遭遇
長い旅だった……。いやぁ、まさか帰ってくるギリギリまで、マリーさんに召喚魔法見せて。と言われ続けるとは、思わなかった。やはり、アリーの言うとおり、魔物にかなりの興味があるらしい……。でも、見せる訳にはいかない。最悪の状況が、発生してしまうからだ……。
「ふぅ、今回はお互いにとって、いい旅になりましたね。ノービスさん、カエラさん」
「ええ、そうですね。マリーさんには、馬車台も半分負担して頂いて。ありがとうございます」
「いえいえ、これぐらいなんてこと無いです。それよりも、今後共、娘をよろしくお願いいたします」
「ええ、それはもちろん!!こちらこそ、息子をよろしくお願いします」
「はい、アリーもいい彼を見つけられて、幸せものですね。二人のためにも、両家がいい方向に向かうように、共に頑張りましょう」
親同士の挨拶が済んだようで、マリーさんがこっちに向かってくる。
「それじゃあベイ君、また会える日を楽しみにしてるわね」
「はい、お義母さん」
「!!うーん、やっぱりいいわね。あの人達が反対しないなら、今からでも家で同棲させてあげるんだけど……。まぁ、いずれいつでも呼んでもらえるようになるわよね。それまで、元気でね!!」
マリーさんは、ぎゅっと1回俺を抱きしめると、離れていった。そのまま続けて、アリーに抱きしめられ、軽くキスをされる。
「じゃあ、ベイ。私も家に戻るわ。またね!!」
「うん、待ってるよ。アリー」
お互いに、数秒間抱きしめあって、離れる。アリーとマリーさんは、そのまま歩いて帰っていった。
「……うーん、しかし、ベイがあんな強いとわな」
「びっくりだったわね……」
「……」
まだカエラとノービスからは、驚きが抜けていないようだ。でも、俺が魔法の練習をしているとは言ってあるし、そこまで深く追求はしてこないだろう。うちの親のいいところだ。さて、まだ夜まで時間がある。色々と準備もしたし、聖属性聖魔級迷宮・入り口付近まで、転移距離を伸ばそうかな。皆の魔石も強化したし、ストックの魔石もできた。途中から、フィーも手伝ってくれて、早く作業が進んだおかげだ。まだ、他属性の魔力に不慣れなところがあるみたいだが、フィーならすぐにものにするだろう。これで、今のうちに行けるようにしておけば、明日の朝から迷宮攻略に行ける。そうと決まったら、まずはこの長旅の荷物を置いてこよう。俺は、両親と久しぶりの我が家に入っていった。
*
「はぁ~、なんで私は、魔法が撃てないんでしょうか……」
そう言いながらミエルは、何度目かの魔法を撃つ訓練をする。腕を突き出して、魔力を集中させる。腕の先から、光の弾丸が出るはず、が、出なかった。生まれてからずっとこんな感じな彼女だが、諦めることも無く、今の今まで頑張ってきた。お陰で、魔力を操るまではうまく出来るようになった。だが、どうしても魔法の発動までいかない。だが、依然として、彼女は練習を欠かさなかった。
「おっと、いましたね~。探したっすよ。また迷宮の外に出て練習なんて。危ないじゃないっすか」
「ひゃいいいい!!サエラ、シスラ……。ビックリしたぁ……」
「全く。そんなにビビるなら、迷宮内で練習すればいいじゃないっすか。別に、今更ミエル様が練習してても、誰も変な目で見ませんって……」
「で、でも……」
「シスラ、それは無理な話よ。上級の私達ですら魔法を使えるのに、聖魔級生まれのミエル様が魔法を使えないんだもの。いつまでも、変な目で見られるわ。残念だけど……」
その言葉に、ミエルはその場に足を抱えて、うずくまってしまった。
「うううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ、ひっぐ……。なんで私が、こんな目に……」
「はいはい、元気だして頑張りましょうね、ミエル様~。なでなで~。ほら、サエラ、貴方がキツイこと言うから、ミエル様が悲しんでるじゃないっすか!!」
「ええ~、私のせい!!!ご、ごめんなさいね、ミエル様。ほ~ら、なでなで~」
「うううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
数分間の二人の撫でによって、ミエルはようやく、魔法の練習を再開した。
「と言うか、あれっすねぇ……。ミエル様も頑張って練習してますし、うちらも何かした方が、いいかも知れないっすね」
「うーん、そう言われると。別に階位は下じゃないから、急いでする必要はないと思うけど……」
「と言うか、世知辛いっすよねー。階位が下の者から、魔力を完全に吸い取るなんて……。まぁ、先の聖戦に絶対必要という話っすけど、本当なんっすかねぇ?」
「昔に、上の方たちが遠征部隊を出して調べたらしいから、間違いないと思うわ。創世級なんて、私達では、強さも想像すらつかないわね……」
「私達もお陰で、毎日魔力をあの変な石に貯めないといけないし。階位の低いものは、全魔力を捧げることになるし……。はぁ……、辛い世の中っす……」
「オルヴィアの石……。あれさえ無ければ……」
オルヴィアの石。それは、120年ほど前に、多くの聖属性魔物の魔力を結集して作られた、巨大な魔石である。その中には、今に至るまでの、聖属性魔物たちの魔力が蓄えられていて。解き放つことで、絶大な威力を発揮する。創世級に対抗するための、魔力兵器である。
「でも、アレ作るために、オルヴィア様が死んでしまったのが、一番の原因じゃないっすかね?後の連中が、こんなこと考えなければ……」
「創世級の力を知ってしまった方が、多かったみたいだから……。怯えているんでしょう。毎日、皆の魔力を集めるだけじゃあ、足りないと思っているのよ」
「うーん、厄介なことに、そういう連中だけ今の今まで生きてるんすよねぇ……。犠牲を出しても、生き残ろうなんて。そこまでしないと、勝てない化け物に向かうぐらいなら。私は、今をゆっくり生かさせて欲しいっすね~」
そう言うと、シスラは空を眺めた。2人の会話には参加せず、ミエルはひとり黙々と練習をする。
「あの、ちょっと良いかな?」
「え?」
「ひゃいいいい!!!!」
「……えっと、どちら様ですか?」
「ああ、そんなに気にしないで、ただの通りすがりだから……。ちょっと気になったもんで」
ベイは、腕をひらひらと振って、敵意がない事をあらわしながら、ミエルに近づいて行った。
「もしかしてだけど、魔法が使えない?」
「え、は、はい」
「うーん、ちょっとやって、見せてくれるかな」
「わ、分かりました……。えいっ!!」
そう言うとミエルは、先程のように魔法を発動させてみせる。やはり、光の弾丸は発射されない。
「ああ~、なにかおかしい……」
「え。そ、その、おかしいとわ……?」
「魔力を、変換するまではいいんだ。だけど、属性に変化させた時点で、魔力がいきなり消える」
そう言うと、ベイはミエルの腕を、自分の腕で触った。ミエルの顔が、わずかに赤くなる。
「あうう……」
「あの~、もしかして、原因が分かるっすか?」
「多分、だけどね。どうする、治そうか?」
「……えええええええええええええええ!!!!ほ、本当ですか!!!!」
ミエルは、大声で叫んだ。何年も無理だと思っていたものが、治ると言われて。ミエルのテンションは、一気に最高潮に達した。
「ま、待ってください!!二人共。そんな見ず知らずの人を、いきなり信じるのわ!!」
「サエラ……。私には、この人が嘘を言っているようには感じません。それに治るなら、私は、これ程嬉しいことはありません!!私の前に、この人が現れてくれた……。これもきっと、何かの縁!!私は、この人を信じようと思います!!」
ミエルは、ベイの顔を見て、力強く頷いた。治療をして欲しいと。サエラもシスラも、やれやれといった感じで、2人を見守ることにした。