超神才魔法使いアリーさん・コズミックモード
迷宮の外には、異様な空間が広がり始めている。そこは、不毛の大地であったはずの土地であった。しかし、最後の迷宮空間が崩壊を始めた瞬間、周囲の景色が一変する。そこには、有り得ない程の大自然が広がり始めていた。
「何これ」
「まるで、自然の迷宮だね」
瞬きする間に、その周囲の景色は変わっていく。川が流れ、樹木は生い茂り、空は雨雲や、雷を振りまいて歓喜の雄叫びを上げているかのように思えた。やがて、その樹木の中から何かがゆっくりと歩いてくる。それに対して、迷わずガンドロスが剣を振るったが、その魔物の身体を剣が切り裂くことはなかった。
「なに!?」
「創世級。いや、神魔級の上位ってところかしらね」
アリーが、険しい顔でそう言う。その巨人は、岩で出来ていた。岩で出来た飾り気のないお面をかぶり、その巨人は只々こちらへと前進してくる。だが、その巨体はそこにいるだけで十分な脅威と成り得た。普通の生物であれば、あれに踏まれれば風船のように破裂してしまう。そのような大きさの巨人が、示し合わせたかのように何体も迷宮の奥から湧いて出てきていた。
「チッ!!」
ローリィが舌打ちをする。見ると、ローリィの弾丸の雨を何かが避けていた。それは鳥であった。今までの魔物達とは、圧倒的に違う速度で鳥たちはローリィの周りを飛んでいる。鳥たちは、ローリィ目掛けて何度も突っ込んでは、ローリィの弾丸を躱すために避けて周囲を飛び回ることを続けていた。そして、その数は時間を増すごとに増えている。
「アリーさん、これでは、きりが無いですよ!!」
ロデが、魔法銃を撃ち続けながらそういった。今までは、魔法銃の攻撃で何体もの魔物が消し飛んでいた。しかし、その状況はすでに一変してしまっている。サラサや、レラの斬撃すら、今出現してきている魔物達には、有効なダメージを与えられていなかった。その中で、ライオルとロロ&ジャルクのみが巨人たちに有効打を放ち続けて破壊していく。しかし、巨人たちの出現速度に殲滅速度が追いついていない。ローリィは、単身で鳥型の魔物を全て引きつけている。幾重にも出現させた銃口を向けて、全ての鳥型の魔物を、ローリィは逃すまいと打ち続けていた。しかし、その数を減らすことが出来ない。何体かに小さなキズを負わせることは出来たが、このままでは周囲を完全に囲まれてしまうだろう。
「……限界かしら」
「ここからって感じだね」
「そうね。ライアさん」
「分かったよ」
そう言うと、ライアは紫の鎧を纏ってその場から消えた。次の瞬間には、ライアはガンドロス達が受け持っていた区画に出現する。そして、その鎧から魔力を放った。
「ディメンション・ブレイド」
ライアの放った魔力が、巨人たちに紫の魔力の斬撃を与える。それは、空間を断ち切る斬撃。その魔法を、ライアは完全に制御していた。
「当てやすくていいね。さぁ、どんどん行こうか」
「ヒイラ」
「うん」
アリーに自身の名前を呼ばれて、ヒイラは赤と紫の鎧を身に纏う。そして、ローリィの上空に転移した。
「邪魔だよ」
赤い血で出来た糸が、蜘蛛の巣のように周囲に広がっていく。その網目に触れた鳥型の魔物は、紫の光を放って切断されていった。
「鳥は任せて。迷宮を、これで覆うよ」
「助かります」
その言葉を聞くと、ローリィは銃口を巨人たちへと向けた。
「さてと」
アリーは、そう言って帽子をかぶり直す。そして、目の前を見つめた。その瞬間、森が揺らいだ。森の中から、紫の何かが立ち上がってくる。それはあまりに巨大で、周囲の景色を破壊しながら立ち上がった。
「嘘……」
「転移魔法で出来た巨人!?」
「進化している。迷宮自体が、私達の魔法を見て、出てくる魔物の姿を変えている」
「そんなの、勝てるわけがないじゃ無いですか!!!!」
「どうするんですか、アリーさん!!」
「……シア、その剣って効く?」
「お、魔法を撃つ以外の出番が来たかな」
シアは、アリーの声に剣を構えた。
「切り裂け、サフュール!!!!」
シアが、剣に魔力を込める。すると、剣の形状が変わってその刃を天高く伸ばした。まるで帯のような刃をシアが紫の巨人目掛けて振るうと、その体が両断される。しかし、一瞬巨人の身体がブレると、何事もなかったかのようにその体が治っていた。
「う~ん、あまり効いてなさそうだね」
「仕方ないわね」
そう言うと、アリーはベイとお揃いのローブを腕まくりした。そして、両手を前に出してその間に黒い球体を作り出す。
「コズミックモード」
その瞬間、その黒い球体がアリーを包み込んだ。そして、星々を宿した鎧を作り上げる。それは宇宙。小さな宇宙を身に纏い。アリーは、暗き中に光と生命を宿した鎧を作り上げた。
「コズミックランス」
青とも黒とも思える鎧から、一つの大きな槍が生えてくる。それは、アリーが紫の巨人を指差すと飛んでいき、その肉体を一撃で消滅させた。
「……」
紫の巨人の身体は、槍がぶつかった瞬間、黒い穴に吸い込まれるようにして消えていった。それは、巨人を破壊すると消えたが、不思議とそれを見た瞬間、シュア達は恐怖に襲われた。
「アリーさん、あれは」
「物質が入り混じって作り上げた、吸引力の高いすり鉢みたいな物かしら。まぁ、ああなるわよ。あれに触れると」
「アリーさん、あなたは」
「超神才魔法使い。言わなくても分かってるわ。そうでしょ?」
「……そうですね」
シュアは、アリーを見て心の底からそう思った。
「さて、全部が終わったはずなんだけど」
アリーは、もう一度正面を見つめる。全ての属性迷宮が、これで崩壊したはずだった。しかし。
「レーチェさん」
「おう」
「迷宮、まだ残ってるわね」
「……そうじゃな。上にまだ残っておる。まさか、そこにもあるとわな」
「宇宙」
アリーは、そう言って空を見上げた。そこには、未だに巨大な魔力で出来た空間が漂っていた。宇宙。最後の創世級迷宮が、そこに存在していた。




