末裔
「……言っておくけど、ベイはもう、私という婚約者がいるからね」
「なるほど。でも、それをアリーさんのお祖父さんはご存知なんですか?」
「いえ、知らないわ。でも、お母様とベイの家族公認よ!!!!」
「ふむ、それでは結婚は難しいのでは?バルトシュルツ家は、家名を継がせるには当主の了解が必要だったはずですが?」
「いえ、家名を次ぐつもりは無いわ。そっちは、お兄様が次ぐもの。私はアリー・アルフェルトになるの。だから、何も問題ないわ」
「あれ、そうなのですか?アリーさんのほうが、魔法の実力は既に上だと聞きましたが」
「うちは、実力は家名を継ぐのとは関係ないからいいのよ。それに、ベイと結婚できるならいつでも家を出る覚悟があるわ!!!!」
「ふむ、それはいいですね。ますますベイに、興味が出てくる発言です」
サラサは、俺をジッと見た。舐め回すように見られている。恥ずかしい。
「だいたい、なんでそんなにベイに興味があるのよ。というか、いつ知り合ったわけ?」
「ええ、あれは昨日のことです。街道を塞いでいた野生の魔物を2人で倒しました。……いやぁ、あの時のベイの魔法はすごい威力でした。大型の魔物を、たった一撃で吹き飛ばすとわ。しかも、まだまだ実力を隠し持っていそうで……。その時、私は言い知れぬ興味をベイに抱いたんです。ベイは底知れない強さを持っている。そういう、確信めいた何かを私は感じました!!」
サラサは、熱のこもった声でそういう。
「まぁ、ベイが強いのは間違っていないけど。それと、あなたがベイを気にする理由に、何のつながりがあるっていうの?」
「分かりませんか、アリーさん?私は今まで、自分と同い年ぐらいで、ここまで強そうな男性を見たことがありません!!私の兄達も十分強く、逞しい方たちですが、その兄達が見劣りするほどベイには強さを感じるのです!!私の叔父は言いました。もし結婚するのなら、俺ぐらい楽に倒せるような奴にしろよ、と。まぁ、私も冗談半分で聞いていました。自分が興味をもつような男性が、これまでいなかったからです。ですが、初めてここまで興味を惹かれる男性に出会いました。しかも、ベイなら叔父にも勝てるかもしれません!!これは、興味を持たないほうがおかしいでしょう?」
「う~ん、なるほどねぇ……」
アリーは、ちらっと俺を見る。
「悪いけど、ベイの魅力的なところは強さだけじゃないわ!!全部よ!!私は、それほどベイを愛している!!!!」
アリーさん、嬉しいんですけども。こんな学校の人が近くにいる場所で言われるのはかなり恥ずかしいといいますか。周りに聞かれたくないので、思わず反射的に風魔法で音漏れ防止をしてしまった。……良かった、周りから人が反応している気配がない。どうやら、上手く消せたようだ。
「ふむ。アリーさんはだいぶ、ベイにお熱なようですね」
「当然よ!!もうベイのいない生活なんて、考えたくもないわ!!」
「……ですがアリーさん、ベイはアリーさんの言った通り、とても魅力的な男性です。独り占めをするのは、ずるいのでは?」
「む?」
「まだ私も、ベイと知り合ったばかりで、すぐにでも彼と結婚したいというわけではありません。ですが、社会では重婚も認められています。私は、その際は2番でも構いません。どうか、考えてみて頂けませんか?」
アリーがその言葉に、腕を組んで目を閉じ考える。そして、ゆっくりと目を開いた。
「……2番って言うけど、既に貴方がベイと結婚するとしても、順番的には11番めよ?」
「へ?」
「え?」
サラサも、何故か固まっていた女性も、変な驚きの声を上げた。
「(これって、私達も入ってるってことっすよね?)」
「(そうでしょうね。まぁ、その、あんなところをもう見てしまいましたし。ある意味では、それで正しいのかもしれませんが)」
魔石の中では、シスラ達が何やら会話をしている。特に異論はないのかな? これ、シスラたちも含んで言われてると思うんだが。
「じゅ、11番めですか……」
サラサは、まだ驚きが抜け切らないようだ。まぁ、そりゃあそうだよなぁ。12の身で、もう婚約相手が10人もいるなんて言われたら、そりゃ、そんな反応になるわ。
「(マスターとけ、けけけけ、結婚!!!!)」
「(素晴らしい響きですね!!さすが、アリーさん!!我々への配慮を忘れないその心配り、とても嬉しいです!!!!)」
「(ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!ご主人様と結婚!!!!ご主人様と結婚!!!!)」
「(ふむ、殿とずっと一緒ということか。今までと何も変わりないな……)」
「(えっと、そうなったら、主様じゃなくて、旦那様とか、ダーリンとか……。ああ、でもまだ先の話だし!!!!)」
皆、大興奮しているようだった。そんなに俺との結婚を嬉しがってくれるなんて、すごく俺も嬉しい!!!! 皆最高!! 俺の嫁バンザイ!!
「ええ、冗談でも、嘘でもないわ。紛れも無い真実よ。それでも、ベイを何よりも愛せるというのなら、考えてあげなくもないわ」
サラッと、アリーが自分の髪を撫でる。なんだろう、今のアリーからは、見えない力が出ている気がする。正妻力という、今まで俺の感じたことのない未知の力が!!
「……すごいですね、アリーさん。それほどの女性に囲まれているベイと、一緒にいるとは」
「当然よ。私はベイを愛しているもの。それに、1番は私なの。他の子も皆、ベイを愛しているいい子たちよ。サラサがそこに加わるかは、今後の貴方の覚悟次第ね」
「……より、ベイに興味が出てきました。ですが、半端な覚悟では皆さんに失礼というもの。よく考えて、決めさせていただきたいと思います」
「うん、それでいいわ。もし、本当にベイを愛すると決めたなら、歓迎するわよ、サラサ」
「はい。お心遣いありがとうございます」
なんだろう、この会話を聞いているだけで、俺はどっと疲れた。話が区切れたからか、サラサがこちらを向く。
「というわけだ、ベイ。これからよろしくな」
「ああ、よろしく……」
なんだろう、どう返せばいいのか分からない。こんな空気の中で、なんというのが正解なんだろうか? まぁ、無難によろしくでいいんだよな? それで良い気がする。
「そう言えばアリーさん。シュテルン家の子も、今年入学しているようです」
「へぇ~、シュテルン家かぁ。まだ私は、あそこの子とは会ってないわねぇ。というか、この学校に7人の勇者の末裔が全員集合したってことになるわけかぁ。まぁ、だからって何が起きるってわけでもないんだけどね」
「え、そうなんですか?」
「ええ、確か4年に1人、3年に2人、2年に私の他に1人だったかしら?」
「あ、1人は私ですね」
えっ? さっきから一緒にいた、吹き飛ばされてきた女性がそう言った。
「3年のレラ・サルバノです!!サラサちゃんのところとは交流がありまして、バルトシュルツさんとは初めてですね!!よろしくお願いします!!!!」
「……ええ、よろしく。まさか、関係者だったとは。完全に部外者だと思っていたわ」
俺もビックリだ。まさか、あんな出てき方をした人が、そんな人だったとは……。
「レラさんに会ったのは今日が初めてですが、手合わせをお願いされまして。また、レラさんの技術力も高く、遠くに聞こえたベイの声に気を取られつい力を入れてしまい……。申し訳ないです」
「ああ、いいって言ったじゃないですかぁ。こんなのうちでは日常茶飯事でしたから、問題無いですよ!!やっぱり私もまだまだですね……。練習しないと。という訳で、サラサちゃんがうちの研究会に入ってくれると、大いに助かるんだけどなぁ~」
「……やはり、お断りします」
「ガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!」
またレラは、膝をついて固まってしまった。
「うぐぐ、でもいいもん。さっきより、サラサちゃんが打ち解けてくれた気がするから!!」
「あの、先程、3年と言いましたよね。実は、同い年ぐらいかと思っていました。申し訳ないです」
「ななっ!!……まぁ、若く見られるのは悪いことじゃないから、別にいいよね。改めて、これからよろしくね!!」
「は、はい……」
やたらテンションが高い人だなぁ。しかし、勇者の末裔かぁ……。この学校には、そんな強い人がまだいるかもってことか。創世級と戦う上で、何か参考になるものを持っているかもしれないなぁ。俺は、その人達と出会うのが、少し楽しみだと思った。