永久のクオン
「じゃあ、今日から君の名前は、クオンだ。よろしく頼む」
「はい。よろしくお願いいたします」
「早速だけど、家に戻って君の訓練をする先輩を紹介したい。良いかな?」
「はい。持っていく物もございません。大丈夫です」
「じゃあ、転移するぞ」
俺は、クオンを連れて家へと戻った。ちょっと考えた結果、庭に出るのは止めておいた。太陽光でめちゃめちゃ光るだろうから目に悪そうだし、少し目立ちそう。だから、家の中にした。良かった。家の天井がギリギリ足りて。トサカみたいなとこちょっとくっついてるけどぶつかってないし大丈夫だよな。
「……でっかい鳥ね。それに輝いてる」
「アリー、連れてきたぞ」
「お初にお目にかかります。奥方様ですね。クオンという名前を頂きました。よろしくお願いいたします」
「ええ、宜しく。それで、本当に寿命を延ばす効果はあるのかしら?」
読んでいた本を閉じてアリーは、クオンに近づく。そのアリーに、くちばしで自身の羽をクオンは引き抜いて渡した。
「一枚で健康に。更にもう一枚飲めば寿命が一日伸びる羽です。肉の方が効果は高いようですが、成分は変わらないので羽を多く用いたのと変わりません。ですので、お肉は勘弁していただきたく」
「……これが本当に。ありがとう。ありがたく頂くわ。後で、もう何枚か頂いてもいいかしら?」
「ええ。羽もすぐに生えてきますので、お気になさらず。何度でも入り用でしたらおっしゃって下さい」
「ありがとう。良い研究対象、いえ、これだけで最早大金を生み出す商品ね。それを惜しげもなく使って研究できる。ははは、最高の贅沢だわ!!!!」
「良かったね、アリー」
「ありがとうベイ!!これさえあれば、いくら子供が増えてもお金には困らないわね!!」
「……確かに」
飲めば寿命が伸びるなんてお金持ってる人だったら何枚でも高くても買うよなぁ。それが子どもたちの養育費になる。しかも、羽は何枚でも取れる。 ……もしかして、クオン一人いれば金銭面の問題ですら気にしなくて良くなるのか? 全属性になっていないのに、既にすごい役に立つ予感がするな、クオン。
「それで、私の師匠になられる先輩という方は……」
「ああ、今呼ぶよ。召喚っと」
俺は、手をかざしてフィーを呼んだ。
「……お~~~~!!」
「初めまして、クオンと申します。未熟な後輩ですが、よろしくお願いいたします」
「あ、私はフィー。皆のお姉さんです。宜しくね、クオンちゃん」
「はい、よろしくお願いいたします」
お互いに頭を下げて挨拶をし合うフィーとクオン。クオンが巨大すぎてフィーが対比でより小さく見えるな。いや、少女ぐらいの背しか無いんだから実際小さくて可愛いんだけど。
「マスター、早速ですけど訓練して来ます!!」
「ああ、立派な全属性になれるようにクオンを鍛えてあげてくれ。でも、あまり無理をさせちゃだめだぞ」
「は~~い!!」
そう言うと、フィーはクオンごと転移して一瞬の内に消えた。やれやれ、これで一応ノルマの四人は揃ったな。あとは、2人と契約するだけだが、果たして上手く転ぶんだろうか。まぁ、フィー達を信じよう。ときおり顔を出しながら。そう考え、俺は時が過ぎるのを待つことにした。
それから数週間後。なんだかんだあってナギとライカも契約はしてくれた。良かった。それで彼女たちはどうなっているかと言うと。
「ふむ」
シルドは、水壁を出すという段階を超えていた。いくら水壁を出してもミズキの分身が水壁内の隙間に入ってきて攻撃してくるので、シルドは常に水壁で作った鎧を身に纏っている状態になっていた。その光景は、大きな亀の甲羅の手裏剣が水をジェット噴射して空中を飛び回っていて昔見た特撮映画の亀を見ている気分になる。この星を守る守護神になりそうだな、シルド。もうちょっと巨大だったら。
「いい動きだ」
「こん、そうですね」
ライカは、ローリィとシデンの攻撃を全て躱しまくっている。反撃する事はできないとはいえ、手加減されていてもあの2人の弾幕をかいくぐれているのは凄い。あの巨体で、よくあの攻撃が避けられるな。感心する。
「ほら、もっと早くですよ!!」
「!!」
ナギは、カザネについて走っているというか、飛んでいるのだが遅い。まぁ、中級だしな。あんなものだろう。というか、まだ進化しないのか? あれか、召喚しっぱなしだからだろうか。それとも、かなり強くなるのかな?
「じゃあ、避けながら反撃してみよう。私には当たらないから、遠慮せずに思う存分体を動かしてみてね」
「は、はい!!」
「じゃあ、行くよ」
「……」
最後にクオンだが、一番スパルタな修行をしていた。フィーは、鎧を纏ってクオン痛めつけている。いや、訓練なんだからある程度はって感じだけど、一方的すぎるからそうも見える。しかも、クオンは自身の体がすぐに超再生してしまうらしく疲れを知らない。フィーも、今となってはスタミナの底があるのかというほどの幼女なので修行が丸一日近く続く。あれがスパルタでなくて何だというのだ。普通の人間なら死んでいる。まぁ、普通では今のフィーと並び立つ全属性には成れすらしないと言うことだろう。そんな気がしてきた。どの魔物でも良いわけじゃなかった。
「だいぶ新人たちも強くなってきたんじゃないか?」
「そう見えるか、ローリィ。うん、お前、その胸のペンダント……」
「ああ、これは墓だよ。これがベイル、ミゴール、フォート、スビア、ザルシュ、デイク、アビマ、バズラだ。彼らを意識したペンダントだよ。良く出来てるだろ」
「……すまない」
「いや、君が謝ることはない。彼らの悲願を達成したのは君だ。彼らも、悔しがってはいるだろうが、君たちを憎んではいないさ。なんせ、今や君たちも私の大事な仲間なのだから」
「そうか」
「本当はね、もっと早く君に会えていれば全員が生きていたかも知れないと思うこともある。時を巻き戻せば、皆を救えるかもと思うこともある。だが、それはまた歴史を変えることになる。いや、変わるだろう。それも大きくね。それこそ、君が生まれない可能性すら出てくる。ここまでたどり着かない可能性もね」
「……」
「でも、彼らはここまで君を導くことができたんだ。敵という形であったかも知れないけどね。だから、私は彼らを忘れずに感謝を捧げるよ。この未来を作る手助けをしてくれた彼らのために。歴史に名前も残らない彼らのためにね」
「俺も、そういう意味では感謝してもいいかな」
「……ありがとう、ベイ・アルフェルト」
平和を手にして、犠牲になった者たちに祈る時間も出来た。外には穏やかな風が吹いている。だが、今日の風は少しだけ物悲しく感じた。




