サモナーとブレイダー
「……」
「アリーさん?」
「なんで全部置ききった初日にそんな事が起こるのよおおおおおおおおおおおおお!!!!」
アリーさんが切れていらっしゃる。頭を撫でて差し上げねば。よしよしよし。
「まぁいいわ!!原因は後で調べるとして、アルテリオン先行発進!!!!」
「了解です!!」
『先行発進の許可、確認いたしました。アルテリオン、独立可動モードにて先行発進致します。座標割り出し、周辺宙域の索敵問題なし。アルテリオン発進!!』
無人のままアルテリオが動き出す。そう、アルテリオンに長いこと乗ってたら自我が芽生えて魔物化したんだよな。宇宙船の魔物ってすごくない?
『転移開始します』
転移魔法陣を展開してアルテリオンがワープする。ものの数秒でアルテリオンの姿がその場から消えた。
「アルテリオンの映像をモニターに出して」
「はい!!モニターある?」
「さっき降ろした時近くに、あった。つけますよ」
ロデがそう言って設置した球体型の立体映像発生装置のスイッチを押した。
「……あれが、目標の創世級?」
「……なんだか、リボンが絡み合ったみたいな姿だな」
「そうね。はっきり言って弱そう」
映像には、人形っぽい形にリボンが絡み合ったような魔物が映し出されていた。そのリボンが蠢いているのが見えるのだが、その魔物自体はその場から移動していない。まるで意思もない人形であるかのようにその場にだらんと力を抜いた状態で浮いている。
「……今日の出撃可能人数は?」
「えっと今日は、全員ベイアリーに帰った記念に騒ぐ予定で合わせていましたので、珍しく全員出撃できます」
「……あの魔物、終わったわね。明日の朝日すら拝めないでしょう。宇宙空間だから朝日関係ないでしょうけど」
「全員行けるのか。なんだか久しぶりだな」
「取り敢えず、アルテリオンに接触してもらいましょう。アルテリオン、接触開始」
『了解』
謎の魔物にゆっくりとアルテリオンが近づいていく。その瞬間、魔物の体が震え始めた。
「バリア展開!!」
『バリア展開』
アルテリオンが魔力の障壁を周囲に作り出す。その瞬間、その宙域にあった隕石たちが次々に消え始めた。
「何、消滅魔法!?」
『解析結果、転移魔法であると確認。しかし、送り先が未知の座標であるようです』
「未知の座標?この世界を、全て私達が踏破したのに?」
『解析エラー。座標を特定できません』
「嘘でしょ。アルテリオンが解析できないなんて」
リボン型の創世級の動きが突如として止まる。その瞬間、光りに包まれてリボン型の創世級の姿が消えた。
『索敵。全宙域に創世級の反応確認できません。対象を見失いました』
「……新たな頂点の魔法ってこと」
アリーがベッドから立ち上がる。それを見て俺もベッドから起きることにした。
「ベイ」
「ああ、行ってくるよ」
「夕飯までには戻ってね」
「分かった」
皆の召喚を解除して内に戻す。そして俺は、アルテリオンが居た宙域に転移した。
「私達は、今日はお留守番ですか?」
「ええ。なにわともあれ私達は、ベイアリー帰還記念パーティーの準備でもしていましょう。ベイ達が戻ってくる前にね」
「そうですね。ミズキが帰ってきたら全ての準備作業を取られますからね」
「そう。私達も料理しないとね」
アリー達は、そう言うとそのままパーティーの準備を始めた。
「……さて」
アリスティルサを融合召喚して握る。そのまま先程創世級がいた地点にかざすと、アリスティルサが魔法の痕跡解析を始めた。
「解析終了。異なる時空に転移する魔法を得ました」
「異なる時空?」
「ええ、どうやら違う世界に移動する魔法のようです。転移先も把握しました」
「……それってやばくないか?」
「そうですね。向こうで力を蓄えてこちらに戻ってこられると厄介です。まして我々以外が転移させられると戻ってこれなくなる可能性があります」
「……やっぱり出来るんだな。魔法で」
俺もこっちに召喚みたいな感じで呼ばれたからな。やっぱり魔法で別の世界に行けるんだな。俺は、肉体ごとは無理だったようだが。
「どうします、マスター?」
「魔物の真意を確かめないことにはどうにも出来ない。行くしか無いか」
「了解いたしました。行きますよ、姉さん」
「座標、移動先の周辺調査も終わっている。何時でもけますよ」
「分かった。じゃあ、転移するぞ」
光りに包まれて俺の肉体がこの宇宙から消える。魔力に包まれたまま、俺の身体は別の時空へと移動を始めた。
「……えっとここは?」
光が晴れるとそこは、どこかの路地裏であった。俺は、周囲を見回す。そこには、コンクリートで出来たと思わしき建物や、家が立ち並んでいた。しかし、どの建物もそこまで高いと言うほどではなく、一昔前の建物であるかのように感じられた。
「……」
アリスティルサをしまい路地裏を出て暫く歩くと人が普通に歩いていた。ファッションは、結構身ぎれいな感じだな。だが、どこかどの人々も足早に歩いている気がする。それに大きな街って感じなのに人を見る機会が少ない。何故だろうか? 平日とかだろうか?
(天気が悪いですね、マスター)
「ああ、そうだなフィー」
空は、一面に雲がかかって光が遮られている。一雨きそうな気がするな。
「ねぇ、そろそろ帰ろうよ」
「うん。この辺りは大丈夫って聞くけど早めに帰ろう」
俺の脇を学生らしき子供達がそう言いながら通り過ぎていった。何かあるのだろうか?
「でも買えてよかったね。限定キーホルダー」
「うん、売り切れるかと思ったけど皆外出自粛してて助かっちゃった。何もなかったし、私達運がいいのかもね」
「そうだね」
その時、女学生達の頭の上に突如として黄色い光の輪が出現した。
「えっ?」
光の輪から巨大な何かが口を開いて飛び出してくる。それを、俺は無言で蹴り抜いた。
「……」
「お嬢さん達、早く逃げたほうがいいよ」
「あ、は、はい!!!!」
「……」
「大丈夫かな?落ち着いて。あれは、俺が処理しておくから大丈夫。立てるかな?」
「……腰、抜けちゃった」
「……ちょっと待ってて。すぐに終わらせるから」
俺は、蹴り抜いたものと向き合う。俺の目の前には、まるで恐竜のような姿の大きな爬虫類が存在していた。だがその皮膚は、紫色をしている。普通の恐竜ではないだろう。
「さて、まだやる気はあるかな?」
「……」
恐竜が身震いして起き上がる。俺を睨むと、そのまま勢いをつけてこちらに突進してきた。
「危ない!!!!」
女生徒の一人がそう言う。だが、俺に到達する前に恐竜の足が何者かの攻撃を受けて一瞬の内に溶けて消えた。
「アブねぇよッと!!」
バランスを崩した恐竜に体当たりをする者がいる。その金髪の人物の体当たりで恐竜は、道の脇に吹き飛ばされた。恐竜は、一瞬痙攣するとその動きを止める。その腹部には、大きな刺し傷が見えた。しかし、先程ぶつかった金髪の人物は、刃物を持っていない。
「よしっと。危ないところでしたね。うちの生徒達を守ってくださってありがとうございました」
「ありがとうございました」
金髪の人物の近くに黒いスーツとコートを着込んだ人物がやってくる。というか、金髪の人も同じ服装だな。何かの組織の人達だろうか。怪しさが半端ない。ある意味でファッションとして決まっている気もするけど。
「ロギル先生!!」
「ノーマン先生も」
「こら~~、危ないから外出は止めなさいって言っただろ!!」
「ともかく怪我がなくてよかった。家まで俺達が送るよ。……申し遅れました、俺達はフォーザピオーゼで事務員と教師をしております。ロギル・グレイラッドと申します」
「ノーマン・ステイラスといいます。よろしくお願いします」
二人の人物は、そう言って俺を見つめてきた。女生徒達には、分からないくらいに若干身構えながら。




