逃走
「うわああああああああああああああ!!!!あんなのがいるなんて、聞いてねえっす!!!!」
「私も、ボスをバシュルが操れるなんて知りませんでした!?ところでどうします!?いつまでも、城の中を逃げまわっているわけにも行きませんよ!!」
「えっと!!次を左、次を右に行けば山の崖側に出るっす!!!!壁をぶっ壊して、一気に外にでるっすよ!!」
「ミエル様も、魔法を撃つ準備を!!」
「ふぇえ!!私も!!」
「そうっす!!一気に壊すっすよ!!よし、あの壁っす!!!!うてーーーーーーーー!!!!」
3人は走りながら、壁を光魔法で打ち壊す。そのまま外に飛び出し、羽を広げ飛んだ。一気に山から、3人は空中を飛んで離れていく。
「ふー、何とかなったっすね……」
「でもあの龍、羽があったわよ?追ってくるんじゃない?」
「いやぁ~、と言っても、あの巨体っすよ?遅いに決まって……」
「あわわわわわわ!!後ろ!!後ろ!!!!」
白い龍は、四本の足で大きく跳躍すると、その四枚の羽を広げ猛スピードで空を飛び追いかけてきていた!!!!
「あああああああああああああああああああ!!!!意外とはえぇえええっす!!!!」
「仕方ないわね……。すぐに下に行きましょう!!障害物がある山下なら、隠れられるわ!!急降下するわよ!!!!」
「ガッテンっす!!!!」
山の頂上から、一気に地上目掛け落ちていく。龍もそれを追うように、飛行角度を変えた。
「この速さなら、捕まる前に隠れられそうっすね!!もうひと踏ん張りっす!!!!」
「ミエル様!!そろそろミエル様も、自力で飛んで頂けませんか!!まぁ、抱えてたの私達ですけど……」
「あわわわわわ!!!!後ろ!!」
「えっ、なんっすか?」
急降下しながら、後ろの白い龍を見る。すると、龍の口にものすごい量の魔力が集まっているのが分かった。
「ああ、こりゃマズイっすね……。ミエル様、自力で飛んでください!!皆で避けますよ!!」
「う、うん!!!!」
白い龍の口から、輝く大きな光弾が放たれた。
「今っす!!回避ーーーーーーーーーー!!!!」
シスラとミエルは右に、サエラは左に避ける。なんとか、全員が光弾を回避した!! その光弾は、地上に直撃したのか、すさまじい爆音が下から聞こえてくる。今はなんとか回避できたが、そのせいで龍との距離が縮まってしまった。これでは、地上まで逃げ切れそうにない。
「ちっ、あんなのをくらったら、ひとたまりもないっす!!」
「……まだ、撃ってくるみたいよ!!」
「くっ、やるしか無いっすか!!!!」
シスラは、自分の武器である槍と鎧を身に纏った。龍が魔力を貯める頭目掛けて、槍を構え突進する。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
ガキイイイイイインン!!!! っと、シスラの槍が龍の頭に突き刺さるが、あまりに龍の皮膚が固く、相手を貫くまでに至っていない!!
「くっ、固いっす!!!!」
「グルルル……」
龍は、魔力を溜めながら頭を振り、そのままシスラを横に薙ぎ払った。
「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「シスラ!!!!」
「ミエル様も武装を!!!!魔力が使える今なら、出せるはずです!!」
サエラも、武装を身に纏う。手に持った弓で光の矢を次々に放ち、龍を牽制するが。効果的なダメージは与えられていない。
「グワアアアアアアアアアアアアア~~~~!!!!」
龍が、サエラ目掛けて口を開ける。貯えらた光の魔力が、サエラ目掛けて発射されようとした。が……。
「させねえっすよ!!!!」
シスラが、下から全速力で上昇し、槍に聖属性魔法を乗せ龍の顎を下から殴りあげた。
「ガアアアアアアアア!!!!」
下からの不意の一撃に、大きく竜の首が上に傾く。サエラを狙った光弾は、上空に向かって発射された。空で爆発したのか、辺り一面に光が広がる。
「くううううっ!!余波だけでこんな……」
爆発で発生した衝撃が、周りを襲う。だが龍は動きを止めず、シスラに前足を叩き込んだ!!
「うああああああ!!!!」
槍でガードするが、その力は受けきれるものではない。シスラは、地面目掛けて吹っ飛ばされた。
「シスラァァァァァ!!!!……許せません!!!!」
ミエルが、武装を身に纏う。それは、ミエルには不釣り合いなほど、ごつい鎧だった。全身が白く、ミエルの羽まで装甲で覆われ、とてつもない聖属性の魔力を発する。左腕の側面には、丸い盾が出現した。だが、その鎧のごつさよりも一番、その武装で目を引くのは……。
「ミエル様、それ、ハルバードですか……」
ミエルの武器は、巨大な斧だった。持ち手の棒が長く、両手での振り回しを可能とし。その大きな刃は、光にきらめいて、切れ味の鋭さを周囲に見せつけている。それが今、ミエルの手に握られていた。
「でああああああああああああああ!!!!」
ミエルが、龍の頭目掛け、ハルバードを叩き込む!! 両の手で全力の力を、聖属性の魔力で目一杯の衝撃を乗せた渾身の一撃だ!! ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!! という大きな音が辺りに響くと、龍の頭の皮膚に、亀裂が入った。
「グワアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
龍が痛みに、うめき声を上げる。攻撃が効いたことに安堵するミエルだが、龍は身体を大きく回転させると、その尻尾でミエルを叩き落とした!!
「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ミエルも、そのまま地上に向けて弾き飛ばされる。
「ミエル様!!」
ミエルを心配するサエラだが、残ったサエラ目掛け、龍の周りに発生した7つの光の弾丸が襲い掛かった。
「くっ!!」
弾の間を縫って飛び、なんとかサエラはその攻撃を凌ぐ。だが、白い龍はそのまま口を開け、サエラに迫ってきていた!!
(避けられない!!!!)
死を覚悟するサエラだったが……。
「グッワアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
龍が突然、横からの攻撃によって吹き飛んだ!! 空中で回転し、距離が離れたところで龍は体勢を立て直す。
「……」
何が起こったのかわからなかったサエラだが、次の瞬間には理解した。あの龍は、殴られて吹っ飛んだのだと……。
「……固いな」
ベイは、全身を魔力で強化した状態で、空中に浮いていた。背中にシスラを背負い、片腕にミエルを抱えている。
「全く、こんなところで助けに来るなんて……。ミエル様じゃなくても、惚れそうっすよ」
「すまん。先行してきてた魔物を倒してたら、少し助けが遅れたな。許してくれ……」
「……まぁ、いいっすよ。で、あの龍、なんとかなりそうっすかね?」
「ああ~、まぁ、なんとかなるだろ……」
「グガアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ベイは、ミエルをシスラに預け、剣を抜き龍に向かって構えた。ゆっくり風を蹴って、サエラの横に進む。
「カヤ、フィー」
ベイが呼ぶと、カヤとフィーが、魔法でベイの近くにやってきた。
「はい、はいっと!!主様、先行してきた魔物、あらかた倒しました!!」
「うん」
「次は、この3人の護衛をよろしく頼む」
「分かりました~!!」
「はい、マスター!!」
「あ、あの……」
サエラは、ベイに向かって話しかけた。そして、丁寧にお辞儀をする。
「助けて頂いて、ありがとうございます」
「気にしなくても大丈夫。ともかく危ないから、下がってて。この2人の近くにいれば、俺に守られるより安心だ……」
「それはちょっと言いすぎだよ、主様」
「マスターの期待に答えられるように、頑張ります!!」
そう言うと、フィーとカヤは、3人を連れて地上に降りていった。
「さて、今までの訓練で得た力を試すには、いい相手かもしれないなぁ……」
剣をその場で振って、ベイは集中した。
「ふぅ……。じゃあ、やろうか……」
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
龍の咆哮と同時に、魔力強化をかけ直す。ベイは、風を蹴って龍に向かって飛んだ。