終末を呼ぶ獣
花弁が大きく花を開かせてノーマンへと物凄い速さで伸びていく。花というよりも大きな口その物だ。あんなに物を噛み砕くための歯がついた花びらなど無い。
「……おいおい、俺相手にその程度のスピードしか出せねぇのか?」
ノーマンは、壁面に張り付いている。手に出した剣を壁に突き刺して壁面に足裏をしっかりと付けていた。
「遅いんだよ」
花弁がノーマンを捉えようとした瞬間、ノーマンの姿が壁から消える。そしてノーマンが地面に現れると、地上に生えていた巨大植物のありとあらゆる茎と葉、花が切り尽くされていた。
「で、地中にこいつの弱点があるって?面倒だな」
「まったく、一本ぐらい残しておいてくださいよ、ノーマン先生」
そう言ってレドリアが進み出る。その時、レドリアの足音に反応したのか地中から新たな茎が這い出してレドリアを突き刺そうと伸びてきた。しかし、それをレドリアは難なく掴む。
「残してどうするんだ、レド先生?」
「こうします」
そう言うと、レドリアの茎を掴んでいる腕が倍以上に膨れ上がった。
「はっ?」
「おや、バーサーカーの技を見るのは初めてですか?では失礼ながら、この力お見せしましょう」
レドリアの腕がどんどん大きくなっていく。それどころか、かなりムッキムキだ。筋肉が膨張していってさらに大きくなっていく。なんじゃこりゃ。マッチョマンどころの騒ぎじゃねぇぞ。どんだけ片腕だけ鍛えてもここまでバランス悪くムッキムキにはなるまい。
「さて、では出てきていただきましょうか」
そう言ってレドリアが腕を振り上げる。すると、あまりの力に根ごと下にあった敵の本体が空中に飛び出した。
「切りやすくなったでしょ、ノーマン先生?」
「ああ、完璧だ」
ノーマンが腕を振る。すると、根を張っていた球根らしき部分が輪切りとなって地面に散らばった。生えていた根も即座に枯れてその活動を停止する。それを見届けるとノーマンは、腕を振って剣を消した。
「さて、次に行こうぜ」
「ええ、行きましょう」
ノーマンとレドリアが先頭になって駆けていく。その後ろを、俺達は追いかけてついて行った。
「しかし、デカイ施設だな。俺達にバレずによくここまで大きな施設を作ったもんだ」
「……本当にそうでしょうか?」
「どういうことだ?」
「私達は、大きな組織です。中枢は我々とは言え、こんな大きな基地が作られていれば街の物資の流通から何かの建造物が出来ていることぐらい分かるはずです」
「それもそうだな。とすると、これがあるのはなんでだ?」
「……恐らくですが、他所で作って持ってきたのでは無いですか」
「こんなバカでかい物をか?」
「ええ、そうです。我々の仲間がこんな建造物の建設を見落とすはずがありませんから」
「……そう言われると、そうな気がしてきた」
長く白い通路を進む。幾度か会話の間に自動ドアらしき壁があったが、ノーマンとレドリアが切ったり殴ったりしてぶっ飛ばしていた。施設破壊に躊躇がないな。
「おっ、ロギるんおぶって」
「了解」
ロギルが、走りながらアマナを背負う。するとアマナは、ロギルの背中で緑の炎で出来た弓を出現させて構えた。
「……2割でいいか」
アマナが弓を引くと、その間に緑色の炎の矢が出現する。アマナが腕を離すと、空中に緑の光の軌跡を残して一本の矢が飛んでいった。
「……よし」
少し進むと大きな獣が通路に横たわっていた。その頭は、何かに撃ち抜かれたように穴が空き、血が溢れ出していた。
「ふっ、他愛ない」
「相変わらず良い狙撃の腕だぜ」
「ですね」
長い通路もそろそろ終盤のようだ。微弱だけど、感じたことのある魔力反応が見えてきた。居るな。
「おらあ~~~~!!!!首謀者はここかぁ~~!!!!」
そう言ってノーマンが最後の扉を切って蹴破る。そしてその先の空間には、一人の男と大きな半透明のカプセルに入ったリボンの魔物がいた。
「……流石ですよ。ここまでお越しいただけるとは、夢にも思っていませんでした」
白髪でメガネを掛けたその男性は、俺達を見ると拍手をくれた。いかにも悪の科学者って感じの人だな。
「お前が、最近の事件の犯人か?」
「ええ。街中に魔物を放っている者でしたら私ですね」
「そうか。じゃあ死ね」
そう言ってノーマンが飛び出す。だが飛び出したノーマンは、いつの間にか元の位置に戻っていた。
「なっ、何だ?」
「慌てないでください。順を追って説明しましょう」
そう言って男は、後ろにあるカプセルに目を向ける。
「私、人類滅亡願望がありましてね。ですからあの日、私は大いにはしゃぎました。全てに平等なる死が訪れると」
「……なるほど。普通の思考を捨てた訳だな」
「ええ。正直に言うと人間という身体から開放されたくて仕方がなかったのです。そして同時に、全ての人間を開放してあげたいとも思っています」
「いらない優しさだな」
「そうかも知れませんね。でも実際に終末は訪れなかった。そこで私は思ったんですよ。誰かが阻止したのだなと」
「……」
「案の定、貴方達はいたようですね。なので貴方達に見つからない世界終末計画を立てたんですよ。私が見つけた最も見つかる可能性の低い方法でね」
「……」
男は、そう言って透明なカプセルを叩いた。
「この魔獣の姿を見よ。これぞ異世界の力!!異世界の終末を呼ぶ獣!!!!」
「異世界だと?」
「そうだ!!あの時、世界が崩壊する手前で私は観測したのだ!!この世とは違う魔力の流れる世界を!!!!」
「あの状況でそんなことをしている奴がいたのか!!馬鹿じゃないのか!!」
「ふははははっ!!私は命が惜しくなかったからね!!だからこそあの間際に魔力の観測をすることが出来た。そして、見つけたんだ。向こうへの扉を!!」
「だからそこからそいつを招いたっていうのか!!」
「いや違う、作ったんだよ!!!!莫大な魔力を向こうに送ってね!!!!」
「作っただと!?」
それであのリボンの創世級が出来たのか。つまりアリーの装置に落ち度はなかったけど、無理やり魔力溜まりを作られたって感じか。アリーがこの場にいたら、この人すぐに消し炭になってそうだな。
「簡単だったよ!!小さかった扉を押し広げて向こうにこちらの大気中を流れる魔力を吸い上げてもらった。それだけでこの魔獣は誕生したんだ!!ああ、素晴らしい!!こんなにも簡単に世界は、滅びに向かう!!世界は、終末を望んでいる!!!!」
なかなかユニークな解釈をされる方のようだ。
「悪いけどそれはないわね。だって、貴方達はここで死ぬもの」
そう言ってリオーシュ達が武器を構えた。うむ。格好良いじゃないか。
「おっと、さっきの力をちゃんと見ていなかったようだね?いや、あれぐらいなら何とか出来ると君たちなら思っているということか。そうだよな。君達は、この世界を救ったんだ。誰も望んでいないのに」
「それは、貴方みたいなやつだけよ」
「望んでいる人はいる」
「……そうかもね。私の我儘かも知れない。だけどね、これは、私が生涯をかけて完成させたい我儘なんだ!!!!」
世界滅亡が大願とかこの世界の人やばくない? どんな世界なのよ、ここ。
「君たちに見せてあげよう!!何故私がこの子をこんな狭い空間に閉じ込めているのかを!!!!」
そう言って男が透明なカプセルについていたスイッチを押す。するとカプセルが開き、辺りの空気がリボンの魔物に向かって引っ張られ始めた。
「何だ!?」
「ハハハッ!!!!この子は、まだ完成していないんだよ!!!!周囲から力を集めている!!完成するために!!この世に終末をもたらすために!!!!」
リボンの魔物の形状が変化していく。膨れ上がりリボンのようだったヒダは一本の線のように伸びていって細い切れ目のような物になっていった。それが折り重なって人の体のようなものを形勢していく。その線の周囲には、輝く光や小さな点のようなものが蠢いていて、その姿は、まるで小さな宇宙がそこにあるかのように見えた。
「ハハハッ!!素晴らしい!!!!素晴らしいぞ!!!!」
笑いながら男は歓喜する。だが、魔物に向かっていく魔力の流れの中で立っていることができず、男は魔物の身体へとその身を吸い込まれて消えてしまった。最後まで笑いながら。




