銀河に響く幻音
カザネの鎧の黒き装甲が、緑の蛍光色の線にそって展開していく。装甲の下から蛍光色に光る緑色の内部部分があらわになり、巨大な魔力生成によって発生する自身への負荷を、熱エネルギーへと変えてその部分から放熱し始めた。逆行する時間の中で、カザネの鎧が驚異的な熱量によって光り始める。魔力の強制供給によるオーバーフローと、発する熱量によってカザネの鎧はその輝きを増した。
「うああああああああぁぁぁぁ!!!!」
カザネは、雄叫びを上げながら自身の片足へと魔力を集中させる。逆行する時間の中では、その時間にそって相手の破壊した身体さえも修復されていく。だが、カザネはその逆行する時間の中で、その回復量を上回る魔力の生成を可能としていた。カザネは、魔力を足に集められるだけ集めると、ブレイクアクセルをフルアクセルへと戻す。そして、再度創世級へと目掛けて、集めた魔力を蹴りの威力と共に打ち出した。
「はああああぁぁぁぁ!!!!」
その威力で、迫ってきていた球体の一部が消えていく。だが、まだ視界の先にいる球体の総数が減っているようにはカザネには見えない。その状態から焦らずカザネは、再度魔力を生成して攻撃を始める。そして、敵が近づいてくるとブレイクアクセルを発動させて時間を巻き戻し、安全に距離を保って創世級への攻撃を続けた。
「くっ!!」
カザネは、唯一風の創世級に勝っているものがある。それは速度。限界を超えた速度、ブレイクアクセルは、時間を巻き戻す。その巻き戻る時間の中で、カザネは行動できるのだ。それは、何処までも速さを追い求めたカザネだからこそ辿り着けた境地。しかし、それこそ創世級は持っていないものの、カザネよりも勝るものを創世級は持っている。あまりにも多すぎる魔力量。この創世級に限っては、その魔力量そのものこそが創世級の実態であり存在そのものである。つまり、カザネが創世級に勝利するには、それらを全て相殺しきらなければならないのだが。
「……」
いくらカザネが魔法を振るおうとも、蹴りを放とうとも、その数が目に見えて減っているようにはカザネには感じられなかった。すでに、百回近いブレイクアクセルを行っているが、未だに創世級の身体の一割すらカザネには破壊できているとは思えなかった。
「チッ!!」
放熱を続けるため、カザネの鎧は変形したまま攻撃を続けている。オーバーフローによる魔力の鎧の強化がおきているとはいえ、ブレイクアクセルの負担は凄まじい。強化されたカザネの鎧でも、ブレイクアクセルの負担は、確実にカザネの動きを鈍らせ、その体をゆっくりと破壊していく。ブレイクアクセルを繰り返すたびに、その痛みゆえカザネは焦りを感じていた。眼の前の敵を、自分が倒れるまでに打ち倒せるのか? そんな疑問が、カザネの中でうずまき始めていた。
「……フッ」
だが、カザネはそんな状況下で笑う。カザネはその時、一つの感覚に神経を向けていた。自身に供給される途切れることのない魔力供給を、カザネは感じていたのだ。この静止しているとも言える時間の中でも、その魔力供給は途切れることがない。つまりそれは、ベイ・アルフェルトがカザネの勝利を信じて魔力を送り続けているという証。
「負けられないんだよおおおおおおおお!!!!」
何度も時間を巻き戻し、カザネは攻撃を続ける。いつしかその鎧にはヒビが入り、装甲を自らの生み出した負担で破損させ始めた。それでも、カザネは止まらない。鎧内部の自身の肉体が悲鳴をあげようとも、鎧のマスクが壊れようとも、カザネは振るう腕を止めない。銀河とも思える創世級を壊し尽くすまでカザネは、己の身体を酷使し続けた。ブレイクアクセルこそが、カザネに唯一残されている勝機。だから、カザネはやめない。己の魂すら燃やすほどの執念で、カザネは時を巻き戻し、拳を振るい続ける。そして、全てのカザネが纏っていた装甲が砕けた時、カザネの前には、無数にあった球体はたったの一つとなっていた。
「……」
もはや、呼吸すらする気力もカザネにはない。この戦いの体感時間は、カザネには途方も無い時間に感じられたが、現実には一秒すら経過していなかった。最後の球体を見つめてカザネは、己の身体を光らせて笑う。そして、球体の前でパチンと指を鳴らした。
「お前、遅かったな」
カザネが、最後のケリを放つ。その瞬間、銀河ほどもあった創世級が、完全に消滅した。
「……」
力なく、カザネはその場で目を閉じて倒れる。多大な負荷がカザネの肉体にはかかっており、その状態でも戦えていたのはカザネの精神力がその場にカザネを留まらせていたからだ。だが、すでに限界が来ていたためにカザネの肉体は、その場で魔力の粒子となって消えていく。そして、召喚者であるベイ・アルフェルトの内部へと戻っていった。
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「……カザネが戻ってきた!!だが、これは……。フィー、回復魔法を頼む!!」
「はい!!」
「しかし、ここはどこなんでしょうかね?」
ミルクが、辺りを見回す。その空間は宇宙。星から離れた遥か空の上のように思えた。だが、下にはその自分たちがいたはずの星が見えない。故に、これも創世級迷宮内の何処かの空間なのだろうと俺達は感じていた。周囲には、他の皆の反応がない。何故だ。誰かとは一緒になるはずじゃなかったのか?
「うん?」
不意に、ミルクがなにかに気づく。そして、その攻撃を能力で操って消した。
「えっ?」
ミルクが、驚きの声を上げる。俺も、皆に魔力を供給しながらだがミルクと同じように驚いていた。だって、さっき俺達目掛けて飛んできた攻撃は、レーチェの破壊の力と全く同じものだったからだ。
「そんなバカな!?」
ミルクがそう叫ぶが、攻撃は止まらない。俺達目掛けて、破壊の力が飛んでくる。それを、ミルクは次々と操っては相殺して消していった。
「チッ!!姿を見せなさい!!この魔法は、あんたが使って良いものじゃないんですよ!!!!」
ミルクがそう叫ぶ。だが、宇宙空間に気配は感じられない。ミルクは、相手の攻撃を操って返したりしながらも、取り敢えず、様子を見ることにした。




