強者
「さて、着いたわけだが。ここが、聖属性聖魔級迷宮か」
「何と言うか、山ですね。マスター」
「ああ、凄く広くてデカイな」
俺達は、朝から聖属性聖魔級迷宮に来ていた。その姿は、フィーの言った通りほとんどが山だ。緑の多い平原と、その中央にそびえる巨大な山。頂上付近は雲に覆われていて、何があるのかも見えない。恐らく、ボスエリアはあそこなんじゃないかなと思う。
「まぁ取り敢えず、この辺りの魔物を狩っていこう。どんな魔物がいるか、確かめないとな」
「はい、マスター!!一番近いとこにいる魔物は、あちらですね」
「よし、じゃあ行ってみるか」
俺達は、魔物目指して歩き始めた。まだ、平地部分だから歩きやすいが。中央の山なんかは、見る限り反り立った壁部分などが多く、とても登りにくそうに感じる。あれが、この迷宮の辛いとこなのかもしれない。
「しかし、アリーさんがまた来れないとは。なかなか、家族付き合いが多いというのもめんどくさいものですね~」
「そうだな。でもアリーは、神魔級魔法を調べといてくれるらしいから、そういう意味では助かるよ」
俺個人としては、あまりアリーを危険なとこに連れて行きたくはないし。安全に、神魔級魔法を調べていてくれる方が嬉しい。初めての迷宮だし、何がいるか分からないから、多少の不安もあるしな。
「まぁ、そうですけども。うまく行けば、今回で仲間の魔物は、ゲットできてしまいますからねぇ。アリーさんの意見も伺って、仲間にするか決めたかったものですが」
そう言いながら、ミルクは腕を組む。ミルクも、色々考えてるんだなぁ。なんだかんだで、ミルクが女性形の魔物にこだわるのも、皆のためというところが大きいと感じるし。ぶっ飛んだことも言うけど、皆のために行動していることが多いんだよなぁ。
「アリーさんの了解を取ってしまえば、正式にご主人様の性欲を高めさせる要員として使えますからね。フフフ、まぁ、遅いか早いかの違いですから。そこは、後でということにしましょうか(ニヤリ)」
……本人の欲望のため、というのが大部分ではあるだろうが。
「……なんだろう。今から入ってくる子が、大丈夫なのか心配になってきた」
「大丈夫ですよ、主。皆ときっと、仲良くやって行けますよ」
いや、レムのその励ましは嬉しいんだけど。あそこにね、悪い笑みを浮かべているうちの牛がですねぇ……。
「殿、前方に獲物を発見致しました。いかが致しますか?」
「どんなやつだ?」
「白い蛇のようですね。なかなかに、身長もあります」
「分かった。まずは全員で牽制しながら様子を見ていこう。いつも通りで頼む」
「了解しました。では、戦闘を開始します」
そう言うと、ミズキはヘビ目掛けて、牽制の水手裏剣を放った。ここ最近の俺たちの戦闘は、まずミズキ、レムを先頭に。次にカヤ、ミルク。最後に俺とフィーという陣形で戦っている。最近は本気で戦うと、すぐに相手の魔物が死んでしまうので。先頭の二人に回避、防御を受け持ってもらって、相手の動きを観察して敵の動きに慣れる練習をしている。この先、神魔級の迷宮に行って似たような魔物がいれば、攻略の参考になるかもしれない。だから、観察は大事だ。そんな感じで魔物の動きを見る戦闘を2回ほど繰り返し。そろそろ、中央の山付近での戦闘を行おうと思っていたところ……。
ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォンンンンンンンンンン!!!!
という、巨大な音と共に、山頂上から巨大な光の弾丸が遠方目掛けて降ってきた!!
「なんだ、あれは!?」
「聖属性魔法ですね。上で、何かが戦っているんでしょうか?……主、アレを見てください!!」
「うん?」
レムに言われて、水魔法で望遠鏡を作り覗いてみる。すると、頂上から白い龍と、大量の聖属性魔物に追われているミエル達の姿が目に入った。
「あれは、ミエルさんと、シスラさんと、お姉さん系巨乳さんですね。ふーむ、これはちょっと面倒な……。いや、むしろチャンスですね!!!!」
ミルクは、嬉しそうにポンっと手のひらを叩いた。
「えっ?」
「だって、あんなのに追われている3人を救えば、これは仲間になるのも最早必然!!絶対確定!!間違いなしですよ!!ご主人様がスパッとカッコ良く助けちゃって、ミエルさんの心も完全ゲットと行きましょう!!!!」
ミルクは、グッと拳を握りしめ、熱く語った。そんなに、うまくいくとは思えないんだが……。
「色々と気にはなるが、まぁ、助けるのは決定だな」
「流石、ご主人様!!分かってらっしゃる~!!」
知らない仲でもないし。悪い人には、見えなかったからな。だが、かなりの数の敵に追われている。これは、戦力を分散して戦ったほうが、効率がいいかも知れないなぁ。
「ふむ……。殿。中央の部隊、まるまる全て、私に任せて頂けないでしょうか?」
「……大丈夫なのか、ミズキ?お前が傷を負うこともないだろうが、かなりの数だぞ?」
「ええ。どうも、先程から身体に力が沸き上がってきてましてね……」
そう言うと、ミズキの身体が光りに包まれた。俺の持つ、ミズキの魔石も光っている。ミズキの服装が、変化していく。髪はやや長めになり、服の色は黒や青色を基調としたものが多くなった。首には長い黒色のマフラーを巻いており、腰や、服に直接武器を入れておくためのホルスターを装備している。広げられた触手は、先端が槍のように尖り、合計で8本になったようだ。何と言うか、強そうだ。いや、絶対強い。
「ふむ。やはり殿とキスをしたのが、いい経験になったようですね」
ミズキは、変わった自分の姿を眺めながら言う。今のミズキは、何と言えばいいんだろう。ニンジャマスター、と言うところだろうか。というか、唯でさえ強いミズキが進化するなんて、どんな強さか想像がつかない。
「うわぁ~、なんかカッコイイですね」
「ミズキ、強そう……」
「しかし、独特な衣装ですね」
「これでミズキも、聖魔級魔物か。お揃いね!!」
皆の意見に、ミズキは無言で頷き返す。すると、俺に向き直って跪いた。
「殿のために、新たに得ましたこの力、試させていただきたいと思います!!必ずや、ご期待に答えてみせますので、どうか単独戦闘のご許可を!!」
まぁ、任せて大丈夫だろう。だって、ミズキだし……。
「分かった。だが、気をつけるんだぞ」
「はっ!!では、行ってまいります!!」
そう言うと、ミズキは俺達の前から消えた。ああ~、もうこれだけで分かる。戦う魔物が可哀想なほど、確実に今のミズキは強い。
「……転移魔法ですか」
「今までは、水がないと使えないって言ってたのに」
「ふむ。今度のミズキとの、手合わせが楽しみだな」
皆、少なからず新たなミズキに興味が有るようだ。だが、ミズキが動き出したのに、俺たちが留まっているわけにも行かない。
「よし。レム、ミルクは、ミズキが止められなかった端から進んでくる敵の無力化を頼む。フィー、カヤ、俺は3人を助けに行こう。……それじゃあ、行くか!!」
「「「「はい!!!!」」」」
俺達は、それぞれの戦場へと魔法を使って駆け出す。こうして俺達と、ミエル達を追う天使たちとの戦いが始まった。