挨拶回り2
「ま、ライアさんは、ヒイラに任せましょう」
「お、おう」
「ベイは、最後に決断してくれればいいから」
「……よく分からないけど、分かった」
「ふふっ、なら大丈夫ね」
どう転ぶか予想できないけど、そう答えるしかない。ライアさんを、幸せにできる決断をすればいいんだよな? 多分大丈夫なはずだ。ライアさんへの、俺の思いやり力高いからな。
「えっと、あっちはサラサたちね。行きましょうか」
「分かった」
そう言われて、俺はサラサ達のエジェリン家の集まり部分へと移動する。そこでは、全員が酒を片手に楽しそうにしていた。
「今日は飲むぞ~!!祝だ!!祝!!!!」
「そうだそうだ!!!!」
「……周りに迷惑は、かけないでくれよ」
「当たり前よ~、サラサ!!酒は酔にのまれるもんじゃねぇ!!飲むもんだ!!」
「分かってくれればいいんだ」
「お、主役が来たじゃないか!!おめでとう、ベイ君。うちのサラサをよろしくね」
「はい、サンサさん」
サラサの母親のサンサさんがそう言って握手を求めてきた。俺が握手に応じると、サンサさんはニヤリと笑う。そして、近くのテーブルを引き寄せてその上に俺達の腕を誘導した。
「さぁ、家族中にその力を見せとくれ!!私を破った、腕相撲でね!!」
「お~~!!リベンジマッチだ!!!!」
「母さんやれやれ~~!!」
「負けるな~~!!」
「あいよ!!」
そう言って、サンサさんは腕まくりして腕をつく。俺は腕まくりせず、そのままテーブルに腕を付いた。
「おや、平然と受けるね」
「ええ、始めましょうか」
「……誰か合図を」
「俺がやろう。両者組み合って、始め!!」
「ふんっ!!!!」
サンサさんが、いきなり全力を込めて腕を曲げようとする。しかし、俺の腕は一ミリも動かない。サンサさんがそこからさらに力を込める。俺は、少しサンサさん側に腕を傾けた。
「おお!!動いた!!」
「押してるぞ!!」
……やはり、今の俺の力は今までと比べ物にならない。少し相手に有利にしたはずなのに、そこから俺の指示通りに腕は動きを止めて静止している。今までと見た目は変わっていないのに、ミルク並みにパワーの高い腕だ。やっぱり人間やめてるなぁ、俺。
「……」
「どうした!!耐えるだけで精一杯かい!!」
「……終わらせますね」
そう言って、俺はサンサさんに微笑んだ。
「なっ!?」
ゆっくりと腕を動かしていく。腕を持ち直し、サンサさんの腕側を、テーブル目掛けて折り曲げていった。
「いっ!?」
「母ちゃん頑張れ!!」
「負けるな!!!!」
テーブルの反対側に全体重をかける勢いで体勢すら活かしてサンサさんは腕に力を込める。もう、顔はすごく真っ赤だ。だが、俺はそれを平然と曲げていく。サンサさんの腕は押し返すことが出来ない。そして、ゆっくりとサンサさんの腕はテーブルへとついた。
「俺の勝ちですね」
「……ああ。最高だよ、あんた」
「うおおおおおおおおお!!!!母ちゃんが負けた!!!!」
「鍛え直してたのに!!」
「化物か!!」
あれだけ強かったのに鍛え直してたのかよ。進化しててよかった。勝てなかったかもしれん。
「さて、じゃあ次は、俺の番だな」
「じっちゃん!!」
「じっちゃん!!」
「……ガンドロスさん」
そう言って、ガンドロスは俺の前に移動した。なんだあの俺の腕の数倍くらい太い腕は。既にビジュアルで反則クラスだぞ。階級詐欺だ。
「受けてくれるよな?」
「……ええ、受けましょう」
俺達は、無言で腕を握る。そして、そのまま組み合った。
「それじゃあ、二人共いいね。……始め!!」
その瞬間、俺もガンドロスも一瞬で大きく力を込める。すると、最初だけ真ん中で腕が静止していたが、その後、全ての残りのエネルギーがガンドロス側に流れ込んだようでガンドロスはまるで回転でもするかのようにテーブルに腕を叩きつけられてそのまま床へと倒れ込んだ。腕を叩きつけた瞬間、俺は慌てて手を離す。おかげで、ガンドロスは支えをなくして床を転げた。だが、流石ガンドロス。少し転がったぐらいで腕をついて止まった。流石だ。
「……やるじゃねぇか」
「どうも」
ガンドロスは立ち上がると、再び腕を差し出してくる。握手する姿勢だ。俺は、その腕を取る。そして、がっちり握手をした。
「サラサをよろしくな」
「はい。幸せにします」
「お前になら、任せられるぜ。よし、今日はいい日だ。もっと飲むぞ~~!!!!」
「「「「うおおおおおおおお!!!!」」」」
ガンドロスは、そういうと酒を片手にテーブルへと戻っていった。俺は、それを視線で見送った。
「祖父のわがままに付き合ってくれてありがとう、ベイ」
「いや、これぐらいお安い御用だよ」
「皆、これでベイの凄さがわかっただろう。うちのお祖父ちゃんより強いんだ。安心できただろうな」
「なら良かったよ」
「これでうちのは今日を落ち着いて過ごせるだろう。他の皆のところを回ってあげてくれ。ここは、私が問題ないように見ておくよ」
「分かった。後でな、サラサ」
「ああ、楽しみにしてるよ。ベイ」
「じゃあ、次に行きましょうか」
そうアリーに言われて、俺達はその場を離れた。
「ベイ様の筋肉には、目に見えない以上の力強さが備わっていて最高なんです!!!!」
「パパだって鍛えてるぞ!!負けないぐらいあるだろ!!ふんっ!!!!」
「おじさんだって、商売の片手間ではあるが鍛えてるからな!!ベイくんに負けてる気はないぞ!!!!」
「甘い!!甘いですよお二人とも!!ベイ様の筋肉は、それを凌駕しているのです!!最早、筋繊維を超えています!!新たな筋肉です!!ニュー筋肉!!!!」
「ニュー筋肉だと!!!!」
「馬鹿な!!どんな鍛錬をすればそうなると言うんだ!!!!」
「……」
少し進むと、ロデとロザリオの実家の塊があった。近寄りがたい雰囲気だ。ふと、俺と同じ光景を見ていたロデと目が合う。するとロデは、ここは大丈夫だから他を回ってくれというジェスチャーをした。それを見て、アリーは無言で俺を引っ張ってよそへと移動した。助かった。あれには巻き込まれたくなかった。
「ビバ筋肉!!!!」
「ビバ筋肉!!」
「ビバ筋肉!!」
結婚式会場で上着を脱ぎ捨ててマッスルポーズを決めているロデとロザリオの父親たちは放っておこう。
仕方ない。関わると俺もやらされそうだからな。




