連続
「さて、ここで良かったよな」
翌日、俺達は昼過ぎに聖属性聖魔級迷宮を訪れていた。今、俺達がいるのは山の山頂である。
「しかし、山の山頂とは思えない作りだな。ここ」
そこは一見すると、1つの町だった。山の山頂だというのに、その広大な面積に何件もの家が建ち。奥には、巨大な城まで存在している。住居もしっかりした作りになっていて、その光景は殆ど人が住んでいる町と違いがなかった。今、俺達がいるのはその中央に位置する、天使の女性の像が置かれている公園のようなところだ。座るためのベンチもある。
「ミエル達は、まだいないか……。少し、早く着すぎたか?」
「どうですかねぇ。やはり、1日で改革を行って出発の準備をするというのは、無理があったのでは?」
「そうかもな。まぁ、少し待ってみよう……」
俺は、ベンチに座る。膝上に、スッと自然にミルクが座った。俺の隣には、フィーとレムが座る。そして、背中にカヤが抱きついてきた。ミズキは、端に座って辺りを警戒している。
「お~い!!遅くなって、すんませんっす!!」
城の方から、シスラが飛んできた。何やら、慌てている表情だ。やはりまだ、忙しいのだろうか?
「いやぁ~、申し訳ないっす。……あの~、ところでちょっと、お願いがあるんっすけど」
シスラは、申し訳無さそうに言った。
「なにか、問題でもあったのか?」
「ああ、いやぁ~、問題って言えば、問題っすけど。とにかく、来てもらっていいっすか?」
「?」
取り敢えず、俺達はシスラの案内で城に行くことになった。ゆっくり歩いて、たまに街の説明をされながら城に向かう。城の門をくぐると、そこには大勢の兵士がいた。皆、まるで今から戦闘にでも行くかのような気合を放っている。その先頭に立っていた男が、俺達に向かって歩んできた。
「シスラさん、こちらがベイさんですか?」
「ああ、そうっすよ。ベイさん、こちら現在上位にいるシバンさんっす」
「ああ、どうもよろしく」
「どうも。……早速で悪いのだが、私と戦って頂けませんか、ベイさん?」
「へ?」
シバンさんは、俺と握手しながらそう言った。なんで、いきなりそういう話になるんだ? 訳が分からず、俺は首を傾げた。
「あ~、ベイさん。ミエル様がっすねぇ、ベイさん達と創世級に立ち向かうってことを、皆に言って回ったんすよ。でもね、中には彼みたいに、そんなに強い奴がいるなんて信じられない。ミエル様は、騙されてるんじゃないか?と、思った人達がいたみたいなんっす」
「……まさか、それがここにいる全員ってわけか」
俺は、兵士達を見た。ざっと200人位はいるだろうか。皆、姿勢を正したまま黙っている。
「ええ、そうっす。もし創世級に本当に挑むなんて実力があるなら、自分達ぐらいすぐに倒せるだろう。それができないなら、ミエル様はここに残るべきだ。と、思われている方々っす……」
「でもこの前、殆どの人が、ミズキ1人にやられたと思うんだけど?」
「彼らは、その事実を知らないっすからねぇ。元から、睡眠ガスを出すアイテムが、仕掛けられていたとでも思っているんでしょう。あれが全部1人の仕業とか、考えづらいっすからねぇ」
「なるほど。はぁ~、ミエルは慕われてるんだなぁ~」
「まぁ、優しい性格っすからねぇ。魔法が使えなくても、皆とはうまくやってましたっすし。今や、階位1位っすからねぇ。いなくなるのを、惜しむ声も多いんすよぉ」
俺は、広場にいる兵士たちを見回す。皆、ジッと俺を睨みつけていた。すごい威圧感だが、まぁ、戦うぶんには問題無いだろう。そんなに強そうに感じる人もいないし。
「で、俺はシバンさんと戦うだけでいいのかな?」
「まぁ、皆と1人づつ戦ってたら、きりがないっすからねぇ。どうしてもって言うんで、犠牲者を1人選んでもらったっす」
「分かった。じゃあ、やろう」
「ありがとうございますっす!!では、こちらにどうぞ」
俺とシバンは、城前の敷地中央に移動した。シスラが、ミエルが戦った時のように光の円でリングを作る。その後、シバンが鎧と武器を身に纏ったので、俺も剣を抜いた。お互いに、ゆっくりと武器を構える。
「では、始め!!」
シスラの開始の合図と共に、シバンは突っ込んできた。剣で一直線に、俺に斬りかかってくる。
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
「……」
剣に、全身全霊の気合を乗せて、切り込んでくるシバン。だが、悪いな。お前の攻撃、レムの斬撃よりも圧倒的に遅い。俺は軽くその剣をいなし、そのままシバンの腹を殴った。俺の拳が、シバンの腹筋にメリ込む。
「グボッ!!!!」
俺のパンチの衝撃で、シバンはそのまま後ろに吹っ飛んで行った。円の外に出てもなお止まらず、地面の上を転がりながら土埃を上げている。そして、その後ゆっくりとシバンは止まった。上級強化程度しかかけていないが、彼にはこれで十分だろう。兵士たちが、あっさりとやられたシバンを見つめ、固まっている。少しした後、数人が彼に駆け寄った。そして、気絶しているのかシバンは、そのままどこかに運ばれていった。
「いやぁ~、さすがっすね。あれでも結構、ココらへんでは強い方なんっすけど」
「まぁ、いつも戦ってる練習相手が強すぎるからね。そう簡単には負けないさ」
「なるほどっす。さー、皆さんも分かったっすよねぇ!!はい、解散するっすよー!!!」
シスラの言葉で、残っていた兵士達が散り散りになっていく。そして、入れ替わりに城から、ミエルとサエラが出てきた。ミエルを見送るためか、後ろに多くの同族魔物の方々がついてきていらっしゃる。
「ベイさん、どうもすみません。私の仲間たちが、お時間を取らせまして」
「ああ、いいんだよ。ところで、俺達について来て、本当に大丈夫なのか?」
「ええ。もう、皆が階位をあまり気にすること無く、平和に暮らせます。後は、私がベイさんのお役に立って、創世級を倒せれば良いのですが」
「まぁ、そこは一緒に頑張ろう。これからよろしくな、ミエル」
「はい!!」
俺は、取り敢えずまだ契約していない、ストックの召喚魔石を取り出した。
「これに、魔力を流してくれ。それで、契約は完了だ」
「分かりました」
ミエルが、魔石に手を伸ばそうとする。が……。
「へぇ~、これに魔力を流せばいいんっすか。よっと……」
「えっ?」
魔石が、白色に変わる。シスラと、俺の契約が完了した。
「えっ、シスラ?」
「ふふふ、私がミエル様を、1人で行かせるわけないじゃないっすかぁ~」
取り敢えず俺は、もう1つ予備の魔石を取り出す。
「あら、では私も……」
また勝手に、魔石に魔力が流される。サエラと、俺の契約が完了した。
「サエラまで!!」
「ふふっ、私達3人は、今まで一緒だったじゃないですか。これからも、お供しますよミエル様」
「そうっすよ。私達、ミエル様をほっとけないっすからね!!」
3人は、肩を寄せあって抱き合った。ミエルは、二人の行動に目を潤ませている。俺は、最後のストックの魔石を取り出した。そして今度こそ、ミエルが魔力を流すことができた。これでミエル、シスラ、サエラが、俺たちの正式な仲間となった。
「シスラ、サエラ。共に、ベイさんのために頑張りましょう!!」
「はいっす!!」
「はい!!」
……なんか、一気に大所帯になってしまったな。大丈夫か? いや、まだ部屋にも余裕はあるし、魔石の中で寝てもらえばいいだけだが。二人も来るとは思っていなかった。いや、嬉しいけども。
「あの~、ベイさん。もう石のあまりって、無いっすかねぇ?」
「えっ?ああ、聖魔級程度の魔石なら、すぐに出来るけど……」
「おお~、じゃあ、もう1つもらえます?」
シスラが、何を考えているのかは知らないが、取り敢えず作ってあげることにした。その場で手のひらを合わせて、魔力を練って作成する。俺も慣れたもので、この程度なら一瞬で出来るようになった。成長したな、俺。この速度での魔石作成は、一生かかっても無理だと思っていたのに。人間て、やれば出来るものだなぁ。
「はい」
「ありがとうございますっす」
完成した石を、シスラに渡す。すると、後ろにいた人から声がかかった。
「シスラ、サエラ。ミエル様を、よろしくお願いします。私は、一緒に行くことはできませんが、健闘を祈っていますよ」
「……シゼルさん。今まで、私に魔法を教えようとしてくださったこと。それに、私達が追われていた時に、兵士の中に私達を逃がすための人員を配置してくださったこと。ありがとうございます」
「いいのよ、ミエル様。結局は、根回しは無駄になってしまったけど。ともかく、ミエル様が無事でいてくれればそれでいいの。これから辛くなるかもしれないけど、頑張ってね。ミエル様なら、きっとやり遂げられるわ」
「シゼルさん……」
ミエルは、シゼルにゆっくりとお辞儀をした。シゼルも、ミエルに近づき抱きしめる。少しすると、離れて手を振った。
「じゃあね、3人共。精一杯頑張るのよ」
「はい、行ってきま……」
「あれ、ちょっと足が?」
シスラが、いきなりよろけた。
「うん、シスラ、どうかしましたか?」
「うーん、まだちょっと、昨日の戦いの痛みが引いてないみたいっすね。シゼルさん、ちょっと回復魔法かけてもらってもいいっすか?」
「いいですよ」
シゼルが、シスラの足に魔法をかけようとする。が、タイミングを測ったように、シスラがシゼルの腕に魔石を押し付けた。
「えっ?」
瞬間、魔石が光を放つ。俺と、シゼルの契約が完了した。