挨拶回り
唇をこのまま離すのが惜しいと感じるほどの幸せなキスだった。しかし、まだ皆が待っている。そう思ってアリーから唇を離そうとすると。
「ベイ君!!」
「私、こっち!!」
「私はこっちで!!」
「股下のポジションは私が!!!!」
「では、私はこっちだ。フィー姉さんは上で」
「ラジャー!!」
「上!?」
あっという間に全員に俺は囲まれた。ヒイラが焦って突撃してきたせいだろうか? それにしても皆容赦なく俺の顔にキスをしていく。しかも、俺の上に我先に乗ろうとするの止めてくれるかな。普通だったらこの状況で潰れてるよ。俺は大丈夫だけど。
「あはは。皆元気だね」
「じゅ、順番にしましょうよ」
常識のある、レラとニーナは待っている。2人のような常識人が居てくれて俺は嬉しいよ。その後、ちょっと時間はかかったが、なんとか全員とのキスを終えた。ドタバタした。
「ま、最後はわしが締めてやろう」
「なんであんたなんですか」
どうやら、レーチェも待っていたらしい。実は、当初はレーチェも結婚はビジネスパートナーだからとか言ってやらないと言っていたのだが。
「レーチェ、俺と結婚して欲しい!!」
「は、はい!!」
と、告白したらそのまま結婚してくれることになった。この中で、ある意味最後に決まった相手と言っても過言ではない。やったぜ。ミルクとレーチェが俺のお嫁さんだ。2つの天国が争いをやめて相互通行条約を結んだ瞬間だ。歴史的快挙だ。今日という日を祝の日にしよう。世界平和記念日。
「それでは、新たなアルフェルト家の皆さんのこれからの人生に幸あるように、皆さんからも祝福の拍手をお願いいたします!!」
シアの声で、親族席から大きな拍手が響いてきた。ちょっと、ヒイラを返せ!! とか聞こえた気がしたが、その人は血の戦士に一瞬で殴られて気絶していた。そのまま予定通りと言わんばかりにライアさんに運ばれていった。可哀想に。
「それでは、これから食事会に移ります。皆さん、美味しい料理を堪能して、新たに家族や友人になる皆さまと親睦を深めて下さい」
取り敢えず、これで式の大部分が終わった。あとは料理を食べてもらって、式をしめて終わりだな。もうちょっとだ。頑張ろう。
「あっ、ベイ。こっちに」
「うん?」
アリーに呼ばれて、俺はついていく。そのアリーの目指す先には、アリーと若干違う赤色の髪をした男性がいた。
「お兄様」
「お、アリー、おめでとう。そして初めまして、ベイ・アルフェルト君。アリーの兄のリドル・バルトシュルツというものだ。あ、お義兄さんとかかしこまって言う必要はないよ。気軽にリドルと呼んでくれ」
「あ、初めまして。ベイ・アルフェルトいいます。よろしくお願いいたします」
「うん、よろしく。早速だけどね、ベイ君」
「はい」
「ありがとう」
「はい?」
「いや、アリーは僕以上に貰い手がないと思っていたからね。実は心配してたんだ。でもね、まさか僕よりも先にいい人を見つけるなんて思わなかったよ。本当にありがとう。うちの天才を貰ってくれて」
「お兄様、もう神才です」
「お、更に上になったのかい。驚きだなぁ」
「……」
そこ強調するんだ。
「ともあれ、このアリーの選んだ結婚相手だ。妹にふさわしいか、僕が試す必要もないね。君は、間違いなく普通じゃない。それだけは、凡才の僕にも分かるよ」
「そ、そうでしょうか?」
「ああ。アリーに選ばれたんだ。君は、世界ぐらい救える魔法使いかも知れないね」
先日救いました。なんとか、みんなと一緒に。
「ともあれおめでとう。何か困ったことがあったら僕に言ってくれ。妹と、君のためなら僕は喜んで力になろう。ま、僕よりもアリーを頼れば大抵の問題は解決するだろうけどね」
アリーの解決能力めちゃくちゃ高いからな。アリーに頼めば大抵は安心だし、その通りな気がする。
「お兄様ありがとうございます。食事、楽しんでくださいね」
「ああ、どれも美味しくて最高だよ。向こうの学食よりも美味しいし、気兼ねなく食べれるのがいい。2人は挨拶回り頑張ってくれ。僕はゆっくりしとくよ」
軽く会釈をして、俺達はリドルから遠ざかった。
「どう感じた?」
「リドルさんか?落ち着いた人だなと思ったよ」
「凡才とか言ってたけど、お兄様は相変わらずそう言う冗談が好きみたい」
「……やっぱり?」
「お兄様は、実践を重んじる魔法使いではないけれど。その能力は一流よ。だから向こうの学校でも上手くやれている。実力を隠して叩かれないように潜んでいる。私には、出来ない才能ね」
「本当は、どういう人なの?」
「ベイのお父さん。ノービスさんがやっているようなことをしているの。魔法の使用魔力を減らして高い威力の魔法を出す。その研究をしているわ。地味にだけど、お兄様の研究は進歩してきている。それも、個人で国の研究に迫る勢いでね」
「それって、天才って言わない?」
「そう言うわよ。お兄様以外わね。でもお兄様、そっちの研究ばっかり書面でやるから魔力がちょっと少ないの。それが当主としては、微妙な感じってとこよね」
「すぐにでも伸びそうな人だね」
「学校を卒業したら化けるでしょうね。頼りになるかも知れないから、少しは顔を覚えておいて」
「アリーのお兄さんだ。忘れないよ」
「……ありがとう」
その後、俺達は親族席を回ることにした。スペリオ家では、ヒイラがライアさんと何やら話している最中だった。
「いや、私は止めとくよ。ヒイラちゃんと同じって楽しそうだけど、世間的に難しいからね」
と言っていた。そういうライアさんを、ヒイラは悲しそうな目で。アリーは鋭い目で見ていた。アリーさん、何か企んでますな。俺には分かる。
「まぁまぁ、今日は祝おうよ!!ヒイラちゃんに乾杯!!」
「「「「乾杯!!!!」」」」
スペリオ家には、かなり俺は歓迎されているようだ。若干一名を除いて。
「ベイ、覚えてる?」
「うん?」
「ライアさんを、幸せにするってやつ」
「ああ、勿論だよ」
「……ヒイラ」
「うん、何?」
「ちょっと耳を」
何やら2人で内緒話を始めるアリーとヒイラ。その会話後、2人は無言でうなずくと、ヒイラはライアさんにお酒を注ぎ始めた。
「おばさん、今日は飲んでくださいね。お酒もいっぱい用意しましたから!!」
「お、ありがとうヒイラちゃん!!よし、今日は飲むぞ!!!!」
その光景を、アリーはニヤッとした表情で見ていた。俺は、その顔を微妙な表情で眺めていた。




