帰り
「……それじゃあ、私とベイはやることがあるから帰るわね。またね、サラサ、レラ」
うん、やることなんてあったっけか? まぁ、いいか。俺達は、和気あいあいとし始めていたサラサとレラに別れを告げて、部屋に向かって足を進めた。
「……って、なにしれっと付いてきてるのよ」
「いえ、ベイがどこに住んでいるのか気になりまして」
「私は、サラサちゃんを勧誘したいし。ベイ君も強そうで、いいなぁ~と思って……」
ちゃっかり、後ろを2人がついてくる。その2人を、アリーは若干嫌そうに見ていた。
(ちっ!!私は一刻も早く、ベイに神魔級回復魔法書を見せたいのに!!)
む、何かアリーが、すねたような顔でこっちを見ている。可愛い。 ……いや、なんだろう? 二人がいるとまずいなにかがあるんだろうか? あれは、そういう顔だな。
「というかレラ、あなたの研究会、さっき女性のみだとか言ってなかった?なら、ベイは関係ないでしょ」
「あ~、まぁ、そうなんだけどねぇ。そんなに強いなら、特例ってのもありかなぁ~、と思って」
「ベイが入るなら、私は入るぞ」
「ほら、サラサちゃんもこう言ってるし」
「だからと言って、そんなにいきなり男を入れるなんて言っても、会員が納得しないんじゃないの?」
「うーん、臨時の助っ人って感じで説得すれば、なんとかなるかも?」
「そう、うまくいくかしらね?」
「うーん、確かにそうなんだよねぇ。でも、ここで逃すには、惜しい人材な気もするし」
レラは、うーんと唸っている。俺としては、皆との修行時間を少しでも取りたいから、あまり時間を縛られるのはちょっと困るなぁ。でも、レラのこの悩んでいる感じなら、俺が引っ張られることはなさそうだ。
「まぁ、今年はまだ実力がありそうな後輩が入学しているようだし、そっちにしといたら?」
「うーん、でもねぇ……」
(でももなにも、私はベイと甘くてラブラブな学園生活が送りたいの!!厄介事を持ち込みそうな話は、ちょっとでも困るのよ!!)
何かアリーが、レラを睨んでいる気がする。レラは気づいていないようだが。そうこうしている内に、部屋の前までついた。
「ここが、アリーさんが住んでいるところですか?で、ベイはどこに住んでいるんだ?」
「私と、一緒に住んでるわよ?」
「……え、いいの、そういうの?」
「親たちが認めている仲だもの。なにも問題ないわ。手続きもちゃんとしてあるし」
「ふむ、流石アリーさん。ベイの正妻として、一分のすきもないですね。少し中を見させてもらってもいいですか?こんな大きな建物の部屋が、どうなっているか気になるので」
「……まぁ、少しだけならいいわ」
そう言って、アリーは鍵を開けて部屋の中に入る。サラサとレラの二人は、アリーの後に続いて部屋に入っていき、そのまま部屋の中を見回した。
「はぁ~、広いねぇ~。うちの寮の部屋とは、大違い」
「確かに、私の部屋の4、5倍くらいの広さがありますね」
「わぁ~!!見てみて、サラサちゃん!!大きいベッド!!……なんか、いやらしいかも」
「ふむ、これはさすがに、2人用にしては広すぎるのでは?」
「言ったでしょう。すでにベイを好いている女性は、10人いるのよ。このぐらいで、丁度いいくらいだわ」
「あー、でもそれって……」
「ふむ、一緒に寝ているということですね」
何を想像しているのか分からないが、二人の顔がどんどん赤くなっていく。それを見て、なぜだか俺も恥ずかしくなってきた。
「当然よ。いずれ結婚するんだもの。むしろ、別々に寝ている方が問題になると思うわ」
「むぅ~、そう言われれば確かに。それなら、別々に寝るほうが不自然な気もしますね。というか、他の女性達はどこにいらっしゃるのでしょうか?姿が見えませんが?」
「彼女達は、ここの新入生や在学生ってわけではないの。だから、大抵の時間はこの部屋にはいないわね。ベイが確実にいる時間なら別だけど……」
「なるほど。ベイの魅力をお聞きしたいと思っていたのですが……。又の機会にしますか」
と言われても、会わせる機会があるんだろうか? 俺としては、アリーと結婚するまでは、皆に他者を合わせるのは避けたいところだけども。
「まぁ、そのうち機会があったらね。で、一通り見れたかしら?」
「ええ、ありがとうございます。羨ましいくらい広いというのが、よく分かりました」
「私も、こんな広さの部屋に住みたいなぁ~」
レラが、自分のポニーテールをいじりながらすねている。緑に近い髪の先を、指にくるくる巻いていじっている姿は、どこか愛らしい。
「ふむ。では、お邪魔いたしました。また、機会があれば遊びにでもこさせて下さい」
「私も、機会があったらまた来るよ!!というか、こさせて!!」
「はいはい、二人共気をつけて帰ってね。ここらへん、変な研究をしている人が多いから、たまに爆発とかするわよ」
「「え!!」」
「ほら、あそこの壁。見てみなさい」
「うわ、本当だ。焦げたあとがある」
「部屋の中なら安全だけど、外となるとちょっと危ないわね。一応、気をつけなさい」
「わ、分かりました。では、これで」
「またね」
ちょっと早足で、2人は帰っていった。というか、爆発するのか。怖いんだけど。
「まぁ、あまり気にしなくていいわよ、ベイ。爆発なんて、そんな頻繁に起こるものでもないし。皆、ある程度は実験に安全性を重視して行っているもの。……たまに、ぶっ飛んだことをする人がいるけどね」
アリーは、近くの研究棟の黒くなった壁を見ながらそう言った。 ……俺も気をつけよう。
「さて、邪魔者がいなくなったことだし、部屋に帰ってさっさとあれを進めましょう」
「うん、あれって?」
「え、なにって……」
部屋に入って、アリーは鞄から本を取り出す。
「神魔級魔法の習得よ」
「……ああ~、そうだったね」
アリーとサラサの微妙に俺が聞きづらい話を聞いていたから、少し忘れていた。そう言えば、それがあったんだよなぁ。ぱらぱらと、アリーは本をめくる。
「ふむ、この厚さ、ちょっと時間がかかりそうね。まぁ、ベイと2人なら、すぐにそんな時間も過ぎるでしょう。……じゃあ、やりましょうか」
「ああ、やろう」
二人して肩を並べて、本を読もうとする。その時、いきなりアリーがビクッと身を震わせた。
「……あ!!あの2人のせいで、忘れるところだったわ!!」
「うん、何のことだいアリー?」
アリーは、無言で俺の方に向き直る。すると、すぐに頬に軽いキスをしてくれた。
「チュッ。おかえりなさい、ベイ。ふふっ、これがしたかったのよねぇ~」
……なるほど。これはいいなぁ。
「ああ、ただいま、アリー」
俺からも、アリーにキスを仕返す。うーん、やっぱり幸せだなぁ。アリーも同じなのか、嬉しそうにはにかんでいる。その後、2人で仲良く魔法書を読み進めた。