試しの儀
「さて、それではその力を見せてもらおうかの……」
「……」
この今の俺達の鎧を見てすら、笑みを向けて近づいてくる者がいる。それは、レーチェデカブラ。土の創世級。
「……いやいやいや、まずいでしょ。ここ、借り物の施設よ」
「一応は、見ておかんとな。なんせ、当日はそれぞれが別れた状態で創世級と相対するんじゃ。多少手加減したわしの攻撃を、完封できるくらいでないと、少し不安じゃわい」
「いや、何言ってるんですか。私がいる時点で、貴方の攻撃は、私達には届きませんよ」
ミルクの能力により、相手の魔法・物理攻撃の操作が可能となっている。しかも、この鎧は通常のミルクの属性特化の鎧よりも、その能力を更に発揮しやすい。だが、相手はレーチェだ。どんな手でその能力を上回ってくるか分からない。能力に弱点があるとするのならば、今のうちに知っておきたいところではある。
「で、ベイよ。やるか?」
「……付き合ってもらえますか。俺達の鎧の初戦闘に」
「良いじゃろう。ここでそう言える。だからお前が好きなんじゃな、わしは」
レーチェの左腕に、巨大な魔力が集められて土の腕を形作る。それを、縮小して更に装甲を積み重ねて縮小する。それを、何度も一瞬のうちに繰り返して、練り上げられた圧倒的な土の魔力の凝縮した塊。
「ギャラクシーハンド・コスモ」
「コスモ……」
その見た目は、土で作られた巨大な腕だ。だが、魔力を感じることが出来る俺達には分かる。その腕から、有り得ない程の巨大な魔力を感じるのだ。さすがレーチェだ。これでもまだ、手加減だというのか。
「さて、では試しに一撃といこう」
「……来い!!」
「おうともさ」
創世級は、星1つ壊すことなど容易い実力を持っている。それを今、レーチェは証明してくれていた。放たれているのは、ただのパンチだ。だが、大気が歪み、ねじれ、摩擦を生み出して周囲を巻き込んでいく。それが、俺達の鎧に激突すると、その衝撃を広げるように打撃の波紋が広がっていき、それがこの星を破壊していくだろう。そのパンチを受けて、俺はその光景を確信として感じていた。この打撃を完璧に逃さなければ、この星にいる俺達以外の全てが死ぬ。俺には、そう思えた。
「……」
「ま、これぐらいなら余裕じゃろ?」
「……はい」
鎧に実際に打撃が当たった瞬間、ミルクの能力によって魔法による威力の逃しが発生する。それによって、この場からレーチェの放った打撃の威力は、完全に消えた。
「で、どこに逃した?」
「上です」
「距離的には、大丈夫じゃろうな?」
「ええ。そのはずです」
その一瞬、空が輝いた気がした。
「光のみが来たか」
「……」
「能力を逃がす距離は大丈夫じゃな。創世級の攻撃ともなると、少し逃がせる程度の距離であればくらっているのと同じじゃからな」
「そうですね」
確かに、あまりに威力がでかすぎてあんな攻撃の威力範囲から逃げ切るのは難しいかもしれない。それに、戦う場所は迷宮内だ。多分そんなに広くないから、相手もあれ程の威力のものは自爆覚悟じゃないと使ってこないだろうけど、無いとは言えない。威力を逃がすときは、逃し方を考えないとな。カザネの力を使えば、あれすらも回避できるんだろうけど。
「さて、本番と行こう」
レーチェの腕についている土のアームが崩れる。だが、その崩れた状態のままレーチェの腕の周りを瓦礫が周りだし、また別の形の腕を作り出した。
「ギャラクシーハンド・ミキサー」
瓦礫となった土が、高速回転をしながら腕を形作っている。それにレーチェは再び魔力を込めると、その瓦礫を巨大化させて大きなアームを作り上げた。
「細かな粒子が、これには渦巻いている。これは一撃であると同時に、細やかな多くの複数の攻撃でもある。そして、魔法攻撃でもあり、物理攻撃でもある」
「……」
「全て逃しきれるか?」
「やりますよ」
「うむ。ならば良し。言っておくが、しくじったら星がなくなるからな」
「分かっています」
レーチェが、ギャラクシーハンドを振り抜く。それは俺達の鎧に当たり、その動きを止めた。
「ほう」
レーチェの腕の粒子の回転がその一瞬で止まる。全ての魔法も物理としての攻撃力も完璧にいなされ、辺りは静寂に包まれた。
「よくやった」
「ありがとうございます」
今確認したのは、ミルクの能力でどれほどの同時攻撃までなら攻撃を逃がせるかを確認したんだ。今までのミルクの能力には、そこに不安があった。だが、この鎧でならば関係ない。恐らく限界はあるのだろう。だが、目で数え切れないほどの瓦礫の攻撃を全て受けても受け流せるほどの能力が、この鎧にはある。これなら、どんな攻撃が来ても問題なく対応できるだろう。
「任せるぞ、ベイよ」
「はい」
レーチェに、これで認められたようだ。創世級の相手をするのに相応しい実力があるものとして。
「……少し疑問なのだが、確かに今の鎧がすごいことは分かった。だが、当日は別れて行動するのだろう。それで戦い抜けるのか?」
「ベイが、全ての鎧に魔力を送ってオーバーフロー。つまり限界まで魔力を供給して起きる鎧の強化を行う。これにより、個々で戦うとしてもその鎧の実力は引き上げられて、創世級と相対する事のできるポテンシャルを持つことが出来るじゃろう。それで完全に創世級をそれぞれが倒せると言えるかは難しいところじゃが、まぁ、すぐ死ぬことはないじゃろうな。対策をしておれば」
「……なるほど」
「さて、一応最後に言っておくけれど。この攻略戦は、国に言わずに行います。何故って、ベイが勝利した時の扱いがどうなるか分からないから。ベイ達が、創世級に打ち勝ったという事実のみが残る。そんな人物を、国がどう扱うのか。正直、私達にもわからない。だけど、都合よく使われるような立場にはなりたくない。最悪、私達が国を滅ぼす未来だってあるかもしれない。そうならないためにも、国には言わずに皆さんには、私達に手を貸して欲しい。勿論、黙っていてくれるなら手を貸してくれなくても良い。だけどどうか皆さんの力を貸して欲しいの。この星の、未来を守るために」
アリーの最後の言葉に、ライオルさん達は無言で頷いた。
「決まりね。それじゃあ、年明け前に決戦と行きましょう!!」
この星の未来を守る戦いが始まる。もう、後戻りはできない。




