戦士
「ところで、ベイは何歳なんだ?」
少し歩いたところで、サラサが話しかけてきた。
「俺は、12だけど」
「12。……そうは見えんな」
「えっ?」
え、どう言うこと? 老けて見えるとか、そういうこと? いや、自分では全然そう感じないけども、人から見たらそうなのか?
「顔立ちや、鍛え方もそうだが。普通の12歳には見えない。15、6くらいだと思っていた」
「そ、そうか。サラサは、何歳なんだ?」
「私か……」
そう言うとサラサは、顔を隠していたねずみ色のフードをぬいだ。白い髪に、整った顔立ち。褐色の肌に、鋭い目をしている。左目には、斬られたような傷跡が残っていた。美人だが、その出で立ちから並々ならぬ経験をしてきた凄みを感じる。
「何歳だと思う?」
「……15、6歳かな?」
「12だ」
え、嘘。同い年!! 確かに、言われるとそんな気も……。
「今年から学校に通えと言われてな。今は、そこに行くところだ」
「もしかして、ウィルクスか?」
「ああ、そこの戦士科に入学することになっている。ベイも12と言うことは、同じ学校に入学するのか?」
「ああ、俺は魔法科だけどな」
「ふむ、これも何かの縁だ。これからよろしく頼む」
「ああ、よろしく」
お互いに挨拶を交わす。その後すぐに、サラサが軽く笑い出した。
「ふふふ……」
「……どうしたんだ、いきなり?」
「いや、なに。私ぐらいの年で、ベイみたいに鍛えている奴なんていないだろうと思っていたからな。ベイに出会えたことで、夏の闘技大会が楽しみになったよ。勿論出るよな、ベイ?」
ああ。アリーが言っていた、優勝すると卒業までの全ての課題が免除になるという、あの大会かぁ。
「勿論出るよ。ということは、サラサも優勝狙いかな?」
「ああ。実力で卒業まで勝ち取れるなんて、私からしたら嬉しい限りだ。結構楽だと思っていたんだが、ベイが出るならうかうかしていられそうにないな」
キンッ、という金属の触れ合う音がする。どうやらサラサが、自分の剣を触っているらしい。気持ちが高ぶっているのだろうか。話を聞く限り、とても戦うことを楽しみにしているようだ。この年で、どんな体験をすればそんな性格になるんだろう。
「おっと。サラサ、そろそろだぞ」
「うん?……なるほど。噂の魔物のお出ましか」
魔力の反応が近い。街道横の森の中から、その力は感じられる。俺からしたら、それほど脅威でもないのだが、一般人には十分脅威になり得る実力を持っているだろう。魔物の魔力を近くで感じて、俺はそう相手の実力を推測した。そいつは、俺達が近づいてきたのを感じたのか。自分から俺達のいる地点目指して移動を始める。木々を揺らし、そいつは俺達の目の前に現れた。
「……でかいな」
「ああ、まぁ、大型なんてこれくらいじゃないか……」
特に構えるでもなく、俺とサラサは感想を述べる。身体は赤い鱗で覆われており、腹の部分は白い。大きさは大人五人分位だろうか。2本の足で歩き、巨大な翼を持っている。顔立ちはトカゲにも近いが、鱗で独特の棘がついており、まさにドラゴンという感じだ。
「……」
ドラゴンは、無言の威嚇を俺達に向けてくる。その後、グルルッと低く唸り、大きく翼を広げてまるで存在を誇示するかのように俺達に向かって構えた。翼の羽ばたきで、周囲に突風が巻き起こる。その光景を見て、サラサはニヤリと笑った。
「……やる気はあるようだな」
「ああ。で、どうするサラサ?言った通り、俺が援護しようか?」
「……最初は、1人でやらせてくれないか?危なくなったら、援護を頼みたい」
「分かった。気をつけてな」
「恩に着る」
そう言うとサラサは、マントの前部分を開けた。軽い軽装の鎧に、腰の両脇には剣が装着されている。長剣と短剣の2つをゆっくりと抜き放つと、サラサはドラゴンに向かって構えた。
「さて、その図体だ。多少は出来ると期待している。お前の強さで、私を楽しませてくれ」
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
サラサの威嚇とも思える言葉を合図に、ドラゴンも鳴き声を上げた。それが、戦いの合図となった。サラサは一気に距離を詰めると、ジャンプしてドラゴンの頭に回し蹴りを入れる。
「グギャアア!?」
「フッ!!」
ドラゴンが、頭を蹴られわずかに怯む。その間にサラサは、剣でドラゴンを切りつけた。足を切るが、皮膚が固いせいか僅かな傷しかついていない。体勢を立て直したドラゴンの足踏み攻撃を素早く躱し、サラサは距離を取った。
「なるほど。皮膚自体が盾の役割をしているようだな。ならば……」
サラサが、赤いオーラを身に纏う。それは、一見強化魔法に似ているが、強化魔法とは似て非なる技術。
「初めて見たな。あれが、気ってやつか」
気とは、戦士などが使う強化能力である。魔法とは違い、その力には属性がない。ただ己を強化するために、鍛えに鍛えた戦士のみが会得できる技とされている。学者には、魔法と同じ原理。つまり感覚で出された一種の魔法だという者もいるが。その力は、魔法と比べて応用性がなく。他の物に纏わせたりすることが出来ない。謎の多い技術だ。
「……シッ!!」
気を纏ったサラサは、再びドラゴン目指して駈け出す。その速度は先程よりも早く、歩くたびに地面にサラサの地面を踏み抜いた跡ができていた。口を開け、近づかせないようにドラゴンは火の息を放つ。が、サラサは大きく跳躍し、そのブレスを飛び越えた。そして、ドラゴンの真上でサラサは剣を構える。すかさず、ドラゴンが首をサラサに向け迎撃しようとするが、サラサの次の行動よりも、その動作は遅い。
「でぇああああ~~!!!!」
落下の衝撃と、気合を乗せたサラサの斬撃が、ドラゴンの皮膚を切り裂いた。喉元から腹にかけて大きく切り裂かれ、ドラゴンの傷口から大量の血が拭きだす。
「グギャアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!!」
悲鳴を上げ、大きく上体を揺らしドラゴンはその場に倒れた。今の一撃は、致命傷に近かっただろう。だいぶ、効果的な斬撃だったはずだ。
「……ふぅ」
軽く息を吐くと、サラサは気を解いた。剣を鞘にしまい、俺のもとに歩いてくる。
「どうだ、私の実力は?」
「ああ、すごいよサラサ。……でも、まだ向こうはやる気みたいだ」
俺の言葉に、サラサが後ろを振り向く。すると、倒れたドラゴンが起き上がっていた。もう力が入らないだろう身体を、無理やりに起こし、俺たちに向かって口を開ける。
「チッ!!」
サラサが迎撃に動こうとするが、ちょっと遅い。そう思った俺は、手のひらから魔法を撃ち出し、水の弾丸でドラゴンをふっ飛ばした。
「グギャアア~~!!!!」
サラサを追い越した水の弾丸は、ドラゴンの頭に当たり、そのままドラゴンの身体を押し上げる。宙に浮いたドラゴンは、そのまま森に向かって軽く吹っ飛び、木々に身体を打ち付けられた。そして、それがドラゴンへのとどめとなった。
「……いい威力の魔法だな」
「ああ、ありがとう。余計なことしたかな?」
「いや、少し私が間に合うか怪しかったからな。いい判断だった」
そう言うと、サラサは抜きかけていた剣をしまった。そして、俺に向き直る。その顔は、どこか嬉しそうにしていた。
「さて、ベイは一旦あの町に戻るのか?」
「ああ、家族を呼んでこないといけないからね。ここまで付き合ってくれて、ありがとう」
「いや、私の方こそ。ベイがいないと、行かせて貰えそうになかったしな。それに、さっきのことで死にはしないだろうが、やけどくらいはしていたかもしれない。感謝しているよ」
どちらからともなく、お互いの腕をだし、握手をする。
「また会おうな。ベイ」
「ああ、またな。サラサ」
挨拶をしおえると、軽く腕を振ってサラサは歩いて行った。これで、この街道の安全は確保できた。あとは町に戻って、家族を呼んで、アリーに会いに行くだけだ。俺は、サラサが見えなくなるまで見送ると、転移して町に戻っていった。
「(うーん、なんだかんだで、今回は縁がなかったですね)」
「(そう上手くは行かないだろう。でも、あのサラサという人物は、いいのではないか?主も、嫌いではないようだし)」
「(ああ、確かにそれもそうですね。胸も大きくて魅力のある女性ですから、ご主人様も興奮なさるかもしれません)」
「(前から思ってたけど、ミルクって胸基準で物を語ることが多いわね)」
「(ええ!!だって、胸の大きさは、母乳を出す上で重要ですからね!!!!私のような牛にとって、とても重要視せざるおえない部分です!!!!)」
「(……)」
「(あ、フィー姉さん。そんな落ち込まないで。大丈夫です。フィー姉さんの魅力の前では、胸が小さくとも何の問題もありませんから!!だから、元気を出して下さい!!)」
一部始終を見ていた皆は、相変わらずのようだった。