくないわ」
「でしょうね。あいつからの話ですから、いいものではない気がします」
「サラサはどうする。一緒に聞く?」
「そうですね。アリーさんが変なことをいきなり言われて困ってもいけないでしょう。少しでも援護をするべく、付いて行こうと思います」
「助かるわ」
そこまで嫌なのか。取り敢えず俺達は、ノービス達と後で落ち合う約束をして、生徒会室に向かうことにした。