見出された勝機
さっきからストレスがやばい。予定になかったのですが、こんな暴露。予定では、アリーが創世級迷宮の攻略をすることを告げる。俺達の今の実力を見せる。承諾してもらうという流れだったのですが、そこに来て我が嫁のアリーさんの一大暴露。その上、俺を救世主だという。い、胃が痛い。なんか変な汗が出てくる一歩手前ぐらいでやばい。具体的に言うと恥ずかしい。ああ~~、早く開放してくれ。この晒し者状態から。
「創世級迷宮を、攻略するだと?しかも、目の前のベイ・アルフェルトが?笑わせるなアリー。出来るはずがない。何故なら、人間は創世級迷宮に近づいただけで死ぬのだから!!」
「……お祖父様とは、後日また話し合う必要がありそうですね。ですが、そう思うだろうと想定していました。むしろ、そう思うべきだと思います。ですが、言われるとかなりムカつく。なにより、ベイをけなされている気分でかなりムカつく。お祖父様、言葉遣いを考えて下さい」
「……す、すまん」
静かな物言いだが、アリーから謎の圧力が出ている。怖い。俺の嫁怖い。でも可愛い。好き。
「では、そろそろ皆さんも気になっていることでしょう。創世級迷宮の攻略。そんなものが可能なのかと」
見渡す限りの、観客全員がその言葉に反応をしめす。そのまま頭を縦に振って頷くものが多い。次には、身じろぎすらせず俺達を見てアリーの言葉を待っている者たちが多いかな。それ以外は、他と話をしだしたり、首を横に振って半ば諦めたような顔をするものが居た。
「皆さんも、疑問でしょう。そもそも、創世級迷宮の魔物を知りもしないのに、何故攻略可能と言えるのか。誰が、その判断をしたのか。では、その判断をした人にご登場いただきましょう」
「おっ、出番じゃな」
そう言って、アリーの後ろの席からレーチェが、会場中央へとジャンプして移動した。
「ご紹介しましょう。彼女は、我が家の自宅警備員兼、農業担当です」
「レーチェデカブラじゃ。よろしくな。わしが、ベイ達が創世級に勝てると判断をした」
「……誰だ?」
「ま、そうだよね」
「やはり、あれは……」
会場が、レーチェを見てざわめく。その言葉を遮るように、アリーが言葉を続けた。
「皆さん、そもそも創世級迷宮の魔物を見たことがありますか?見たことがありませんよね。ですが今、それは皆さんの目の前に居ます。嘘でも、でっち上げでもなく事実として」
「は?」
「嘘だろ。創世級迷宮の魔物なんだぞ。近づいただけで死ぬはずだ」
「ほう、死にたいのか?」
その瞬間、周囲の空気が変わった。観客席の全員が、まるで急激なめまいに襲われたかのように弱々しくなっていった。呼吸も辛そうに喘ぎ、視線をレーチェからそらす。だが、気づいたのだろう。いや、気付かされた。そう、目の前にいるのは化物だという事実に。
「この程度で情けないと思わんか。のう、ベイよ」
「そのぐらいにしておいてあげて下さい。アリー達は、この程度なら汗をかくぐらいで耐えられますが、ニーナが苦しそうです」
「ふっ、分かった」
その瞬間、空気が元に戻る。だが、全員のレーチェを見る目は変わってしまっていた。怪物、化物、神。どのように客席に居た彼らには見えていたのかは分からない。だが、全員の怯えがその場にいる俺達には分かった。
「ほ、本物なのか?」
「あれで偽物だと言われても、俺は認めないがな」
「お祖父様、あれは、ここに居て良いものなのですか?」
「それを決めるのは、俺達じゃない。レーチェさんだ。しかし、俺もまだまだ若かったな。まるで赤子に戻ったかのような空間だった。ここまで、この年になって実力の差を感じることがあるとはな」
「なに、気にするな。お前よりも長生きしとるからの」
「そいつは、嬉しいお言葉だ。俺より若かったら、歯を食いしばって血反吐吐いてるところだぜ」
ライオルさんは、そう言って拳を力強く握りしめている。色々と、ライオルさんの中で心がざわついているのだろう。なんだかごめんなさいライオルさん。代わりに、心で謝っておきます。
「クッ……」
「ありえん」
ガンドロスとジーンは、震えている自身の手先を見ているな。でも、そこで笑っているところがあの二人らしい。ほんと、お二人とも強さを追い求めることが好きですね。
「さて、これで分かって頂けたでしょうか。レーチェデカブラは、創世級迷宮の魔物です。その中で、土の力を持っていた。しかし、彼女が居なくなったことで土の迷宮部分は崩壊。そして、そこを私達の夫のベイが確保しました」
「うむ。捕まったぞ」
サンドイッチあげただけだけどな。
「さて、そのレーチェさんが言うには、我が夫ベイ・アルフェルト達は、創世級迷宮を攻略できるということなのですが」
「うむ。出来るじゃろうな。勿論、リスクは有るが」
「そのリスクとは?」
「創世級というのはな、ある意味で魔法の到達点に立っている者のことでもある」
「つまり」
「決して確実に倒せるという相手ではないということじゃな。死ぬ可能性もある。当たり前じゃがな」
「でも、勝てると判断したのよね?」
「ああ、したとも。ベイを見てな」
そう言って、レーチェが俺に視線を向ける。観客の視線も、俺に集まった気がした。
「さて、ではその前に、創世級迷宮の攻略法を説明いたしましょう。今、中央に立っているベイ以外の仲間の彼女たち。その彼女たちの中で、選ばれた者のみが、創世級の魔物と一対一であの迷宮内部で戦います」
「は?」
「その中に、ベイ達も入ります。そうすると、二対一で戦える戦場が出てきます。その戦場からベイ達が創世級を倒していき、最後に全員が合流。残った最後の一体を倒して、創世級迷宮の完全攻略となります」
「ちょ、ちょっと待て。眼の前にいる女性たちが、単独で創世級の魔物を相手にすると言ったのか?それも、残っている属性ごとに」
「ええ、そうです。彼女たちが創世級の魔物を殺します。勿論、ベイと協力して」
「ば、馬鹿な。そんな人間が、こんなにいるはずが!!」
「ええ、そうですね」
アリーは、それ以上言葉を続けなかった。そこで言葉を区切り、会場中央に目を向ける。
「だが、彼女たちはいる。レーチェが居ない今、残る属性は火・水・風・雷・聖・闇の6種類!!その創世級の魔物を相手にするのが、カヤ、ミズキ、カザネ、シデン、ミエル達、そしてレム。彼女たちが、創世級の相手をします。そして、創世級を討ち滅ぼす!!」
「……一部、複数いるようですが?」
「それは後で見せるから、その時に分かるわよ。一対一ってことの意味がね」
アリーは、シアにそう言って話を続ける。
「じゃあ、そろそろいいでしょう。皆、その力を見せてもらえるかしら。ここにいる全員に」
そのアリーの言葉に、フィー達は待ってましたとばかりに位置を移動して身構えた。




