異世界の召喚王
「さぁ、大人しく消え去りなさい!!」
ミルクの腕に巨大なガントレットが出現する。
「……」
それを見てスモールワールドは、空中に光の輪を再び出現させ始めた。しかし、フィー達は魔物を召喚する暇すら与えない。出てきた端からすぐにフィー達は無造作に輪を破壊していく。そして、ゆっくりとスモールワールドに近づいていった。
「死ね」
レムが無駄のない動作で剣を振る。スモールワールドが空間を歪めて斬撃を防ごうとしたが、その瞬間には、スモールワールドの右腕部分が肩から両断されていた。音を立ててスモールワールドの腕が地面に落ちる。落下した音は、思ったよりも大きく腕の重量が重いことが分かった。
「一つ」
「……」
レムのつぶやきと同時にスモールワールドの纏う空気が変わる。スモールワールドの後ろの空間が大きく歪むと、そこに巨大な光の輪が出現して大量の魔物が同時に飛び出してきた。
「ミズキ、カザネ」
「承知」
「うむ」
ミズキとカザネの姿がその場から消える。そして一秒もせずにその場にいた魔物たちがまるでシャボン玉が割れて消えるかのようにその場から居なくなってしまった。
「お前たち、遅かったな」
「歯ごたえがない」
「……何じゃ、あの化け物共は?」
その声に後ろを振り向くと小さな女の子がこちらを見ている。どうやら魔物らしい。ただフィー達と同じというわけではなさそうだ。
「うん?貴方は、わざわざ力を抑えるために人形になっているようですね。何故そんなことをしているんです?窮屈でしょう?」
「そんなことはどうでもいい。お前たちは何だ?何故そんな力を持っている?」
「何故って、分かりませんか?」
そう言ってミルクが俺を見る。
「愛ですよ。愛」
「愛?」
「そうですよ、愛。私達は、ご主人様と深い愛で結ばれているのです。その愛が奇跡を起こしてここまで来たのです」
「人と魔獣がか?」
「あ~~、そんな小さいことに囚われているんですか貴方は。なるほど、そこで立ち止まっているのは必然でしょうね。その程度の気持ちしか持っていないということでしょうから」
「何だと!?」
「立ち止まったら成長は止まります。私達でもね。でも私達は共に歩み続けた。止まらなかった。だから貴方が焦るほどの力を持っているんですよ。魔獣のお嬢さん」
「きっ、わしをお嬢さんなどと言うな!!」
「まぁ見ていなさい。見せてあげますよ。私達の愛が無敵であるということを」
そう言うとミルクは、スモールワールドを見つめた。その視線にスモールワールドは、空間を歪めてミルクを攻撃しようとする。しかし、ミルクの周りの空間が歪むことはなかった。反対に、スモールワールドの左腕付近の空間が歪む。
「貴方の魔法は私が使う。さて、終わらせましょうか」
空間が歪んでスモールワールドの左腕がねじれて消えた。だが、スモールワールドは身動きせずに立っている。そして、開かれた後ろの空間から何かを自身の体に吸収し始めた。
「……これは」
「驚きましたね。こいつ、自分で魔力を作って力を増やしてますよ。まるで私達みたいですね」
光の輪で繋がった先の空間は、スモールワールドの肉体内の空間に繋がっている。そこには圧縮された空間があり、形成された世界がある。そこにスモールワールドは、自身の力で新たな魔力を生み出し、それを内側と外側から吸収していた。そして、その姿を膨らませていく。
「なるほど。世界を壊すために作られた魔物だ。そのためには、世界を構成している魔力を自由に生み出せる存在でなくてはならない。そう言うところかな」
「そういった者というわけですか。始めから」
「ああ、多分な」
「ウアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
スモールワールドが身を震わせて声を上げる。そして、その姿を変化させた。
「この短時間で2回も進化するんですか」
「魔力を扱うために特化して生まれてきた魔物だ。それぐらい出来て当然だろう」
「マスター、どうしますか?」
スモールワールドの体は、赤くなって膨れ上がっている。その体はまるで筋肉がついているかのように鍛え上げられた肉体のような形をしていた。そして、宇宙が真っ赤に染まった銀河が、その肉体のうちには、漂っている。
「コォ~~」
奴は息を吐き、そして俺を見つめた。次の瞬間、奴は俺の目の前に居た。
「近づきすぎだ。下がれ」
レムが当たり前のようにその動きを追って剣を振る。だが、レムの斬撃が空中で消えた。
「むっ」
「レムの斬撃をねじって破壊したんですか。やりますね」
「そうだな」
スモールワールドが腕を振りかぶって俺を殴ろうとする。だが俺は、それに自分の腕を添えてあっさりと止めた。
「……流石に重いな」
「創世級強化をかけたご主人様が重いってやばい一撃なんじゃないですか?」
「まぁ、そうだろうな」
俺は、サリスの柄でスモールワールドを殴って吹き飛ばす。そして一歩前に出ると、サリスの召喚を解除した。
「さて、追い詰められてきたな」
「えっ、どこがですか?」
「ミルク、もうそろそろ夕方になりつつある。つまり、晩御飯の時間だ」
「……あ~~、確かにタイムリミットが迫ってますね」
「と言う訳だ。そろそろ全力で行く」
「よっ、待ってましたで!!」
「これで私達も一緒に暴れられるな」
「ブイ~~!!」
「ああ、行くぞ」
俺がそう言うと、皆が頷いてくれた。俺は、全員の召喚を解除する。そして、周囲に魔力を展開した。
「な、何をしようとしているの?」
「ベイさん、あなたは何者なんだ?」
「ああ、サモナーで合ってるよ。ただ俺は、皆にはちょっと違う呼び方で呼ばれてるんだ」
「違う、呼び方?」
「そう。召喚王ってね」
俺の展開した魔力で周囲の空間が歪む。その魔力は俺を包んで一つの鎧を作り上げた。
「一体化」
その瞬間、周囲の空間が音を立てて崩れていく。世界が自身の空間を修復する作用でその現象はすぐに修復された。だが俺の体には、皆の力が重なって出来た鎧が纏われている。
「さて、ケリをつけよう」
腰の装甲からアルティとサリスを出して握る。俺は、スモールワールドに向けてアルティとサリスを構えた。




