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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
最終章・最終部 召喚魔法で異世界踏破
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空間跳躍の黒兎

「行くで」


 そう言うとザルシュは、空中に飛んだ。そして、回転しながら身体の体勢を変える。そして、何もないはずの空中を蹴って加速した。


「狩りの始まりやな」

「チッ!!」


 ナハトが、先程よりも速度の上がった斬撃をザルシュに見舞う。しかし、レムたちとの訓練を経てここにいるザルシュの動きは伊達ではない。何もない筈の空間を蹴り周り、ザルシュはナハトの斬撃を避け続けた。


「よそ見はいけませんよ」

「おっと、お前たちの相手は私がする」


 ウインディア達の前にフブキが立ちはだかった。任せてみようかな。いざとなったらシルドがいるからよそ見してても問題ないんだけど、フブキも活躍の機会が欲しいだろうし。でも、一人に任すには人数が多いよな。誰かにお手伝いしてもらったほうがいいか。


「あ、そうだ」

「?」

「イノって大丈夫だよな?」

(まぁ、あの鎧無しの子たちなら大丈夫なんじゃないですかね。立ち回りさえしっかり出来れば、早く沈むこともないでしょうし)

「分かった。じゃあ、イノで」


 俺は、ウインディア達に左腕をかざす。すると、俺の腕から魔法陣が浮かび上がり、一匹の巨大なイノシシを召喚した。


「ブイイイイイイイイ!!!!」

「イノ、あの子達の相手を頼めるか?」

「ブイ!!」


 高さ的には、俺の身長の二倍ほどあるイノシシである彼女は、俺の言葉に頷いた。うんうん、会ったときは言葉すらあまり理解できてなかったのに、一回進化して成長したな。


「イノ?サイフェルム、最後の魔物の?」


 イノの事も知ってるようだ。イノは、元々ウインドボアという種族だった。昔、アリーが倒したのと同じ魔物だ。どうやら、サイフェルムの近くに魔力が貯まるスポットがあるらしく、そこから生まれたらしい。多分、アリーが倒した奴も同じとこから生まれたんだと思う。でも、強い魔力を発する風属性の迷宮がもうサイフェルム近くにはないから、イノが最後のサイフェルム近くに生まれる魔物になるだろう。


「ブイイ!!」


 発見した時は、腹をすかしてうちの野菜畑に押し入って来たので即座にレーチェに取り押さえられていた。でも、あまりに体が小さく可哀想だったので家で飼うことにした。その結果、今では巨大な風を纏うイノシシになった。余談だが、一回で人化できなかったので今は、ミルク達にこっぴどくしつけられている。可哀想に。でも、おかげで言葉が通じるようにはなったようだ。


「速いだけおすな」

「ちょこまかと、攻撃もせずに」


 ザルシュは、まだ遊んでいたようだ。いや、様子見というべきか。


「ええい、鬱陶しい能力だ!!」

「そうでっしゃろ。剣士は、空中を薙ぎ払う動作を普通はしませんおすからな。振りにくいってとこでっしゃろな。でも、それを克服してくるやつもおるんでっせ。人間の剣士がそれを克服するために魔法で空を飛んできたこともありましたわ。あれは驚愕でしたな。チッ、ライオルのやろう。次あったら蹴り入れたろ」


 ライオルさんが飛べるの、ザルシュのせいだったんだな。


「さて、そろそろ行こか!!」


 ザルシュが、空中を蹴ってナハト目掛けて飛ぶ。


「愚かな!!切られに来るか!!!!」


 ナハトが、ザルシュ目掛けて剣を一閃した。しかし、ザルシュはその剣の側面に足を乗せると、それを蹴り飛ばして斜めに飛んだ。


「何!!」

「もう目が慣れたんやなぁ」

「馬鹿な!!創破の鎧で強化された斬撃だぞ!!」

「いや、振りが雑なんやね」


 懐にはいられたナハトは、ザルシュの蹴りをモロにお腹に受ける。少し後ろに弾かれて、ナハトは着地した。


「う~~ん、硬いおすな」

「振りが雑だと。私の、剣が」

(雑ですね)


 レム先生のコメントは辛口だ。実際にだが、よく見ると振る過程で腕が真っ直ぐではなく、ややぶれている。うん、ブレてる。だけどね、これって空気抵抗を振る時に受けるせいなんだよね。ほんと、僅か。僅かにブレる。空気に抵抗されてるからね。でも、それをレム先生は良しとしないんだ。辛口だよね。


「……本気を出す」

「ええやないですか。それでこそやりがいがありますわ。正直、うちの旦那が本気出したらすぐ終わるさかい、その前に暴れといたほうがいいですわ。まだ無力感を感じんうちにな」


 いや、どうかな。クリームって子が無敵持ってるっぽいからな。警戒して初手全力じゃないって言うのもあるんだけど。見てると、完璧な無敵じゃなく見えるね。なんだろう。やや反射みたいな感じかな? 使いこなせてはいなく見えるな。攻撃弾かれたイノが痛そうだけど。


「ブイイ!!」

「チッ、もう倒れろ!!なんてタフな!!!!」

「イノ、動きが遅いですよ。それぐらい動作を見て攻撃を中断するくらいしなさい」


 その声に、クリームの動きが止まった。彼女の視線は、俺の隣に出てきたミルクに注がれている。


「おい、あれ」

「まさか」

「神牛か?」

「イノ、身にしみましたか。巨体すぎるとそれだけ当てられやすくなると」

「ブイ」

「そして分かりましたか。人化する大切さを」

「ブイイ!!」

「よろしい。では、ご主人様。あれをお願いします」

「お、今か。分かった。イノ、進化しろ」


 俺が手をかざすと、イノが風の魔力の光りに包まれる。その光が小さくなっていき、大きな身長のイノシシの毛皮をかぶった女性が出現した。


「ぐわ~~はっはっは!!!!やったぞ!!私も皆とおんなじになれたブヒ!!やってやったぞ!!これで地獄の特訓から開放される!!!!」

「し、進化した!?それも、一瞬で!!」

「ほ、本物だ!!!!」

「いや、まだただの召喚魔法での入れ替えという可能性も」

「いや、でもあれはどう見ても」


 観客がざわめく。その中で、イノは体に魔力を纏い始めた。


「それじゃあ、鎧を使うブヒ。手加減はしないよ。さっきまで痛かったからね。ちゃんと受け止めてよね」

「嘘でしょ?」


 イノが、風の鎧を身に纏う。その姿は、カザネとは違って重装甲で鈍重にも見えた。しかし、それは風の鎧。速度は、見た目では測れない。


「吹き飛び注意ブヒ」


 その瞬間、イノが消えた。


「えっ」


 次の瞬間には、イノはクリームを吹き飛ばしていた。吹き飛ばされたクリームを、俺はディレイウインドを使って移動して抱きとめる。


「あれ、ごすじん様。なんで受け止めるブヒ?キャッチボールしたいの?」

「いや、今の壁にぶつかってたら死んでたぞ。だからだ」

「ブヒ!!優しいブヒ!!」

「いや、イノが手加減しないと駄目なとこでしょ。これ」

「むっ。すまんブヒ。まだ力の入れ方がよく分からんブヒ。なので地獄特訓だけは、勘弁して下さい」

「どうかな?」

「……」


 ミルクは、やる気みたいなんで、まぁするんだろうな。


「神牛だと」

「あっちゃ~~。出てきはりましたか。時間かけすぎたかな。ほなら、私も急がんといきまへんな。旦那はん、私もお願い致します!!」

「おお!!ザルシュ、進化しろ!!」


 ザルシュが、黒い光を放つ。そして、その中から黒いウサミミの生えた褐色肌の女性が出てきた。


「うん、これなら人との商売も問題ないやろ。チャームポイントは、残ってしまったみたいやけどな。まぁええわ。それじゃあ、ケリをつけるで」


 ゼルシュは、そう言うと鎧を身に纏う。黒い騎士のような鎧を、ザルシュは身に纏った。しかし、その騎士には鋭いウサミミが生えており。脚部は、太く強靭だ。


「可哀想やさかい、私は手加減して一撃で決めたるで」

「抜かすな!!来い!!」

「いや、もう終わってるで、自分」


 そう言うと、ザルシュ蹴り上げた足を元に戻した。ザルシュは、ナハトから離れた位置から一歩も動いていない。しかし、ザルシュの蹴り上げた足は、足先が黒い空間に飲まれて消えていた。そして、その足先から生まれた衝撃が、ナハトに直撃している。転移魔法だ。いや、違うのか。そう見えるが、どこか違う。はっきりとしているのは、ザルシュの攻撃がワープしてナハトに直撃したことだ。


「空間転移や。別空間からの魔法攻撃やな。と言っても、蹴り先をあんたに繋げただけの物理攻撃やけどな。一回こことは違う世界を移動した攻撃やさかい、移動先が読めんかったやろ。ま、これでうちも少しは大將達の役に立てるっちゅうもんやな」

「馬鹿な」


 ザルシュの蹴りで、ナハトの纏っていた鎧は弾け飛んだ。直後に壁に激突し、ナハトはその場に倒れ伏す。その光景を、ザルシュは油断なく眺めていた。


「ザルシュは優秀ですね。イノも見習いなさい」

「ブヒ!!分かりました!!」

「さて、残りも片付けよか」


 そう言ってザルシュの目が、残ったウインディア達に向く。その瞬間、ウインディアの手にナハトの持っていた黒い結晶が飛んでいった。







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