寒炎と現表炎
「……さっぶ」
燃える髪を揺らめかせ、カヤはその空間で呟く。自身の腕を見ると鎧に霜が出来始めていた。高熱を放っているカヤの鎧にである。
「で、あんたが火の創世級?」
カヤが空間の中央を見つめる。すると、そこには紫の炎が浮いていた。この極寒の空間で、その炎のみが怪しく揺らめいている。そして、それは太陽のように巨大であるのにもかかわらず、一切の熱を放出していなかった。
「周囲から熱を奪う炎って感じかな?」
カヤは、そう言って武器を構える。
「さて、勝負と行こうか」
そう言って、カヤは紫の炎を見つめた。その瞬間、カヤの目の前が光る。
「うおっと、アブな!!」
カヤは、空間内を跳躍してその攻撃を避けた。それが何だったのかは、カヤには分からない。ただ、この空間が寒いことから、それはカヤの熱を奪う攻撃だったのだろう。そうカヤは考えた。
「姑息な攻撃だね。しかし、結構な攻撃速度だ。これは、手加減できないなぁ~」
そういって、カヤは持っている赤い棒を肩に担ぐ。
「さて、本気で行くよ」
そう言ってカヤが自身の足元に向かって棒を突き立てると、その部分から波紋が広がっていき、辺りに地上の風景を作り上げた。
「こんなものかな、っと?」
すると、周囲の空間に向かって紫の炎が熱を放ち始める。それによって周りにある木々が燃え始めるが、それはカヤの作り出した幻に過ぎない。故に、燃えてはいるが熱量を放つことはない。それが分かると、紫の炎は熱を放つのをやめた。
「なるほど。燃やして熱量が回収できそうなものは燃やすってわけか。でも残念。それが本物になるかは、あたし次第なんだよねぇ~」
そう言うと、カヤの鎧が巨大になっていく。それは紫の炎を上回り、腕で炎を握りつぶせそうなほどの大きさとなった。
「さて、これは本物だよ。耐えられるかな?」
カヤは、紫の炎目掛けて自身の持っている棒を振り抜く。すると、そこに居たはずの紫の炎が消えた。
「お?」
カヤが周囲を見回すと、上空に紫の炎が移動している。そして、その炎がゆっくりと割れ始めた。
「これは、お釈迦様もビックリだね」
それは目だった。燃え盛る火のようにも見えるその青い目は、カヤを見つめている。そして、カヤ目掛けて紫に見える光を放ち始めた。
「おっと。レーザーってやつかな?これで私の熱量を奪おうってことか。熱いのは好きなんだけど寒いのはちょっと苦手でね。受ける訳には行かないなぁ」
鎧を小さくして空間を蹴り、カヤは創世級の近くへと駆け上がっていく。何度も身体を切り替えしてレーザーによる攻撃を避けながら、カヤは目玉近くへと到着した。
「さて、近づいたけど私の攻撃自体熱量があるものだから、それ無しとなるとちょっと限られてくるね。普通の攻撃は効くのかな?」
カヤは、棒を伸ばして振るい、目玉を叩こうとする。しかし、カヤの振るった棒は、何事もなかったかのように目玉を通過した。
「ありゃりゃ、実態がないでやんの」
そういうと、カヤは飛び退く。すぐにカヤが居た地点に、紫のレーザーが飛んできた。
「じゃあ、あれで倒すしか無いか」
そういうと、その場でカヤは棒を背中にしまって腕を合わせる。合掌。拝むように手のひら同士を合わせると、カヤはその場で動きを止めた。そこに、創世級の放ったレーザーが飛んでくる。だが、レーザーはカヤに当たらず、その体を通過した。
「……」
目玉が僅かに揺らめく。動揺しているかのように。
「万物と万物の境目を引き寄せ、一切の不可能を可能とする。炎を寒く。水を固く。雷を大地とし、地を流れる空気へと変える。風をそびえる大樹とし、流れる時を形ある物としてなす」
そのカヤの言葉に、空間がゆがみ始めた。
「老いを若返りへと変え、成長を退化へと変える。細胞を宇宙へと変え、魔力を塵に等しき小さなものへと変える。一切の事象に辻褄はなく、一切の事象に境界はない。混ざり、うねり、境界が消えていく」
カヤの見せている幻が、地上の風景を変えていく。それは異常な光景であった。カヤの言葉通りに、地上の風景は変る。しかし、それは幻のはずであるのにもかかわらず、本物であるとしか創世級には認識できなかった。そして、驚く。自身の体の一部が、凍り始めている事実に。
「氷は、流れる湧き水のごとく、砕けて地に埋まる」
その言葉通り、創世級の身体の一部が砕けて地に埋まり始めた。今の地上は雷である。高圧の雷の大地に創世級の凍っていた身体の一部が埋まり、その形をあっという間に消滅させた。
「それでも残るか。さすが、創世級と言ったところかな。あまりに魔力が多すぎて、干渉が薄かったと見える」
そう言うカヤ目掛けて、創世級は突進する。全身の魔力をぶつけて、創世級はカヤを破壊するつもりだった。しかし、カヤがすっと手のひらを創世級へとかざす。すると、見えない壁に阻まれたかのように、創世級は動きを止めた。
「ちょっと反則くさかったかな。でも、これだけやればいいでしょう。じゃあ、倒すね」
カヤが、背中の棒を握る。そして創世級目掛けて振り抜くと、創世級の体の一部に当たって、その部分を砕き破壊した。
「!!!!」
「実態がある気分はどうだい?」
カヤの背中に、巨大な輪っかが出現する。その輪っかには、8つの小さな輪っかが作られており、その中から炎で出来た腕が出現した。無数の腕が、創世級へと殴りかかる。その全てを、避けることも出来ず、創世級は全てくらいその実態の一部を破壊されて縮小した。
「さて、私じゃなければ厄介だっただろうけど、こういう力を持ってるんでね。悪いんだけど」
カヤが、炎の腕の魔力を自身の腕に集める。カヤの鎧の腕が燃え、持っている棒が赤く光り始めた。
「これで最後っと」
カヤが、全身に力を込めて棒を振り抜く。すると、赤い炎が長い棒となって伸び、創世級の身体を破壊した。燃えるはずのない紫の炎の身体が、赤い炎によって燃やされて朽ちていく。その中で、創世級は何もすることが出来ず、その場で消えた。
「おわりだね」
そう言いながら、カヤは合掌する。すると、周囲の空間が元のなにもない空間へと変わった。
「常識をいじってくる相手とは、さすがの創世級でも戦ったことなかったか。いやぁ~、楽で助かったよ。流石に魔力使って疲れたけどね。あたし、やっぱあんまりこの手の魔法得意じゃないわ。使えるけど」
そういって、鎧を解除してカヤは体を動かし柔軟を始める。
「さて、勝ったし戻りますか」
召喚を解除して、カヤはその場から消えた。その瞬間、迷宮内の景色がガラスが割れるかのように亀裂が入って消える。後には、同じような空間が残っていて何も変わっていないように感じるが、先程まで、この空間内はカヤの張った魔法空間によって支配されていた。その中での常識は、カヤの望んだままに変わる。それは、うちに取り込まれた創世級とて例外ではない。ただ、あまりに大きな魔力的な塊であったために魔力干渉のみでカヤは創世級を倒すことが出来なかった。その事実に、やっぱり創世級は強いんだなぁ~と、カヤは朧気に理解した。




