決戦
魔法で風を蹴り、俺は龍に向かって飛んでいく。さっき程までの動きを見る限り、ミズキやフィー、ミルクよりも、龍の動きは早くはないだろう。落ち着いて立ち回れば、問題ない相手のはずだ。不安があるとすれば、この戦いが空中戦であることぐらいか。突っ込んでいく俺に、龍は光の弾丸を7つ放ち、牽制をしてくる。
「少し前の俺だったら、焦った攻撃だろうな……」
俺はその光の弾丸に、自分が発生させた7つの闇の弾丸を当て、相殺した。
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
魔法での攻撃が無駄だと判断したのか、龍は口を開き、俺を噛み殺そうと距離を詰める。だが俺は、焦ること無く龍の動きを観察した。龍が、俺を食い殺せる距離まで迫る。その瞬間、俺は急激に飛行角度を変え、風魔法で加速し、龍の腹下に潜り込んだ。
「グアアアア!?」
龍も回り込んだ俺に反応して、前足での迎撃を試みる。が、俺はその前足を、真正面から切り落とした。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
龍の悲鳴にも似た咆哮が響く。そのまま俺は、龍の腹に、剣を突き立てて切り裂いた!! 聖魔級強化をかけたこの剣なら、こいつの皮膚が多少硬かろうと問題ない。そのまま一気に剣を滑らせ、龍の腹をぶった切る。
「グガアアアッ!!!!」
痛みを押し殺し、後ろに回った俺を龍は、尻尾で迎撃しようとする。が、俺はその攻撃を避けずに、剣を振り抜いてしっぽを切り落とした!!
「グギャアアアアアアア!!!!」
短い龍の悲鳴が聞こえる。体をねじり、龍は大きく翼をはためかせた。龍は俺から距離をとると、立て続けに光の弾丸を放つ。
「……なるほど」
連続して飛んでくる光の弾丸に対して、俺は闇の弾丸を当て、全て撃ち落とした。その僅かな時間の間に、龍の口には、別の聖属性の魔力が集まっていく。
「撃ち合い、といくか」
龍に合わせて俺も、剣に闇属性の魔力を集中させた。魔力が集まったことで、その魔力がまるで剣の刀身であるかのように伸び、大きな剣のシルエットを形作っていく。
「グラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!」
咆哮とともに口を開くと、龍が俺目掛けて特大の光弾を撃ちだした!!
「ぶった切れろ!!!!」
俺も、剣に込めた闇属性の魔力を振り切り、龍目掛けて闇の魔力の斬撃を飛ばす。2つの相反する魔力が、空中で激突した!! しばらくその場で、魔力同士がぶつかり合っていたが、闇の斬撃が龍の光弾を引き裂いた!!
「グガアアアアアァァァァァァ!?」
そのまま、斬撃は龍に迫る。慌てて、光の弾丸を当て撃ち落とそうと龍はするが、闇魔法の斬撃が止まることはない。
「おわりだな」
俺は、剣を鞘にしまう。それと同時に、龍は頭から真っ二つになった。龍は悲鳴も上げず、光の粒子となって消えていく。
「少しは骨のある相手だったかな。うーん、そろそろ俺たちも、神魔級迷宮に挑んでもいい頃合いかもしれない」
俺は、消えていく龍の光の残滓を眺めながらそう思った。今の龍の強さが、さっきまで戦っていた魔物達と大きく違うことを考えると、恐らくこの迷宮のボスだろう。俺でもあっさり倒せたところを見ると、皆ならもっと楽に倒せたに違いない。ここよりも更に一歩進んだランクで戦っていくほうが、今後の皆の成長に繋がりそうだと俺は思った。
「殿、終わりました」
「ごっ、しゅじんさま~~!!」
「主、お怪我はありませんか?」
転移魔法で移動してきた、レム、ミルク、ミズキが俺に話しかける。ミルクはそのまま俺に抱きついてきたので、抱っこする形でミルクを抱えた。大きな2つの膨らみが、俺に向かって押し付けられる!! うん、素晴らしい!! ドリームマウンテン!!!!
「……おっほん。ああ、怪我も無くこっちも片付いたよ。じゃあ、助けた3人のとこに行くか」
「承知」
「はい」
「うふふ、ご主人様~!!」
ミルクは、そのまま俺に頬ずりを続ける。レムとミズキが、ジト目でミルクを見ているが、ミルクはお構いなしだ。というか、ミズキも飛べるんだな。どういう原理だろうか? 考えてもよく分からないまま、俺達は地上に降りていった。
「お、主様ー!!ここですよー!!」
下から、カヤの呼び声が聞こえる。俺達は、声を頼りに地面に降りた。
「ああ~~!!ミルク、ずるいわよあんた!!」
すぐに、カヤも俺の背中に抱きついてくる。俺は、ミルクとカヤに前と後ろから頬ずりされて、とても気持ちがよかった。更に言うと嬉しい!! とても大きな癒しパワー感じる!!!! だが、そんな俺達をシスラ達が、なにか生暖かい目で見ていた。……俺、恥ずかしいです!!!!
「……ああ、こんな格好でなんだけど。君たちを追ってきてた相手は全部片付いたから、安心していいよ」
恥ずかしさを誤魔化しながら、俺はそう告げた。
「えっ、アレだけの人数を、もうっすか?」
「嘘……」
2人は、驚いて目を見開いた。まぁ、俺もあの大軍をどうやってこんな短時間で無力化したのか分からないけど、この3人だし、できても不思議ではない。特に、ミズキ先生が進化していらっしゃるからね。確実に出来ているという信頼がある。
「ああ、これで何も問題ない。後は、今後どうするかだが、私達と一緒に来ないか?殿も、歓迎している」
ミズキがそう言うと、2人は我に返ったのか、悩んだような表情でお互いを見つめ合った。よく事情は知らないけども、あんなに大勢に追われて、他に取るべき選択肢があるのだろうか? 彼女たちの社会構造はよく知らないが、今の状況が相当やばいものであったのは確かだと思う。まぁ、3人が決めることだから。俺としては、できるだけ彼女達の意見を尊重するべきだろう。
「あの……。よろしいでしょうか、ベイさん」
いつの間に起きていたのか、ミエルが俺に話しかけた。
「もう少し、もう少しお仲間になる話の待ち時間をいただけませんか?私達には、まだここでやることがあります」
真剣な表情で、ミエルはそう言った。その顔は、申し訳無さそうでもあり、覚悟を決めたようでもあった。その思いつめながらも、覚悟を持って進もうとする彼女の顔を見て、俺は彼女の力になりたいと思った。
「ああ、大丈夫。俺達に、なにか手伝えることはないか?」
「……ありがとうございます。是非、皆さんの力をお貸し下さい。この御恩は、必ず、必ずお返しますので……」
ミエルは、深々と丁寧に俺達に頭を下げた。俺は、皆を見回す。皆、一同に俺を見て、優しい顔で頷いた。
「任せてくれ。俺達なら、大抵のことは大丈夫だ。で、まずは何からすればいい?」
そう言うと、俺の言葉にミエルは頭を上げる。
「はい。私が、階位1位になる必要があります。なのでこれから、階位1位の者をこの私が倒さねばなりません」
「ミエル様、大丈夫っすか?龍は倒したと言っても、バシュルは強敵っすよ」
「分かってます、シスラ。でも、やらなければなりません。私達が、前に進むために」
「ミエル様、いつの間にか、お強くなられましたね」
「うーん、まぁ、ミエル様がそう言うなら、あたしはついていくだけっす!!じゃあ、これからいっちょ、バシュル退治と行きますか!!」
3人はお互いを見つめ合い、頷きを交わした。その表情から、3人の固い結束が見えた。
「ふむ。で、そのバシュルというのは、何か特徴があるのか?」
「は、はい!!えっと、白い髭を蓄えていて、大柄な老人の、私達のような羽の生えた魔物ですね」
ミエルは、ミズキにそう答えた。その答えに、ミズキは、レムとミルクを見る。そのミズキの視線に、2人は複雑そうな顔を浮かべて、頷き返した。
「多分、そいつのいる場所なら分かるぞ」
「本当ですか!!……では、行きましょう。いったい、どこにいるのでしょうか?」
「ああ~、まぁ~、山の麓らへんで寝ているだろうな」
「えっ、寝ている?」
ミズキがそう言うと、3人はどういうことだ? という表情をする。とりあえず、俺達はその場所に向かって、移動を開始することにした。