交渉中
「それはそうでしょう?治療されておいて、恩人の頼みを無下にするというのは、いかがなもんですかね?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっす!!ミエル様には、まだやることがあるんで、それは困るっすよ!!」
「へっ、私がやること?」
ミエルは、特に思い当たることがないのか、首をかしげた。
「そうっすよ!!ミエル様が魔法を使える今、階位上位の入れ替えが発生するっす!!ミエル様には、爺共をとっちめていただかないと!!」
「ええ~~!!」
「いいっすか!!ミエル様は現状、魔力量なら我々の中で1位っす!!あの爺共なんて、もはや取るに足らない存在っすよ!!さっさと上から閉めだして、オルヴィアの石も封印指定にするっす!!」
「で、でも私、そんなこと……」
「ミエル様がやらねば、このクソみたいな現実は、誰も変えられねえっす!!お願いします!!今まで護衛してきた、私の頼みを聞くと思って!!その後なら、この人について行くなり、迷宮を支配するなり、好きにしていいっすから!!」
「ふええ!?」
ミエルは、チラッと俺の顔を見る。なんだろうか? 今、色々言われて焦ってはいるけど、俺が治療したから出来るだけその恩は返したい感じかな?
「あわわわわわ!!!!」
「も~、シスラったら。ミエル様の気持ちも、考えないといけないでしょ。確かに今のミエル様なら、1位になることも無理じゃないでしょうけど。そんな簡単ではないのよ?」
「と、言われても。この状況に終止符を打つには、これしか方法が無いっす……。皆が怯えずに過ごすには、ミエル様のお力が必要不可欠っすよ」
気を落として、下を向いているシスラ。だが、その状況を見かねたのか、ミルクが手を叩いて注目を集めた。
「はいはい!!その話は、そちらでゆっくりやってくださいね!!それよりも、今はご主人様のための、仲間の紹介の話でしょうが。どうですミエルさん、うちに来る気はありませんか?」
「ええ~~!?あ、あの……」
「う~ん、ミエル様も、まんざらでもないっすかねぇ」
「そうね。やっと、魔法が撃てるようにしてもらえたんだもの。それほどの恩を、感じても仕方ないわね」
二人の言葉に、ミエルは顔を赤くしていく。また俺をチラッと見ると、すぐに恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。
「ふむ、これは決まりですかね」
「ああ~!!ちょっと、待つっす!!分かった!!シゼルさんっす!!彼女なら、大丈夫な気がするっす!!」
「え、シゼルさんですか?」
「シスラ。それは、無理があるんじゃ……」
「いやいや!!シゼルさん、年下が好みって前に言ってたんすよ!!もしかしたら、有り得るかもしれないじゃないっすか!!」
「ふーむ、まずはどんな人か、説明していただかないと」
ミルクは、腕組みをして顎に片手を持っていく。そして、品定めをするようにシスラを見た。
「えっと、眼鏡をかけた、ツリ目の美人女性ですっす!!ちょっと、口うるさいとこもあるっすけど、基本的にはいい人っす!!あ、あと胸も、それなりにでかいっすよ!!」
「ふむ。まぁ~、悪くはなさそうですね」
「そうでしょう~。結構な、優良物件っすよ?」
シスラは、腕揉みをしながらミルクの機嫌を伺う。なんだろう、まるで悪巧みでもしているかのような光景だ。
「とは言っても、まだ仮定の話ですよね?」
「ええ、そうっすね……。でも、きっとだいじょうぶっすよ!!明日、ここに連れて来るっすから。その時にでも、話をしてみるというのはどうっすか?」
「ふ~む、そうですね。今日はもう遅いですし、そうしますかね」
「へへへ、ありがとうございますっす!」
話がまとまったようだが、なんだろう、この二人のノリ。ノリの波長があっているんだろうか? お互いが、相手に空気をうまく合わせている気がする。もちろん、悪い方向に……。今は、二人で邪悪な笑みを浮かべあっていた。
「では、よろしくお願いしますよ。フフフ」
「へへへ、もちろんっす。連れてきますから、後は煮るなり、焼くなり。フフフ」
本当に、大丈夫なんだろうか?まだ見ぬシゼルさんが、不幸にならないといいが……。
「あ、あの!!」
「うん?」
声のした方向を見ると、ミエルが俺に話しかけてきた。
「えっと、ベイさん。本当にありがとうございました!!この御恩は、必ずお返します!!」
「ああ、いいよ。気にしないで。治ったみたいでよかったよ」
「ふぇえ!!いいえ、そういうわけには……。でも、ありがとうございます!!」
何と言うか、誠実で一生懸命な子だな。治せてよかった。
「……やっぱ、ミエルさんでいいんじゃないですかね?」
「ちょ……、流石にそれは、少し待っていただけると」
「まぁ、今後次第ですかね……」
まだ二人は、話し込んでいるようだ。なんとなく、もう一人の女性の方を見ると、丁寧にお辞儀をされた。礼儀正しい人だ。この人に任せておけば、シゼルさんも悪いようにはならない気がする。だといいなぁ……。
「そうですね。我々は明日、聖属性聖魔級迷宮を探索するつもりです。なので準備ができたら、声をかけていただく感じでよろしいですか?」
「はい!!分かりましたっす!!では、そんな感じで!!」
「うむ。ご主人様、話がまとまりました!!今日は、一旦帰りましょう!!」
「ああ、分かった。じゃあ皆さん、また宜しくおねがいします」
「は、はい!!」
「仲間候補のことは、任せるっす!!」
「ミエル様のこと、ありがとうございました。それではまた」
3人の挨拶がすむと、俺達はそのまま転移して、家に帰った。
*
「……消えたっすね」
「ふわわわわわ!!!!」
「転移魔法、というやつかしら?やはりあの人達は、私達よりかなり実力が上の人達みたいね……」
「いっそ、あの人達に爺共を倒してもらうのも、いいかもしれないっすね。そうすれば、ミエル様も安心して、愛しの王子様のもとに送り出せるってもんっすよ!!」
「ふええええ!!!!」
「あら、そんなに驚かなくても……」
「バレバレっすよね」
「あわわわわわわわわわわわ!!!!」
二人は、顔を赤くしたまま動かなくなったミエルを引きずって、迷宮に戻った。
*
「ミエルの魔法が、使えるようになったという話だが……」
「……まずいことになったな」
「早急に手を打たねば!!」
「落ち着け、あんな小娘に、何が出来る……」
「だが、我らの政策を良いと思っていない連中がいるのも、事実であろう!!」
「うーむ……」
会議室は、一瞬の静寂に満たされた。
「……ならば、こうしよう」
「何か、考えがあるのか?」
「うむ。オルヴィアの石を使おうではないか」
「なるほどな」
「それなら、問題もないでしょう」
「うむ」
「魔力を吸い尽くされ、死んでもらうというわけか」
「その通りだ」
「では、どう見せかけるかが重要になってくるな」
会議室は、その話し合いで賑やかになっていった。