増えるアルフェルト
直接殴り合うことで友情が深まるというのは分からなくはないが、創世級になってまでやらなくてもいいんじゃないかと思った。迷宮の地形が、皆が手加減して殴り合っているとはいえ大きく変わっていく。これがただの人間視点だとするとかなり恐ろしい光景だろう。目に見えない何かが、大きな範囲で周りを破壊していくのである。下手に動けもしないし、地獄だと思う。殴り合っている間、皆が楽しそうな息遣いをしていたので俺には最後まで止められなかった。おかげで迷宮の地形がだいぶ変わってしまった。後で修復しときますんで、許してください。数時間後、レム達はシルド達とがっちり握手を交わして訓練を止めた。友情は深まったようだ。
「うん。良い力だ」
「どうも」
あの日から数日が経ったが、皆の関係は良好だ。シルド達は力を手に入れはしたが、今はミルクに人間としての常識を学んでいる。知識と力、両方揃って初めて正しく振るえるのだとミルクは言う。その言葉を重く受け止め、シルド達は熱心にミルクの講義を聞いていた。若干、シルドが眠そうな目をするときもあったが、それでも頑張って聞いていたので凄いと思う。眠気に勝つって難しいことなんだよなぁ。そんなこんなで過ごしていると、あっという間に俺達の結婚式の日になっていた。
「……似合ってます?大丈夫かな?」
「うんうん。大丈夫だよ、ベイ君。これは、アリーちゃんもヒイラちゃんも惚れ直しちゃうねぇ~。いやぁ~、2人が羨ましいよ」
そう言ってライアさんは、白いタキシードに身を包んだ俺を見ていた。いつも黒いローブを着てるから白が似合ってるか本当に不安になる。しかし、ここはライアさんを信じるしかないだろう。替えの服はない。終わるまでの我慢だな。
「ベイ、立派になって……」
そのそばで俺を見ていたカエラは、目元に流れる涙をハンカチで拭いている。今日の朝からこんな調子なのだが、カエラは大丈夫だろうか? 涙の出し過ぎで脱水症状にならないか心配だ。
「よし。行くか」
服装もチェックし終わったし、俺はライアさん達と別れて家の前に作られた特性の壇の上に上がる。そこで俺は、アリー達の準備が終わるのを待っていた。その間、ノービスが俺の近くで子供が出来た時は、何ヶ月以内に出生証明を出さなきゃいけないとか、子育てで必要なものは街の中心付近にある店で買えるとか色々と将来に必要そうな情報を教えてくれた。それも涙声で。こっちも脱水症状にならないか心配だな。うちの親を見ていると、緊張している暇がない。ある意味、有り難いな。
「ベイ君。皆準備できたよ」
「あ、はい」
「おっと、じゃあ頑張れよベイ。もうちょっと胸を張れ、その方が格好いいぞ」
そう言って、ノービスは壇上から降りていった。伝えに来てくれたライアさんは、アリー達の元へと戻っていく。俺は襟を正して、やっと遅れてきた緊張を感じながらアリー達を待つことにした。
「それでは、これよりアルフェルト家の結婚式を行います」
そう言っているのはシアだ。何故シアが? と思うのだが、どうやら招待状を出したタイミングでやらせてくれと言われたらしい。この世界には、結婚に宗教的概念がないから別に誰が司会でもいいのだけど、そこでシアなのはどうかと思う。でも、実際にやることになっちゃったし、もうそれは仕方ないか。よくアリーがOKしたもんだ。
「お集まりのご家族の方々、家より続く赤い一本道を御覧ください。これより、花嫁達の入場です!!」
そのシアの声と同時に、辺りに音楽が流れ始めた。これは、ロデがどこからか手配した楽団の方々の演奏だ。この演出いるかな? いる気もするし、いらない気もする。正直俺は、なくてもいいと思っていた。だって、アリーがあまりにも綺麗すぎて音楽を聞いている暇がなかったから。人生で最高の瞬間だな。
「……」
皆の先頭はアリーだ。こっちのウェディングドレスは、歩きにくくないようにスカートはそこまで長くされていない。ベールはあるが、付き添いもいないし、白一辺倒ということもなくて人によっては赤とか青とかのドレスを着ることもあるらしい。だが、今回は全員白色だ。発注の関係だとロデは言うが、詳しくは知らない。それにしてもアリーが綺麗だ。女神だな。俺の女神。この瞬間のためにこの世界に来た気がする。ああ、俺は人生の勝利者だな。
「おまたせ、ベイ」
「ああ、最高に綺麗だよアリー」
歩いてきたアリーを、そのまま俺は抱き寄せた。その横に、フィー達とヒイラ達が並んでいく。ヒイラの顔が真っ赤だが大丈夫か? ニーナも赤いが、それを上回っている。レラとサラサは若干赤い程度か。レノン、サラ、ミルクはガッツポーズを決めている。意外とはしゃいでるなぁ。ロデは冷静そのものだ。いや、若干にやけてるか? ロゼリオに至っては、そのまま天に召されそうな顔をしている。嬉しそうだしいいか。正直俺も、内心ではあれぐらい嬉しいしな。流石に人目があるのであんな表情は出来ないが。他は、ミエルが感極まっているのか涙ぐんでいる。シデンもうっすら泣いてるな。あと、シデンは今日はやや大人バージョンだ。他の皆は緊張した表情だな。良かった。緊張してたの俺だけじゃなかった。フィーだけ終始笑顔だ。癒やされる。
「……何故、私があっちじゃない」
「ロロは、まだ小さいから」
「フィー姉さんだっている。問題ないはず」
「いや、フィー姉さんはあれで大人だから」
「……私だって妻だ。今じゃないだけだ」
「そうだね。アリーさんは、遅れてやってくれるって言ってた。それを待とう」
「……ジャルクは、どうする?」
「私?……他に誰か見つける気もないから、一緒にしようか?」
「うむ。一緒だ」
「はいはい」
「良かったな、ベイ・アルフェルト」
「私達もこっちでいいんでしょうか?遅かれ早かれ、あっち側の気がするのですが」
「クオン、それは分かる。でも、まだ私達は新人。研修も上がってない身で結婚は急ぎ過ぎかと」
「うむ、慌てることはない。今は見て覚えよう。この光景をな」
「けっ、私は覚悟できてんだ。だが、私は待つことの出来る女だからな。今回は、見る側でいてやるさ」
ロロとジャルク。そしてローリィとシルド達が客席で見ている。フィーは、これで成長が一杯一杯だからな。しょうがない。だが、ロロは身長的にも年齢的にもまだ伸びしろがある。ということで今回はまだ客席だ。ジャルクもロロに付き添ってあっちだ。ローリィは、結婚という概念がよく分からないらしい。そんな中で結婚しても微妙な気がすると言うので今回はやめておくそうだ。シルド達は、あったばかりだからな。結婚する準備とかに数えていなかった。だからなしだ。というか、シリル達が分裂して並んでいるから数がただでさえ多いんだよ。しかも魔法かけて容姿を無理やり変えてるからな。しかも、シリル達の髪の魔力が変化させてる魔法を徐々に分解してシリル達の意思と関係なしに食い破り始めている。それを、ミズキが頑張ってかけ直している状況だ。実は意外と別の意味で緊張感のある状況なんだよな。花嫁に魔物がいると知っているのは少数だし。それを多くの親族に知らせるわけにはいかない。だから、これ以上面倒を増やさないようにまだ常識を覚えたてのシルド達が急がず保留になったとも言える。
「さて、花嫁たちが出揃いました。それでは、永久の愛を誓って、新郎との誓いのキスをお願いします!!」
「ベイ」
「アリー」
「あなたを、永久に愛すわ」
「君を永久に愛す。そして、幸せにするよ」
「大丈夫。あなたといられれば、それだけで幸せだから」
俺は、アリーと見つめ合う。そして、ゆっくりと唇を重ねた。




