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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第ニ章・一部 仲間を探して
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光斧

 シスラの開始の合図が響く。だが、2人は、すぐには動かなかった。ゆっくりと相手の出方を伺うように、ミエルとバシュルは止まっている。すると、先にミエルが動いた。牽制するように、長いリーチを活かして、ミエルはハルバードを振る。バシュルは、それを丁寧に盾でガードしつつ、剣でミエルを切ろうとした。だが、ミエルは剣の斬撃距離には入らない。バシュルが、一歩ミエルを切ろうと歩みを進めると、ミエルは一歩下がってハルバードを構えた。ただの剣と、ミエルのハルバードでは武器の有効範囲が違う。ミエルがハルバードの有効範囲ギリギリで戦闘を進める限り、強引に前に出るしかバシュルが攻撃する手段はないだろう。


「……」


 そのミエルの動きを見て、バシュルは盾を構え直した。その盾目掛け、ミエルはハルバードを振っていく。横薙ぎ、突き上げ、斜め切り。いずれの攻撃にも、バシュルは盾を使い対応した。ミエルの牽制程度の攻撃では、バシュルの盾は揺るがない。そうしながらも、バシュルはミエルの動きを観察している。チャンスを狙っているのだ。自身が切り込むチャンスを。


「雑だな……」


 レム先生が、そうおっしゃる。剣と盾と言えば、うちではレム先生だ。レム先生の今の雑だなを、分析するに。バシュルは、盾の重さに頼り切っている。盾を使って、攻撃のチャンスを作ろうとしていない。それでは、遮蔽物と変わりない。盾ではないと、レム先生はおっしゃっている。正直、レムにかかればバシュルなど、2秒で首と胴体がさよならしているだろう。だが、相手はミエルだ。以下にレム先生から見て雑な盾でも、ミエルにとっては強固な壁。今すぐに崩すというのは難しそうだ。


「ふぅ……」


 ミエルが、息を吐く。決め手にかけている。それを、ミエルも分かっているはずだ。このまま攻撃を続けても、ミエルが体力をバシュル以上に消費してしまうだけだろう。それが分かっているからか、バシュルからミエルは距離を取り、大きく力を溜める動作に入った。その動きを見て、バシュルは腰に力を入れて盾を構える。どうやら、その一撃を盾で受けきり、反撃に移る作戦のようだ。


「……ハァッ」


 ミエルが小さく声を出すと、ハルバードに魔力が集まっていく。その魔力量を見る限り、ミエルはこの一撃で決める気だろうというのが分かった。ミエルのすべてを掛けた全力の一撃が、バシュル目掛けて叩き込まれようとしている。どうやら、強固な盾を無理やり崩す作戦にミエルは出たようだ。魔力が集まることで、ハルバードが輝きを増し、刃の部分が魔力によってその大きさを拡大していく。


「ふん……」


 バシュルも、その動きに合わせて、盾に魔力を集中させた。徹底して防御の構えを崩さず、より深く腰を下ろし、ミエルが一撃を放つのを虎視眈々と狙っている。盾が、魔力によって淡く光を放ち面積を広げ、ミエルとバシュルの間を一枚の壁となって塞いだ。


「……いきます!!!!」


 ミエルが、気合の一声を放つ!! ミエルが全力を込めた一歩を踏み込むと、地面が土煙を上げた。大きく振りかぶったハルバードが、強烈な光を放つ。その刃に宿った大きな魔力が、周囲の空気を振動させて唸りを上げた。溜めきった腕を勢い良く解き放ち、ミエルはハルバードをバシュルめがけて一閃する!! 輝きを放つ刃と、光の壁が激突した!!!


「うぉぉぉぉおおおお!!!!」

「ぐっ!!」


 ハルバードを振りぬき、盾に攻撃を当てた後も、ミエルは腕に力を込めて攻撃の手を緩めない。ハルバードに宿る魔力が、盾を砕こうとする。だが、バシュルも足で踏ん張り、魔力を盾に注ぎこむことに専念することで、盾の崩壊を防いでいた。同時に、バシュルは盾に注ぎ込む魔力の性質を変えて、盾の形状をミエルの攻撃を受け流しやすいように変えている。だが、ミエルのハルバードに宿る魔力量の方が高い。次第に、バシュルは盾を支えきれなくなっていった。


「くっ!!」


 足を地面に力強く踏み込み、バシュルは再び体制の立て直しを図る。バシュルは、更に盾に多くの魔力を注ぎ込んだ。盾の放つ、光が増していく。バシュルの盾が、僅かにミエルのハルバードを押し返した。


「はああああぁぁぁぁ!!!!」


 ミエルも、足をさらに踏み込み、ありったけの魔力をハルバードに込める。ハルバードの刃が、さらに大きくなり、バシュルの光の盾に食い込み始めた!!


「な、なんだと!?」


 ハルバードの刃が深くめり込んだところから、バシュルの盾に亀裂が入り始める。慌てて盾に注ぎこむ魔力量を上げ、持ちこたえようとするバシュル。だがもう、盾の崩壊は止められそうにない。


「あなた達が、今までやってきていたこと。全てが悪いとは言いません!!……ですが、他に道があったはずです!!!皆から、少しづつ魔力を集めるだけでも良かった!!あなた達に、皆を信じ、共に創世級に立ち向かおうとする勇気さえあれば!!」

「貴様に何が分かる!!!あの強さも分からぬ、貴様ごときに!!!」

「確かに、そうかもしれません。ですが、その為に私の大切な友人を殺そうとしたこと。仲間を、オルヴィアの石によって殺してきたその罪。……私は、許せません!!!!」

「これが最善だーー!!放っておけば、皆死ぬのだぞ!!!!弱い奴は、少しでも我々の役に立つように死ぬべきなのだ。そうあるべきだ!!我々が少しでも、生き残る確率を引き上げるためにな!!!!」

「例え生き残るためだったとしても、あなた達の一存で、失われていい命なんて無い!!……そんなにも、創世級が怖いと言うのなら!!私が、ベイさん達と私が、創世級を倒します!!!!」


 ミエルは、さらに腕に力を込め、ハルバードに流す魔力を強めた!!


「バカが!!貴様らごときが、相手に出来る相手ではない!!!!」

「そんなこと、オルヴィアの石に頼り、上の地位にすがっていただけの貴方に、言われる筋合いはありません!!!!」


 瞬間、ミエルのハルバードが、バシュルの盾を粉砕した。衝撃によって、バシュルは吹き飛ばされる。そして、円の外へとはじき出された。


「がああああぁぁぁぁ~~!!!!」


 地面を二転三転し、バシュルは山の岩肌へと激突する。衝撃で、辺りに土煙が広がった。


「……無駄な、考えだ。どんなに鍛えたとて、あれに、勝てるはずが……」


 そう言うと、バシュルは意識を失った。


「無駄ではありません。何故なら、前に進む姿を見せる事こそが、皆を支える力になるのですから」


 ミエルは、ゆっくりと振りぬいたハルバードを、持ち直した。


「勝者、ミエル様!!」


 シスラの声が響く。瞬間、光を放っていた円が、光の粒子となって辺りに広がった。どうやら、これで階位1位がミエルになったことが、種族全体に伝わるらしい。これでもう、ミエルが追われることはないだろう。何故なら、ミエルが組織のトップになったのだから。


「おめでとうございます、ミエル様!!今日は、宴っすね!!」


 シスラとサエラが、嬉しそうに駆け寄る。だが、ミエルは、首を横に振った。


「いえ、まだやることがあります。ミズキさん、皆の眠りを解除して頂けませんか?」

「……ああ、分かった」


 ミズキが、寝ている者達の状態異常を解く。徐々に、寝ていた者達が起き始めた。広がった光によって、ミエルが階位1位になったことが分かっているのか、回りにいる者も誰も攻撃してこようとはしない。


「ベイさん、そして皆さんのお陰で、バシュルと戦って勝利することが出来ました。本当に有難うございます」


 丁寧にミエルは、俺に向かって頭を下げた。シスラもサエラも、続けて頭を下げる。


「まぁ、役に立てたみたいでよかったよ。で、どうする?階位1位だかになったんだから、色々としなきゃいけないことがあるんじゃないか?」

「はい。ですが、私は決めました!!私は、ベイさんたちについて行き、創世級を倒すお手伝いをしたいと思います。ですので、明日、また来て頂けませんか?それまでには、行けるように準備をしておきます」

「ええ!?明日までにっすか!!!!それはちょっと、早すぎるんじゃあ……」

「シスラ、サエラ、だからあなた達の力が必要です。これから階位最下位の者も、死なせるのではなく、より皆で支えあって生きていけるように決まりを変えます。皆を集め、すぐにこのことが知らせられるようにして下さい。お願いします」

「はぁ~、わかったっすよ。今日は、忙しい一日になりそうっす」

「頑張りましょう、シスラ。ミエル様も頑張ったんだもの。次は、私達がお役に立つ番よ」


 そう言って、2人は仲間を集めに飛んでいった。俺達も、一旦ミエルをミエル達の住居まで送り届けてから、家に帰ることにした。種族のことに、部外者がいても邪魔になるだけだろう。ミエルの頑張りを、信じて待つ。今日は俺達は、そうすることにした。


「……ところで、ミズキはどれだけ強くなったんだ?」

「殿、手合わせしてみますか?」

「……お手柔らかに頼む」


 その日、ミズキと戦闘訓練をしたのだが。常に20体ほどのミズキの分身に囲まれながら、縦横無尽に繰り出される細い水の糸と触手を避けつつ、刀を持って迫るミズキをはねのけるという無茶な動きを強要された。無数の水魔法の手裏剣も、まるで雨のように俺に降りかかる。そんな、かなりの地獄を体験した。レムや、ミルクでさえキツイと思わせるその訓練は、その日の内に俺たちの中で、ミズキ地獄という名で語られることになる。



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