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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
最終章・最終部 召喚魔法で異世界踏破
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雷光の閃馬

 馬の上で雲を観察する。おそらくだが、あれには通常の物理攻撃は通じない。しかし、レムの技術を使うことの出来る今の俺ならば切ることが可能なはずだ。馬が、走りながら時折頭の一本の角から雷撃を射出して雲を攻撃している。この馬も、ボスを倒すことが目的なんだろうか? 変わった魔物だな。


「さてと」


 目に魔力を込めて雲を睨む。すると、奴の体の構造が細かな魔力として見えた。奴の身体を繋いでいる魔力の構造が読み取れる。その細胞レベルの小さな結合部分を断ち切ってやれば、奴の身体は崩れるだろう。しかし、それは通常の斬撃ではいけない。的確に、奴を構成している肉体が繋がり直さないように切らなくてはいけない。それに必要なのは、斬撃の鋭さだ。切ったとも思わせないほどの鮮やかな一太刀。そんな衝撃を飛ばすこと。それによって、魔力の繋がりは、結合し直す前に純粋な魔力へと変化して消える。結合し直さない。つまり、切って殺すことが可能になる。


「フッ!!」


 強化魔法なしでも、今の俺ならそんな斬撃を振うことが可能だ。俺は、漂う雲目掛けてアルティを一閃した。その瞬間、空にあった黒雲に一筋の線が入って、背後の太陽が姿を現す。


「ブルッ!?」

「まだまだああああ!!!!」


 続けてサリスを振るう。そして、またアルティを振るった。剣を一閃するたびに、黒い雲はその存在を縮めていき、最後には無数の斬撃の壁によって空からかき消える。黒い雲は、斬撃によって全てが純粋な魔力へと帰った。


「これでも、まだレムより剣の振るいが甘い気がするな。練習するか」

「……これでもですか」

「ああ。レムのに比べると、まだ斬撃がブレている気がする」


 レム師匠の技術力はとても高い。弟子として、追いつくように研鑽を積まねば。もっとも、能力を使えばいつでも同程度の剣術を振るえるわけだけども。能力無しでも行けるとこまで行きたいよな。


「さて、この馬はどうするかな」

「ブルッ」


 空には太陽が出ている。その光を、馬は呆然と眺めていた。その姿を見て、俺は馬から降りる。ただジッと空を見上げる馬を残し、俺はアルティ達をしまって洞窟の入口へと移動することにした。


「放っておくのですか?」

「多分、空を見上げて感動しているんだろう。暫くは、話しかけないほうが良いと俺は思う」


 感動に浸っている相手の邪魔をするのは気がひけるからな。そう思い、俺は洞窟の外に出て軽く伸びをした。黒い雲がなくなったことで、迷宮全体が光を受けて輝いている。迷宮全体に居たあの黒い雲。その全てがこの迷宮のボスの体の一部だったんだろう。つまり、俺達は最初からこの迷宮のボスと戦っていたということになる。なるほど。厄介な迷宮だ。


「ブルッ」

「おっ、もう良いのか?」


 馬が、洞窟から出てきた。馬は俺を一度見ると、即座に日光を受けている大地へと目を向ける。そして、ゆっくりとどこかへと歩き去ろうとした。


「なぁ」

「……」

「俺と一緒に来ないか?」

「?」


 俺は、馬に対してそういった。念話も使ってないので、意味が伝わってないかも知れない。でも、興味は引けたようで、馬はこちらに歩いて戻ってきた。


「よしよし」

「ブルッ」


 馬の頭を撫でる。逃げようとする様子はない。そのまま俺は、馬の横側に回り込むと、跳躍してまた馬の背中にまたがった。体重を完全に預けた状態で座ると、ややゴツゴツしている背骨が尻に当たって痛い。鞍とか無いと筋力がない人が乗るのはきついかもしれないな。太もも部分で背中を挟んでやや浮くようにすれば乗っていられる。


「さて、それじゃあ行こうか」

「ブルッ?」


 よく分からなそうな表情の馬を無視して、俺は馬ごと家に転移した。勿論、庭にだ。


「……」

「すっかり暗くなってきたな」


 我が家の周辺は、日が落ち込みかけてきていた。馬は周囲を見渡すと、大地に腰を下ろす。俺は馬から降りると、畑から人参を一本取ってきて、馬の前に出した。


「食べるか?」

「……」


 馬は、鼻を鳴らして人参の匂いをかぐ。そして、口に咥えると食べることなく自身の傍らに置いて目を閉じた。さながら、人参を添い寝用の抱きまくらにでもしているかのようだ。鼻先に置いたことから、匂いが気に入ったのだろう。そんな気がする。



「えっと、土魔法で小屋を作っておくからな。ゆっくり休んでくれ」

「ブルッ」


 馬は、一鳴きするとそのまま眠ってしまった。しかし、庭先にいるにしては威圧感の有りすぎる生物だ。毛並みがサラサラで綺麗だよな。後で、シデンに紹介しよう。そう思い、俺は家へと入っていった。


「ただいま~」

「おかえり、ベイ」

「ご主人様、戦果はどうですか?」

「ああ。取り敢えず、全属性以外は候補を見つけきった。シデン、庭に後輩候補を連れてきたぞ」

「むっ!!分かりましたご主人様!!ちょっと、顔を出してきます!!」


 そう言うと、シデンは庭へと走っていった。


「やる気あるなぁ~」

「ご主人様の為に、いい後輩を育成しようとシデンなりに気合が入っているのでしょう。で、どんな子なんですか、シデンの後輩候補は?」

「馬だな」

「馬ですか」

「馬だ」

「見てきました!!とても大きな後輩です!!」

「俺よりも身長高いからな」

「大型新人ですね」

「一応言っておきますけど、雌ですよ」


 あ~~、アルティが文句を言わなかったから、そんな気はしてた。やっぱりそうなんだなぁ。


「主人」

「おう、どうしたカザネ?」

「一応、教育は順調です。あの龍ですが、デザインセンスが怪人系の造形が好きなだけのようでした。それで怪人に変身して戦う人間の話をしたら、かなり食いつきまして。言葉が完全に通じているかは分かりませんが、正義への興味は引けているようです」

「なるほどなぁ。もうちょっと観察してみてくれ。それで、良さそうならその子を仲間にしてみよう」

「はい」

「そういえば、シルドはどうした?」

「既に寝ていますよ」

「ミズキ、あれは気を失っていると言うのでは?」

「寝ているんだミルク。それは気のせいだ」

「そうですか」

「……シルド」


 一番スパルタな師匠に付けてしまった。ごめんな、シルド。新人の中で、一番に仲間になってくれたのに。


「……」

「ご主人様、明日はどうされるんですか?」

「それだよ、ミルク。それだ」

「それと言うと?」

「もう、全迷宮を回ってしまった」

「おお、それは早いですね!!」

「そうなんだ。回りきってしまった……」

「つまり、全属性で仲間にできそうな魔物は、迷宮には居なかったわけですね」

「そうなんだ」

「どうするんですか?」

「どうしよう?」


 俺は、頭を悩ませながら取り敢えず晩御飯を食べるために移動することにした。


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