召喚王の鎧
「なんや、いったい。あの黒い鎧の兄ちゃんのやなかったんか?」
「ザルシュ。ナハトを見てみろ」
「うん?あら、女の子やないの。いかつい名前やのに、女性やったんやね。わざわざ声色作っとったんか」
黒い結晶を握りしめ、ウインディアは、俺達を見つめた。
「やはり、そうなのですね」
「……」
「もはや疑いようも有りません。貴方様こそ、我らの偉大なる父」
「……だとしたら、どうする?」
「幻想に至ったもの。貴方が偉大なる我らの父であるというのならば」
「……」
「こちらも、本気で戦うべきですね」
そう言うと、ウインディアは黒い結晶を空中に放り投げた。すると、結晶が光を放ち新たな結晶を空中に出現させる。
「何をする気だ、ウインディア!!」
「それはまずい!!!!」
「……我らの父に力を示さねばなりません。もう、我々は貴方無しでも歩けるのだと、証明するのです」
結晶が、ウインディアの元に集まっていく。それは、火、風、土、雷、闇、光の結晶であった。
「クッ、勝手なことを!!」
「貴方の結晶も、ここへ」
「誰が渡す物か!!」
フブキが、ウインディアから飛び退いて距離を取る。しかし、その瞬間何かを受けたかのようにフブキは、地面に力なく膝をついてしまった。
「き、貴様!?」
「貴方の力、借りますね」
「グッ、父よ、お許しくださ……」
そう言うと、フブキは倒れ込んで気絶した。そして、フブキの持っていた結晶が、ウインディアの元へと転移する。
「……フブキは、頑張ってくれたのか?」
「そうみたいですね。マスウェルとノーリアスを相手にしながらローザって子を倒したみたいです」
「そうか」
俺は、フブキに向かって手のひらを向ける。そして魔法を使うと、手元にフブキを転移させた。その状態のまま、回復魔法をかける。
「うん?」
「どうしました、ご主人様?」
「フブキの力が、吸われている」
「ウインディアに、ですか」
「ああ。これじゃあ、いくら回復させても意味がない」
「なら」
「倒すしか無いみたいだな」
俺は、フブキを闘技場のスミに転移して寝かせると、また転移して同じ場所に戻った。
「お見せしましょう」
そう言うウインディアの元に、客席から、世界中から魔力が飛んできて集まっていく。そして、その場にいる誰もが意識を失いかねないほどに肉体を疲労させていった。
「これが、私達の幻想です」
すべての属性の結晶が展開する。そして、ウインディアを包み込んでいった。
「幻想の鎧、展開」
その瞬間、世界が割れた。世界中から集められた魔力、それらが増幅されて世界を形作っている次元の壁すら容易に砕く力を生み出す。それが一つの鎧を生み出し、ウインディアを包み込んだ。魔力の爆発が起きた衝撃で砕けていた世界が戻っていく。そして、幻想を身に纏う一人の人間が、そこに立っていた。
「これこそが賢者、アリー・アルフェルト様が作った属性王の鎧。この星を、すべての厄災から守るための力です」
「これは、やばいでっせ」
「ブヒィィ」
ウインディアから放たれる大きな魔力に、ザルシュとイノが身構える。
「ご主人様。私が相手をしましょうか?」
「いや、いいよ」
(わしでもいいぞ)
「いや、俺が相手をしないと駄目なやつだろう。レーチェもミルクもザルシュもイノも、俺の中でしばらく見ていてくれ」
「分かりました」
「旦那がそうおっしゃるなら」
「戻るブヒ」
そう言って、ミルク達は召喚解除して俺の内に戻ってきた。
「一つ、聞きたいことがあります」
「うん?」
ウインディアは、俺を見つめてそう言う。
「なぜ、この場に出てきたのですか?貴方ならば、戦わないという選択肢も選べたはず」
「そうだな。そうすることも出来た。実を言うと、この戦いが始まるのを聞いたのも数時間前のことで、戦うと決めたのも戦うことが俺のメリットになると判断したからでもある」
「つまり、私欲であると?ただ、戦いたいためにここにいると?」
「それもある。しかし、実は言いたいことがある」
「それは、私達のこの戦いを妨げてでも言いたいことなのですか?新たな時代を進もうとしている私達を、止めてでも言いたいことなのですか?」
「ああ、そうだ。俺だからこそ、言わなければいけない」
「では、教えて頂けますか。その訳を」
「ああ、そうだな。教えよう」
俺は、会場を見渡した。全員苦しそうにしているが、意識はあるようだ。会場にいる人々の顔を見ると、俺はウインディアに向き直った。
「君たちには、魔法がある」
「?」
「魔法は、全てを可能にする。俺も、魔法のない世界であったならば、何かを犠牲にしなければ前に進めないこともあると思ったかもしれない。しかし、君たちには魔法がある」
「だから、何だというのですか?」
「分からないのか?君たちなら、誰も否定することなく共存し会える未来を作れると言っているんだ」
「本当にそうでしょうか?魔法を使い、すべての人々を押さえつけコントロールする。それは、洗脳では?」
「いや、そうする必要はない。魔法になら、それが可能だ。洗脳でもなく、抑えるつけるでもなく、ただ日々を送る。お互いに嫌な干渉すらせず、お互いを尊重し合うことも出来る」
「……随分と複雑な希望のように思えますが」
「ああ。だが、魔法ならそれが可能なんだ。そういう魔法の使い方もあるってことなんだ。俺には分かる」
「だから、この場に出てきたと」
「そうだ。種族同士での争いの可能性を作ることなく、君たちなら魔法を研究すれば苦難を乗り越えられる。そう、俺は言いたい」
「……ですが、私達は賢者ではありません。その研究に、どれだけの月日がかかるのかも分からないのですよ?」
「悪いことなのか?共存しあえる社会を作るのに、時間をかけることが?」
「……」
「俺は、大丈夫だと思う。だから、考えてみてくれ。それが、ここに俺がいる意味だ」
「……そうですか。分かりました。考えてみましょう。貴方が、私を倒せたのなら」
その瞬間、ウインディアの姿が消えた。次の瞬間には、ウインディアは俺の目の前に居て拳を振るっている。
「ハアアアアアアアア!!!!」
その拳を、俺は全て手の側面でいなし続けた。威力も高いので、風魔法で飛んでくる衝撃もいなしながら攻撃をいなす。そして、その拳の雨の中をぬって、俺はウインディアに拳を放った。
「グッ!!」
拳を受けたウインディアが、僅かに止まる。しかし、それだけだった。
「……流石に硬いな」
「なんで、どうして当たらない!!」
再びウインディアは、俺目掛けて拳を振るう。しかし、俺はそれを避けてアルティを抜き放つと、ウインディア目掛けて切り下ろした。
「グアアアアアアアッ!!!!」
少しだけウインディアが後ろに吹き飛ぶ。かなり力を入れたんだが、流石に鎧無しだとこれが限界か。ウインディアの鎧には、斬撃の亀裂が入っている。アルティを振り続ければこのままでも勝てそうだな。
「何故、鎧もなしに!?」
「勘違いしているな」
「!?」
俺は、ウインディアの背後へと回り込む。しかし、ウインディアは反応することが出来ない。それは、仕方がないことだ。俺が、時間が止まった時の中を移動して回り込んだからだ。
「確かに君は、幻想に至るほどの力を手に入れた。しかし、それは君の力だけでだ」
「どういうこと?」
「人には、可能性という力がある。それは一人ずつ違うもので、至ることの出来る頂点も違う。それを、たった一人で複数の力として持つことは、早々出来るものじゃない」
「何が言いたい」
「君の特徴的な力は、同じ種族の人々から力を借りることだな。それが増幅された結果、世界中の人々から力を奪うことが出来た。まぁ、要はそれだけなんだよ。君が出来る限界は。幻想に至ろうとも」
「何故、貴方からは力が吸えない!?」
「俺も似たような力を持っていてね。君の能力は、俺には意味をなさない」
俺は、アルティを鞘にしまった。
「君たちに見せよう。誰かと共に手を取って強くなる事が出来ればどうなるのかを」
「……」
「そして、出来れば考え直して欲しいと思う。もし、君たちに俺が言葉以外で示せるものがあるとすればそれは」
魔力が俺の周りに集まっていく。内から、皆の力の鼓動を感じる。
「この力こそが、君たちに示せる未来だ」
魔力が光の粒子となって、俺の身体を包み込んでいった。周囲には、皆の鎧のパーツが浮かび上がり、それが一つずつ力として俺の身体に張り付いていく。そして全てが一つとなった時、一つの鎧がそこにはあった。
「一体化」
その瞬間、世界が、宇宙が、この次元そのものが、その力の降臨に祝の軋みをあげて割れた。集まった光が、全ての空間を修復しながら消えていく。そして、その光の中に、召喚王が立っていた。




