進化の力
「……」
どうなってるんだ? 鎧は解除されて、皆は俺の内に戻っている。そして、アルティは俺の腰のベルトにしまわれていた。容姿は、変化してないよな。変わってる気がしないし。ただ、身体を動かした時の感触が違う。軽いな。
『人が、幻想へと至るだと。そんな事が、あるはずがない!!!!』
ああ、そうだった。確認よりもまず、することがあったんだ。
『消えろ、魔物を従える人間!!!!』
こいつを、いや、アリーを守らなきゃな。
「レム、ミルク」
再び幻想級の放った魔法の雨が、俺目掛けて降り注ぐ。俺は、レムとミルクを自身の目の前に召喚した。
「ご、ご主人様。一体化しないので?」
「主?」
「レム、ミルク。進化しろ」
「「えっ?」」
その瞬間、2人をまばゆい光が包み込んだ。
「こ、これは!?」
「力が、湧き上がって!!」
2人は、光の中で鎧を纏う。その鎧が更に変化し、新たな姿へと変わった。レムの鎧は、剣神と言われても納得できるほど威圧的で特徴的な剣と盾を持った鎧になった。ミルクは、鎧の装甲が剥がれていき、中から女性らしい姿をした鎧が出てきた。ただし、腕についている巨大なガントレットは更にでかくなっている。そして、ミルクのあまりにも大きな胸が、その鎧では再現されていた。
「少し、2人に任せていいかな?」
「「……はい!!」」
レムとミルクは、降り注ぐ魔法の雨を見て腕を構える。すると、俺達目掛けて降り注いできていた魔法の雨が、その進路を変えて俺達から離れ始めた。
「おお~~!!あれだけ魔法操作を奪っても、まだ余裕がりますよ!!」
「私も、始めるとするか!!」
レムの斬撃が、見えない動きで降り注ぐ魔法を薙ぎ払っていく。その斬撃は、一度でありながらその一振りで幻想級にまでその斬撃を届かせた。
「……」
しかし、幻想級へダメージが通った様子は無い。創世級へと至ったレムでも傷すらつけられないのか。まぁ、距離もあるしな。しかし、それだけ距離が空いているのにもかかわらず、あいつは大きく見えている。余程でかいのだろう。想像がつかない。
『……あり得ない。しかし、無駄だ』
そう幻想級が言うと、降り注ぐ魔法の雨が増えた。それはまるで津波。避ける隙間すら無い、宇宙を埋め尽くす魔法の災害。しかしそれを、レムとミルクは二人だけで切り消し、操作権を奪って完璧に防ぎきっていた。
「フィー」
「はい、マスター!!」
フィーが、俺の肩に手を置いた状態で出現する。そのまま、フィーの体が光って先程まで俺達が一体化していた強化された鎧を纏った姿へと変わった。
「手伝ってくれ。まだ覚えたての魔法だからか、少し制御が難しくてな」
「はい!!」
フィーの鎧から、俺の身体に魔力が流れ込んでくる。フィーは、進化したことで俺と完全に一体化していなくても同調できるようになったみたいだ。魔法の制御も、フィーが手伝ってくれるのでだいぶやりやすくなった気がする。よし、これなら。
「ミズキ、カヤ、ミエル、シスラ、サエラ、シゼル、シデン、カザネ」
「はい、殿!!」
「主様!!」
「カザネさんは、大丈夫ですか?」
「まだ、意識がないみたいっすけど」
「シゼルさん」
「精一杯回復したのですが」
「問題ないのではないですか?ですよね、ご主人様!!」
「ああ」
俺がそう言うと、全員がまばゆい光に包まれた。
「これが、殿の新たな力!?」
「おお~~、すごい!!」
「力が」
「みなぎるっす!!」
「これなら」
「カザネさんは、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ」
「……ここは、そして、この光は?」
「カザネ、起きたか」
俺は、目を開けたカザネを抱き寄せる。そして、頭を撫でた。
「あ、主人……」
「よくやってくれた。創世級を、倒したんだよな」
「は、はい!!」
「ありがとう。カザネのおかげで、一番厄介な敵が倒せたみたいだ。でも、まだ居るんだよ。俺達の敵が」
「……あいつですね」
「ああ。やれそうか、カザネ?」
「はい、もちろんです!!」
そうカザネが言うと、カザネの目の前に緑色のクリスタルが姿を表した。それは、金の装飾で周りを覆われていて、光り輝いている。ゆっくりとカザネの腕の中に収まると、それは中央から真っ二つに割れて展開を始めた。中には、小さな緑の宝玉が入っている。
「こ、これは!?」
「俺の魔法で、カザネが得た新しい力だ」
「あ、新しい力!!つまり、創世。最終フォームと言うやつですね!!!!」
「ああ、ぶっ飛ばしてこい!!」
「はい!!」
カザネは俺から離れると、小さな宝玉をスイッチを押すように押し込んだ。
「瞬創、変身!!!!」
宝玉から、緑の光がほとばしる。その中から、黒と緑の色をした鎧が現れた。胴体部分は、緑がメインになっていて、その中に黒のラインが走っている。他の部分は、黒がメインカラーになっていて蛍光色の緑の線が走っていた。そう、これこそが新たなカザネの鎧。時を遡る先を行く者。
「聞かせてやろう、私達の風の音を」
俺達の最速の戦士が、今復活した。新たな力を携えて。
「私達も、行くとしよう」
「おう!!」
「了解です!!」
「こん!!」
全員が、その場で新たな鎧を身に纏った。ミズキの鎧は、装甲として成立している部分と、液体として成立している部分がある。物理攻撃が通用しそうにない見た目だ。カヤの鎧は、上半身が更に大きくなっていて強そうに見える。燃えている髪の量も増えているみたいだ。ミエル達の鎧は、グレートミエルモードよりも更にでかくなっている。進化した四人の鎧が、更に合体してるんだからそうもなるか。シデンの鎧は、色気が増した気がする。でも、何処か威圧感があるな。強そうだ。
「皆、頼んだぞ」
「「「「はい!!」」」」
皆が、新たに獲得した力で魔法の雨を薙ぎ払う。カザネは、圧倒的な速度で。ミズキは、消える水で。ミエル達は、空間すら切り裂くハルバードで。シデンは、鎖で魔法を薙ぎ払っていった。
『無駄だと言っている』
「……」
恐ろしいな、幻想級は。これ程の力を持った皆でさえ、通常の魔法を使えないのだ。まだ、幻想級によって通常の属性魔法は封じられた状態にある。この人数で、これ程の力を持った皆が居てもだ。それで、やっと余裕を持って奴の攻撃を防ぐことができる。
『まだ増やせるぞ。押し潰れろ!!!!』
「おっと、そうは行かないよってね!!」
その瞬間、俺達の目の前の魔法の津波が消えた。
「何?」
「夢想の彼方に消し飛ばさせてもらったよ。ここにあれなきゃ意味ないよね。あんたの魔法もさ」
そう言って、カヤは笑う。えっ、強い。カヤ強すぎじゃない?
『……そうか。では、これに頼るしか無いな』
幻想級の目の前に、いくつものキューブが出現した。それはまるで、小さく圧縮された牢屋のような形をしていた。




