幻想へと至った後で
「平和だなぁ……」
外から差し込む日差しの陽気さに俺は、一人そう呟く。年明けで気温は寒いが、天気は最高だ。最早、創世級迷宮はなく。創造魔法によってこの先起こるであろう、星に住む生物の自然消滅も防いだ。もう、この星は平和そのものといっていい。だと言うのに、俺達は今一つの部屋に集められて重要な話があるとアリー(大人じゃない方)に聞かされて座っている。これ以上、まだこの星には、何かあるのだろうか?
「今日は、大変重要な話があって、皆を集めたわけ」
「今の実力の私達全員で考えるほどの大問題なわけですか、アリーさん」
「ええ、そうよミルク。大大大問題。むしろ今だからこそ考えるべき問題というやつかしら」
今だから、考える問題? いったい、何があるというんだ?
「その、問題とは?」
「その問題はね、未来ゆえに起こるのよ」
「未来?」
「ええ。はっきり言うけど、この場にいる殆どが妊娠するってわけ」
「なるほど。そうですね」
「ん?」
何だろう。なんだか、話の内容がおかしくなる気がするぞ。ま、まだ様子を見ていようかな。最初だけかもしれないし。
「私は、しないですけどね」
「あら、アルティはしないの?」
「私は、剣ですので。常にマスターの剣であるには、妊娠している暇はありません」
「そう、それよ」
「それ、とは?」
「妊娠する。つまり、子供がお腹にいるわけじゃない。そんな状態で、まともに戦えるかってことよ」
「いや、だめでしょ。出来るけど、しちゃだめでしょ」
「それよ。つまり、全員が妊娠する。結果、ベイに召喚されてもまともに戦えないわけじゃない。それって、大きな戦力低下だわ」
「まぁ、そうですね。一体化だけなら、問題ない気もしますが」
「それって、本当?一体化したことで、お腹の子に、変な負担がかかったりしない?」
「……無いとは、言えないかもしれませんね」
「え、マジですか?」
「あまりにも強大な幻想級の鎧の魔力を、数分とはいえ浴びるわけですから。もしかしたら、何かしらの負担になる可能性も」
「はい駄目~!!つまり、妊娠したら一体化も禁止。戦うのも極力禁止になるわけよ」
「なるほど」
「それって、危ないじゃない」
「……うん?」
「ベイが、危ないじゃない」
「えっ。そ、そうですかね?」
ミルクが、首をかしげる。俺もそう思う。今の俺が、危なくなる状況が考えられない。
「創世級って、もともと宇宙の果から召喚された生物なわけ」
「そうですね」
「それが、まだ居ないとも言えないわけじゃない。幻想級だってそう。確かに、強大な力を持っていて他にも居るとは考えたくないけど。居ないとは、今の段階では言えないわけ」
「なるほど。そうですね」
「だから、危険なのよ。もしって言い方になるけど。もう一度別の幻想級と戦う羽目に人生の中でなるとしたら。そして、その時に皆が何回目かの妊娠をしていたとしたら」
「それは、お腹の子に耐えてもらうしか」
「いえ、駄目よ。それは駄目。そういうのをなくすために今の話をしているの。だから駄目」
「では、どうしろと」
「……そうね」
そう言って、アリーは魔物図鑑を取り出す。それを、皆に見えるように掲げた。
「答えは簡単。皆が妊娠している間も、戦える子を増やす。簡単な理屈でしょ」
「戦力増強ですか」
「そ。全てが落ち着いた今だからこそ、後輩の育成もじっくり行える。今こそ、新しい仲間を増やす時よ」
「なるほど」
確かに。今回は勝てたが、次、別のやつが来たときに、今の力が使えないのはマズイな。一理ある話だ。
「で、何人増やしますか?」
「そこね。今、火は、カヤとシリルで2人いる。土もミルクとレーチェ。闇は、レムとローリィ。聖にいたっては、ミエル、シスラ、サエラ、シゼル、ロロ、ジャルクと多いわね。というわけで、属性候補としては、水、風、雷、そして全属性の魔物がいいと思うわけ」
「つまり」
「四人ね。四人、新しく勧誘しましょう」
「四人かぁ」
「それで、どの魔物を仲間にするかなんだけど」
そう言うと、アリーはテーブルを滑らせて魔物図鑑を俺の目の前に移動させた。
「ベイが決めて。ベイが契約するんだもの。そのほうがいいわよね」
「まぁ、ご主人様が選ぶのであれば、安心ですね」
「でしょ」
「……俺が、四人選ぶのか」
取り敢えず、俺は魔物図鑑をめくる。う~ん、せっかくだし強そうな魔物がいいなぁ。皆が戦えない時を任せるわけだし、皆以上の可能性を秘めてそうな子がいい。贅沢な話だろうか。とはいっても、この話だとそれぐらいの子が目標としては良さそうだよなぁ。仲間にできるかは、別として。
「う~ん」
「ベイよ。今すぐ決めなくても良いのではないか?赤子が出来るとしても、まだ先の話じゃろう。時間はある」
「無いわよ」
「えっ?」
「無いわよ」
「アリー、それはどういう……」
「結婚式するから」
「「「「えっ?」」」」
いや、俺以外の皆もえっとか言ってるじゃん。皆も知らなかったの?
「結婚式するから。もう、私達を止める障害はない。ならば、ここで白黒はっきりご近所に示すのがいいってわけよ」
「……アリーちゃん、急だね」
「急というか、勝つまでは考えないようにしてたと言うか。ともかく、結婚することに意味があるの。分かる?」
「そんな急に、なんで?」
「いい。世間的には、私達はまだただの集まりなわけ。お付き合い中的な扱いなわけよ。それって、不都合なのよね。アリーさんは、実際にはまだ結婚してないからバルトシュルツの家の人であって、家の方から国に務めるように言ってもらえませんか的な圧力がないとも言えないわけ」
「はは~、なるほど。そこで、いえいえ私には夫との生活がありますからと言うわけだね」
「そういうこと。実家の話だろうが、今は私達はアルフェルト家の人間なわけだから、あまり関係ないですよと言いたいわけ。そう言うこと。だから、結婚式をします。書類も出す」
「アリーさん!!私達は!!私達は!!!!」
「もちろん、ミルクたちにもしてもらいます。書類は、こっちで作っとくわ。ま、サイフェルム以外の地域の人との結婚を報告する書類とかあるから、多分大丈夫でしょう。それに、結婚式をすることで書類とか関係ないくらいに周囲に分かるし。それのみで実質完璧。親戚にも周知できるから、言うことないわね」
「というか、俺達の年齢でしていいのか?」
「ベイ。出来るわよ。どちらかと言うと、婚約という意味で取られるかもしれないけど、実際あまり違いはないわ。書類もそんな感じね。もう夫婦になるのは決定みたいな感じかしら」
「ああ、出来るんだ。そういうの」
「そ。だから、今のうちにしておくわ。そしてもちろん、分かってるわよね、皆」
「……いつ、やるんですか」
「まぁ、一ヶ月後かしら。準備もあるし。期間はそのぐらいね」
「その間に、四人仲間を増やすのか」
「そう言うこと。頼んだわよ、ベイ」
「……う~ん」
俺は、魔物図鑑を見ながら目を細めた。




