街道
俺は現在、馬車に揺られている。学校の入学式に合わせて移動中だ。もちろん、保護者同伴である。
「しかし、ベイも入学する年かぁ。月日が過ぎるのは、早いもんだな」
「そうね。ベイがいない間寂しくなるけど、一緒に頑張りましょう」
「そうだな!!息子も学校で頑張るんだ。俺達も、頑張らないとな!!」
いい親だな。わざわざ休みをとって、俺を送ってくれるのもありがたい。7日間の旅だが、家族と共にいる時間を楽しもうかな。
「今日の宿泊地までは、あと9時間かかるな。尻を傷めないように、休み休み行こう」
特に問題なく、旅は順調に進んで行った。前の時と違ってアリーがいないが、退屈になることはない。何故なら、他に9人乗っているからだ。まぁ、親とも喋っていたが、俺の召喚魔法の話題を避けるのに苦労した……。こればかりは、まだ言う訳にはいかない。
なんだかんだで移動を始めて4日め。その日の宿泊予定の町に到着した時に、面倒事は起きた。
「うん、妙に武装した人が多いな。こりゃ、なんかあったかな?」
「どうも、旅の方ですかね?」
そうノービスが呟くと、町の関所にいた警備兵が声をかけてきた。
「ええ、ちょっと息子を学校に送る途中でして。……騒がしいですが、何かありましたかな?」
「ちょっと、野生の大型魔物が街道に出たという話が出ましてね。この街に来られても厄介なので、警戒しているんですよ。討伐隊がでているので、時期に退治されるとは思うのですが」
「なるほど。早く退治されるといいですな。では、警備のお仕事頑張ってください」
「どうも。そちらもお気をつけて。町の中でも、注意するに越したことはないですからね」
ノービスが身分証を見せ、問題なく関所を通過する。しかし、大型の魔物かぁ。まぁ、討伐隊が出ているなら、問題はないだろう。そう思い、安心してその日は宿に止まっていたのだが……。
「……討伐隊が返り討ちですか」
「ええ、そうなんです。無理に通行を止めるようなことはいたしませんが、確実に危険ですね。確認された魔物は赤いドラゴンで、50人の討伐隊が歯も立たなかったそうです」
「うーむ、それは厄介ですなぁ……」
「どうしても進みたいのでしたら、安全のため迂回されるのをおすすめしますよ」
「迂回ですか……。確か、2日かかるんでしたか。2日余分にかかるとなると、息子の入学式には間に合いませんなぁ」
ノービスが、困った顔でこっちを見る。カエラも困った顔をしてノービスを見返しているが、俺は正直このまま進んでも大丈夫な気がしていた。ドラゴン系の魔物なら、聖魔級迷宮で倒したこともあるし。……2人が知っているはずもないけど。
「うーん、どうするべきか」
俺がノービスに提案しようとすると、町を出ようとする一人の人影が見えた。
「おい、あんた。1人で。この道を通る気か?」
「うん?そうだが。何か、問題があるのか?」
「ああ、この道は今、大型の凶暴な魔物が出るからな。安全を考えるなら、迂回した方がいいぞ」
「そうか。問題ないな」
「あ、おい!!1人でなんて無茶だ!!命を投げ捨てるようなもんだぞ!!!!」
「気にするな。いい修行になるかもしれん」
警備員が止めようとするが、その女性は特に気にせず進もうとする。ねずみ色のマントで全身を包んでいるが、声からして女性だろう。それ程に、腕に自身があるのだろうか? ふむ……。
「あの人と、一緒に行くっていうのはどうかな?」
「うん?まぁ、確かにこの状況で1人で行かせるというのも、寝覚めが悪いかもしれないなぁ」
「そうね。でも、私達でなんとかなるのかしら?あの人が、どれくらい強いかもわからないし」
「多分、俺1人でもなんとかなると思うんだけど」
「ベイ、さすがにそれは……。いや、ベイはマリーさんにも勝っていたな。うーん、だがしかし……」
「そうね。いくらベイが強くても、万が一ってこともあるわ」
うーん、心配する気持ちはわかるけど、まさか神魔級や創世級がいるわけでもないだろうし。万が一もないと思うんだが…足。口で説明するのは難しいな。なら……。
「俺があの人と、ちょっと先を見てくるよ。危なくなったら、あの人ごと逃げる。倒せたら、倒す。それなら、あの人を見捨てないし、回り道もしなくて済むかもしれない」
「ベイがか?だが、戻りはどうする。そんなに早く、帰ってこられるのか?」
「風魔法を使うから、それなりに早く帰ってこられるよ」
「あ~、アリーちゃんがやってたようなやつね!!」
「うーむ、それなら逃げるのも楽か……」
まぁ、転移魔法を使うと思うけどね。2人がここで変なリアクションをして、人目を集めるのは嫌だから、言わないけども。
「うーん」
ノービスは、やたら悩んでいる。息子を行かせていいものかと、脳内でせめぎあいが続いているんだろう。カエラも、同じような顔をしていた。
「大丈夫だって。俺に任せて。2人は、待っててくれればいいからさ」
「……分かった。父さんたちは、魔法で早く動けないから、逃げる足手まといになってもいけないしな。大人しく待っていることにするよ。無事に戻るんだぞ、ベイ」
「大丈夫。じゃあ、行ってくるよ」
「気をつけてね、ベイ」
2人に見送られて、俺はまだ警備員に止められている女性の元へと歩いて行った。
「すいません」
「うん、君も行くっていうのか?」
「ええ、この人と一緒に行こうかと……」
「私とか?」
「見たところ、相当身体を鍛えているみたいですね。恐らくあなたは、前衛職の戦士といったところではないでしょうか?」
「ほう……」
「俺は魔法使い。前衛と後衛で、安定して戦えると思います。どうです、途中までチームを組むというのは……」
ジッと、その女性は、俺の頭から爪先までを見る。すると、警備員に向かって……。
「彼と2人なら、問題ないだろ?」
と言った。
「うーん、だが2人では……」
「彼を見ろ。服の上からではわからないかもしれないが、魔法使いとは思えないほど鍛えている。そんじょそこらのハンターより、余程頼りになるだろう。むしろ、彼の安全を君が気にするだけ、野暮というものだ」
「そ、そうなのか?」
「……まぁ、それなりに」
「もう、行ってもいいな?」
「……ええい、分かった!!俺は、止めたからな!!危なくなったら、すぐに逃げるんだぞ!!!!」
「ああ、分かった。では、行こうか。えっと……」
「ベイ。俺の名前は、ベイ・アルフェルト。よろしく」
「ベイか。私はサラサ。サラサ・エジェリンだ。サラサでいい。よろしくな」
こうして、俺とサラサは街道を歩き始めた。ノービスとカエラが手を振っているので、手を振り返して先を急ぐ。さて、アリーに早く合うために、魔物退治をさっさと済ませるとしますか……。
「(ドラゴンですか。雌なら、仲間にするのもありなんじゃないですかね?)」
「(うーん、でも、まずは見てみないと。マスターのためになる子か、分からないし)」
「(まぁ、それはそうなんですけど。雄なら、尚更駄目ですしね)」
「(主の判断に任せるべきだろう。あまり焦って、決める必要もないと思う)」
「(むむっ、確かに……。4人が入った時の水着作戦が、あまりにうまく行きすぎたもので、少し次を焦りすぎたようです。そうですね、ご主人様に任せましょう!!)」
うーん、と言われても、俺もその時になってみるまでは分からないな。言葉が通じる魔物である保証もないし。ドラゴンを連れると言うのは、ファンタジーではよくあることだが。果たして、うちに縁のある魔物なのか……。それならそれで、結局ミルクが決めそうな気もする。そう思いながら、俺はだいぶ先にいる大きな魔力の塊を認識した。