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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第ニ章・一部 仲間を探して
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理不尽

 ミエル達の討伐命令を受けた戦闘部隊は、釈然としないまま任務を受けたものが大半であった。あのミエルとそのお付きの2人が、武器を手に反逆を行うなどとても信じられることでは無い。だが彼らは、任務に従う必要があった。なぜなら、有り得ない事態が起きた時のための戦闘部隊だからだ。上からの命令があれば、迷うこと無く任務を遂行し種族の安全を守らなくてはならない。それは、彼らにとって何よりも優先されることであった。だから、彼らは迷いながらも、ミエル達を追っている。山を降り、部隊を周辺に向かって放ち始めた、その時だった……。


「……なんだ、これは」


 いきなり空中が、白い霧のようなもので覆われていく。


「おい、気をつけろ!?なにか、……お……か……しい」


 隊長格の者が、その場に倒れこんだ。その周囲にいた者達も、次々と倒れていく。空を飛んでいる者も、ゆっくりと地面に落ち、その意識を手放した。


「こ、これは……。睡眠ガス……」


 部隊に居た回復役の彼女は、瞬時に状態異常回復魔法を自分にかけることによって、なんとか眠らずにすんでいた。


「みんな待ってて、すぐに回復を!!」


 そして、不意に彼女は、腹を殴られた。一瞬にして、彼女の意識は飛び。そのまま彼女も、眠りに落ちていく。


「やれやれ、せっかく進化したというのに……。これでは、力を試すことも出来ずに終わりそうだな……」


 彼女を殴ったミズキは、1人白い霧の中で意識を保っていた。ゆっくり辺りを見回し、起きている者が居ないか探る。この周辺の者は、ミズキを除いて誰もが完全に眠りに落ちていた。


「(あー、あー、こちらミルク。ミズキ、聞こえてますかねぇ?)」

「ああ、ミルクか。聞こえている。言われた通り、できるだけ殺さずに倒したぞ」

「(おお、助かります。これから仲間にする種族の仲間を皆殺しにするなんて、流石に私達の印象が悪くなりますからねぇ……)」

「問題ない。こちらはおわった。すぐに、そちらの手伝いに動く」

「(えっ、もう中央制圧ですか?はぁ~、さすがというか、何と言うか……)」

「新しい力の一つでな、意外とあっさりおわったよ」

「って、うわあああああ!?いきなり転移で、横に出てこないでくださいよ!?」


 ミズキは、ミルクの近くに転移する。すると、すぐに辺りに白い霧が立ち込め始めた。ミルクの放った牛軍団によって、気絶させられた者たちの残りが、次々と眠りに落ちていく。


「うわぁ~、何と言うか……。えげつないですねぇ」

「そうか?」

「と言うか、これ、私は大丈夫なんですか?」

「ああ~、仲間には私の能力・可変状でそういうのを無効にしているから。だいぶ前から、状態異常は効かない体になってたぞ?」

「……知らなかったんですが」

「まぁ、教える機会もなかったしな」


 ミズキは、周りの者が全て倒れたのを見ると、そのままミルクごとレムの近くに転移した。


「む、ミズキとミルクか」

「ああ、片付いたので手伝いに来た」

「はぁ、やっぱ転移って便利ですねぇ~。というか、ミズキが便利すぎるというか」


 そうミルクが言っていると、また辺りが白くなっていく。すぐに、その場の敵は倒れて眠った。


「……これは、ひどいな」

「でしょう」

「そんな風に言われても、困るのだが……」


 ミズキは、困惑した表情をした。その顔を見て、ミルクとレムが顔を見合わせる。


「何と言うか。便利なものは、便利なんだが。なぁ?」

「そうですよねぇ。便利なんですけど、その、なにかひどいですよね。こちらとしては、悪くないんですけども」


 レムとミルクも、お互いに顔を見合わせながら複雑そうな顔をした。


「……まぁ、いいじゃないか。とにかく片付いたのだし、殿のところに行こう」

「まぁ、そうですね。行きますか……」


 全員が転移しようとしたが、その時、上から光が降り注いできた。攻撃ではなく、広範囲の状態異常を治すための光だ。その光りに包まれて、先ほどの兵士たちよりも、少し強そうな魔物達が降りてくる。彼らは、階位でも上位に位置するいわばエリート部隊であり。戦闘においては、切り札としての運用をされる部隊だった。


「お前達、よくも我らの仲間を!!」


 隊長格らしき男が、ミズキ達に向かって剣を構える。


「「あっ」」


 だというのに、ミルクとレムは特にその言葉自体には何の反応も示さず。ただ短く、あっ、と言っただけであった。


「……さぁ、早く殿の元に行こうか」

「そうですね」

「そうだな」


 そのまま、3人は背を向けて移動しようとする。


「おい、お前たち!!ふざけているのか!!!!いいだろう!!全員、そのまま叩き切ってくれる!!!!」


 隊長格らしき男が、剣を構えた手を動かそうとする。だが、いくら動かそうとしても、その手は動かない。それどころか、その場から一歩も動けないでいた。不意に、ミズキが片手を上げ、指を一本引っ張る。すると、状態異常回復をかけていた兵士が、いきなり意識を失った。そのまま兵士たちは、立て続けに眠りに落ちていく。


「お、おの……れ……」


 最後まで持ちこたえていた隊長格の男も、その場に倒れた。辺りは、再び静かな空間へと戻る。


「いやぁ~、えげつなすぎでしょう」

「そうだな」

「そうか?」


 ミズキは、自身の指を見る。そこには、魔力で作られた水の糸が絡みついていた。この糸は、ミズキの意志で自由自在に動く。またかなり細いため、その攻撃を見切るのは容易ではない。だというのに、その強度はミズキの膨れ上がった魔力で大きく強化されおり、普通の魔物では捕らえられれば動くことすらできずに死を待つだけの哀れな獲物となる。


「何と言うか、相手が悪かったですね、あなた達」

「まぁ、これで何も問題ないだろう」

「……そうでもないようだ」


 レムの見ている視線の先を2人は見る。そこには、10人ほどの魔物が地上に向けて移動をしているのが見えた。


「ふむ、なにか高齢の方が多い部隊ですね。お偉いさん、とかでしょうか?」

「まぁ、いずれにしても、主の邪魔をしそうな者は排除しなければなるまい」

「そうだな。では……」


 ミズキは、その場で大きめの水の手裏剣を作成する。そして、その部隊目掛けて投げた。飛んでいった水の手裏剣に気づき、魔物たちは回避行動をとる。だが、その場で手裏剣は爆発し、瞬時に周囲に白い煙を漂わせた。そして、その魔物たちは例外なく、まるで気絶した蚊のように地上に落ちていく。


「……やっぱ、ひどすぎませんか?」

「そうだな。ひどい」

「そ、そうか?」


 度重なるひどいコールに、ミズキも少しうろたえた。だがこれで、確実に全ての侵攻部隊を沈黙させたことになる。軽く周囲の確認をおえると、ミズキ達はベイの元へと転移した。



「よしっと。ここまでくれば、主様の戦闘に巻き込まれることもないでしょう。あとは、流れ弾に気をつけるだけよね~」


 軽い調子で、カヤは言う。シスラとサエラは、ミエルを気遣いながらではあるが、フィーとカヤを見ていた。


「あの~、助けて頂いてこんなこと聞くのもアレなんっすけど」

「うん、どうかした?」

「なんでお二人のような強い魔物が、ベイさんと一緒にいるのかなぁ……。と、思いまして?」


 そうシスラも、サエラも考えていた。2人が会ったミルクもそうだが。明らかに、ベイの連れている魔物は、別格の強さを持っている。しかも1人ではなく、知っているだけで合計3人だ。だというのに、まだ仲間を探しているという。これだけの力ある魔物を従えておきながら、何故これ以上仲間を求めるのか? シスラとサエラには、そんな疑問が浮かび上がっていた。


「うーん、なんでって言われても。一言で言うと、愛かな!!」

「あ、愛っすか……」

「そう、愛!!」

 

 カヤは、嬉しそうにそう言う。その仕草から、無理に従わされているわけではないことが分かった。ベイ・アルフェルトとは、それほど魅力のある人物なのか? 2人は、そんな新たな疑問を抱いた。


「マスターは、優しい方です。弱かった頃の私にも、多くの愛情をくださいました。決して、魔物だからと、私達を物扱いすることもありません。どちらかと言えば、マスターは自分の命よりも、私達を優先しているフシがあるほどです。そんな優しいマスターと共にいられて、私達は幸せです……」


 フィーの心を込めたその答えに、2人は、なるほど。と、思うしか無かった。ベイ・アルフェルトとは、そういう青年なのだろう。そう思わせる程の説得力が、フィーの言葉の一つ一つから感じ取られた。


「でも、なんで皆さんのような強い方々がそばに居て、まだ仲間が欲しいなんて。いったい、何をする気なんっすか?」


 シスラは真っ直ぐに、自分達の抱いている疑問をぶつける。ベイ・アルフェルトが心のやさしい人間であれば、何故それほどの力がいるのか。自分達では、想像できなかったからだ。


「それは、……創世級迷宮を、踏破するためです」

「!!!!」


 フィーは、ここに来るまでの経緯を、2人に話始めた。その言葉を、2人は黙って聞いていた。



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