時の変化
アリーに色々言われて俺自身がある意味吹っ切れた状態になったあと、全てが終わって時が経ったからか、意外な出会いが増え始めた。
「ここが最高の人参を作りよる商会の本拠地どすか。なんともけったいな結界壁やな」
変わった風貌の女性がそこには居た。その女性は、全身黒いもこもこの毛皮に身を包み、仮面をつけていた。頭部には、大きな黒いウサギの耳が生えている。そこには、作り物ですよと主張するように色を塗った紙らしきものがウサミミの耳穴部分に貼り付けてあった。
「……嘘だ」
「んっ、何か言ったかローリィ?」
「嘘だろ。この気配は!!!!」
俺とお茶を一緒に飲んでいたローリィが、突然駆け出した。魔法で移動用の円盤まで出現させて結界の外めがけて駆け出す。俺達は、結界に魔力で認証をかけているので普通に通れる。ローリィは、そのまま結界の外へと駆けていった。
「……俺も行くか」
俺は、転移魔法を使うことにした。ローリィも使えるんだけど、余程慌ててたんだろうな。取り敢えず、俺はローリィの行った方向に転移した。
「おっ、アポを取らなきゃ入っちゃ駄目なんか。何々、商会の販売店で面会の申請書を書いてくれと。あ~~、アホくさ。めんどいやないかい。誰か都合よく出てこんもんかな。出待ちで済めば早いやん。少しまとっと。……おっ?早速来てるっぽいやん。私は、運がええなぁ。さて」
女性は、かぶっている帽子脱ぐ。そして、結界から出てくるローリィを待ち構えた。
「はぁはぁ、まさか!!!!」
「お初にお目にかかります!!!!野菜で商売させてもろてます、ミザルシュ商会いうとこのもんですが」
元気よく女性は、お辞儀をしてローリィを出迎えた。そして顔を上げた次の瞬間、女性にローリィは、ジャンプして飛びかかっていた。
「ぐわらごふぉおおおお!!!!」
勢いよくローリィに飛びかかられて女性は、地面を転がっていく。3回転ほどして止まると、女性はローリィを睨みつけた。
「何してくれるんや!!!!危ないやないか!!!!」
「ほ、本当に。本当にお前なのか?」
「?」
ローリィは、女性の仮面に手をかける。そして、仮面を外そうとした。しかし、それを女性が手で押さえて阻む。
「あっ、ちょ!!お嬢さん!!それは、うちの商会の商売道具やさかい!!外されたら困るで!!!!」
「お前なのか。お前なんだろ。ザルシュ!!」
「……お嬢さん、なんで私の名前を」
女性の仮面が外れる。そこには、体毛のないウサギのような顔をした女性の素顔があった。素肌は黒く、目は赤い。その女性の顔を見て、ローリィは涙を流した。
「生きて、生きていたのか!!!!」
そう言って、ローリィはザルシュに抱きつく。抱きつかれたザルシュは、訳がわからないと言った感じで頭をかいていた。
「ローリィ、何かあったのか?」
「お?」
「お?」
ローリィが、魔物の女性に抱きついて静かに泣いている。お知り合いだろうか?
「あの~、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「えっと、私、人間やない風に見えると思うんですけど、それは勘違いでして」
「ああ、別に気にしなくていいですよ。ローリィが抱きついてるなら害はないと思いますし。それで、どちら様ですか?」
「あ、弁解しても遅い的なやつですか。分かりました。覚悟決めます。私は、ザルシュ・ミザルシュ。野菜販売の商会を営んでおります」
「ザルシュ?えっと、うちのローリィとお知り合いのザルシュさんですか?」
「私は、このお嬢さんとは、初対面やと思うんやけど」
「ああ、そうでした。うちのクローリでした。クローリとお知り合いの、その、元魔王軍のザルシュさんですよね」
俺は、最後の方を小声で耳打ちした。
「私を知っとるんどすか!!いや、えっ、クローリの大将?嘘やろ」
「久しぶりだな、ザルシュ。ほんと、久しぶり」
「えろう可愛くなりましたな、大将」
「ああ、私もそう思うよ。さて、積もる話もあるだろう。旧友を我家に招待したいのだが、どうかなベイ?」
「ああ、いいんじゃないか?」
「では、まずは例の小屋へ転移するとしよう」
「えっ」
そうローリィは言って、俺達3人を商業面談で使う小屋へと転移させた。
「えっ、ここどこですのん?」
「我々、アルフェルト商会の管理している小屋だ。とある無人島にある。さて、ここならゆっくり話が出来るな」
「た、確かにそうみたいやな。ええイスですな、大将」
「まぁ、座ってくれ」
「う、うす」
俺が座ると、ローリィは俺の隣に座る。その向かいに、ザルシュは座った。
「改めて紹介しよう、ベイ。彼女は、ザルシュ。我が元魔王軍、最強の脚力を持つ精鋭だ」
「は、はい。魔王軍、瞬鋭のザルシュとは、私のことでして」
「ザルシュ、君は戦死したと聞いていたんだが?」
「ええ。実は、バズラに言われて死んだふりをしておりまして」
「何、バズラに?」
「はい。魔王軍を率いるからには、必ず誰かが犠牲になる。それはベイルか、シャハトか、はたまたバズラ自身かもしれない。その時、司令塔が先に死んでしまった場合、率いられて居た魔物たちは行き場を失って殲滅されるしかなくなってしまいます」
「そうだな」
「その時、私が最後に魔物たちを救うためにと、一人死んだふりをしておりました。私なら、一番早く動けますから、適任であると」
「なるほど」
「それで、ライオル達から皆を逃がす時に、あの時私は、一人残って奴の斬撃を受けて川に落ちて」
「ああ」
「それから死んだふりをしておりました」
「そうだったのか」
ローリィは、悲しそうな顔をしていた。だが、顔をわずかに揺らすと、ザルシュを見つめる。
「ザルシュ」
「はい、大将」
「私達と一緒に来ないか?」
「……大将に言われたら、行かないわけにはいきまへんな。このザルシュ。再び魔王軍の為に、働かせて頂きます!!」
「いや、魔王軍は、もうない」
「ありゃ、ないんどすか。まぁ、バズラが出てきてない時点でそんな気はしとりました」
「今は、この星を救った召喚王の元で私は生きている。ザルシュもどうだ。ここなら、魔物だろうと関係なく働けるぞ」
「マジですか?というか、この星を救った?あれ、そういえばこの人、前に見たような」
「えっ?」
ザルシュさんと俺って初対面だよな。だった気がする。
「あ~~、あれだ。大将と一緒に皆でライオル倒した時に居た人ですやん!!そっかぁ、あんたがこの星を救ったんか。納得や」
「えっ、ちょっと待って。それって」
「私が、バズラと創世級に迷宮の力を取り込んでなった時か!!!!」
「えっ、そうでっしゃろ?あの時、意識だけ私達も大將とともにあったと思うんですけど」
「そ、そんな馬鹿な!!あれは、私の生み出した君たちの幻影では」
「いや、皆居たと思いますよ。姿形は変わってましたけど、私には、みんなの気持ちが分かってました。皆、勝つぞってえろう張り切ってましたで。私もですけど、最後にはこの人達に勝てなくて、皆えろう悔しそうにしてました。でも、最後は皆、笑ってましたで。やりきったって感じで」
「……そうか」
「……」
魔法の起こした奇跡ってところか。あの時、クローリは、本当に仲間たちと一緒に戦ってたんだな。
「ふむ。これも人参の導きですし、なにより、そこの人は私らの夢を叶えてくれたっちゅう人でっしゃろ。しかも、お世話になった大將もおる。なら、迷いは無いですな」
「来てくれるか」
「ええ。元魔王軍、ザルシュ・ミザルシュ。今より、アルフェルト商会の傘下に入らせてもらいます。よろしいですか、ベイさんとやら?」
「ああ、よろしくお願いします」
その後、俺はザルシュと正式に召喚契約を結んだ。そして、我が家の人参に毎日嬉々として食らいつくザルシュを見るのが、我が家の日課となった。




