挨拶回り3
「うおおおおおおおおおおおんおんおん!!!!おんおんおん!!!!」
「パパ、飲み過ぎだって」
なにか大きな鳴き声が聞こえると思ってみてみたらジーンさんだった。グラスを片手に、テーブルに突っ伏している。そして大声で泣いていた。普段のあの人からは、考えられないような行動してるな。
「レラが、俺の娘が、け、結婚!!!!うおおおおおおおおおおおんおんおん!!!!」
「あなた、飲みすぎよ」
「うおおおおおおおおおお!!!!」
泣きながら叫んでいて訳がわからない。大丈夫だろうか。
「あ、ベイ君」
「ベイ・アルフェルト~~~~!!!!」
「は、はい!!」
「娘を、レラを、よ、よろしく頼む。うおおおおおおおおおおおんおんおん!!!!」
「は、はい!!幸せにします!!!!」
肩を持たれて、ジーンさんに前後に揺さぶられる。ほんと、普段のこの人らしくない行動してるな。
「ベイ君、ありがとう。わざわざ来てくれて。パパは、私とママが見ておくから大丈夫だよ」
「そ、そうか。何かあったら言ってくれ。俺も、手伝うから」
「うん、後でね」
そう言って、レラ達の元から離れる。去り際にレラの顔が赤かったな。まだ結婚式の緊張が続いてるのかも知れない。
「私達って、今は皆、わざわざそれぞれの家に分かれて座ってるでしょ」
「うん、そうだね?」
「私が、そう提案したのよ」
「アリーが?」
「ええ。このあとの心の準備をするためにね。家族と居たほうが、安心するときもある。そう思ったのよ」
「えっと、よく分からないけど、分かったよ?」
「私は、ベイと一緒のほうが安心できるけどね」
そう言って、アリーは微笑んだ。皆さん、ここに女神が居ますよ~~!! 俺だけの女神!!!!
「騒いでいるこっちの席とは違って、あっちの席は落ち着いてるわね」
そう言って、アリーは向こうの席を指差した。その席には、レノンとサラ。そしてその家族とみられる人たちが座っていた。
「あ、アリーさん」
「どうもこんにちは。アリー・アルフェルトです。そして私達の夫のベイ・アルフェルト。皆さんにご挨拶に伺いました」
「あ、これはどうも」
「これからよろしくお願いいたします。娘をよろしく」
「はい。よろしくお願いいたします」
普通だ。普通のやり取りだ。なんか安心する。一般家庭って落ち着くな。
「「……」」
レノンとサラは、無言で俺を見ている。顔も赤いな。さっきのアリーの発言と、関係しているのだろうか。
「では、料理を楽しんで下さいね」
「はい。ありがとうございます」
挨拶もそこそこに、次のテーブルを目指した。次は、ニーナの家族のところか。お、おばあさんも居るな。
「あら、ベイくんじゃない。あの時は、うちの夫がお世話になったわね」
「いえ、あれをしたのは殆どシデンですから。お気になさらず」
「ううん。ニーナが、あなたが来てくれたからだって言ってたわ。だから、ありがとうね」
「はい。お役に立ててよかったです」
おばあさんと少し話して、ニーナの両親とも少し話した。内気な我が子がこんなにも早く結婚するとは思わなかった、と、そう言う内容を回りくどく伝えられた。要は、大切な娘だから幸せにしてやってほしいということなのだろう。俺が、ニーナを大切にしますと言うと、ニーナの両親は満足げに頷いた。その間、終始ニーナは無言だった。ニーナの顔も赤いな。
「さて、じゃあ最後のところに行きましょうか」
そう言われて連れて行かれたのは、アリーの実家の人たちが座るテーブルだった。
「……」
「私、幸せになりますね。この先、一切の障害すらない勢いで」
無言。アリーの言葉にご家族一同無言である。ただ、アリーの兄さんと、マリーさんだけは嬉しそうに笑顔を作っていた。
「……アリー」
「はい。お祖父様」
「おめでとう。幸せにな」
「はい。確実に幸せになってます。ありがとうございます」
「ベイ君」
「はい」
「アリーをよろしく。そして、もし君が良ければだが、うちの魔法を学ぶ気はあるか?今更こう言っても君には必要ないかも知れないが、うちの魔法にもそれなりの」
「いえ、お祖父様。必要ありません」
「アリー」
「クリムゾンランス・コスモ」
その瞬間、アリーの手のひらに真紅に輝く星々の煌めきを宿した槍が生まれた。
「……」
「お祖父様、既に私はバルトシュルツを超えている。これを見れば分かっていただけるはずです。バルトシュルツの持つ魔法では、これ一つに全てが及ばない。お分かりいただけましたか?私達に、家族であること以外の横のつながりが必要ないことに」
「……分かった」
「ま、そうなるよね」
そう言ったのは、いつの間にか後ろに居たシアだった。アリーは、その声に黙って槍を消す。
「うちは、独立した家になるの。分かるわね」
「はいはい。アルフェルトは、国のお抱えになる気はないと。アリーちゃんなら、そういうと思ったなぁ~~」
「あ、ノービスさんを利用して私達を利用しようとしても国を消し飛ばすからそのつもりで」
「あ~~、怖い怖い。冗談でも怖いなぁ~~。ノービスさんが、変な扱いされないようにしようっと」
「それでいいわ」
結婚式でこんな空気を味わうとは思わなかった。怖いです、アリーさん。
「それはそうと、ちょっとうちのほうに来てくれない?シュアちゃんが頭抱えててね」
「うん?」
そのまま、シアに連れられて別のテーブルへと行く。すると、ライオルさんとシアとローリィが一つのテーブルに座っていた。
「私のナイフとフォークさばきもなかなかのものだろう、ライオル」
「黙って食え」
「君、さっきから魚しか食べてないじゃないか。野菜も食べたまえ。美味いぞ」
「今日は、魚の気分なんだよ」
「……なんなんですか。この少女は」
シュアが、ローリィを見て頭を抱えてテーブルに突っ伏している。それもそのはず、会話は穏やかだが、二人の間には火花にも似た緊張感あふれる空気が漂っていたからだ。そんな中にシュアはいる。可哀想でしかない。
「ローリィ、何をやってる」
「お、ベイ・アルフェルト。いやなに、私の人生の目標も達成した。そこで次は、何をするべきかと思ってね。ライバルとの再戦というのも悪くないかと思ったんだ。以前は勝ったが、また以前とは私は違うわけだしね。面白くなりそうだ。ライオルも、乗り気なようだし」
「ライオルさん?」
「……人っていうのは、限界を信じたくないもんだ」
そう言って、ライオルさんは魚の身を口に含んだ。
「駄目よ。あなたは、ベイにすべてを捧げた。ベイのためにならないことはしないで」
「なるほど。確かにそうだな。ライオル、悪いがお許しが出ない限り再戦は無理そうだ。世間話ぐらいなら許されるだろう。また遊びにでも来てくれ」
「いつ俺が遊びに行ったんだ。お前こそ、変なことをして俺に迷惑をかけるなよ」
「それこそないさ。私は、平和を愛する可憐な少女だからね。大人しく花でも愛でて過ごすさ」
そう言うと、ローリィはお皿を持ってテーブルを降りた。そして、どこかへと歩いていく。
「私達も戻りましょうか。フィー達のところに」
「分かった」
挨拶回りも終わったし、俺達は一度フィー達の元にローリィと一緒に戻ることにした。
 




