そして、一歩踏み出す
「あ~~~」
「お疲れですか、ライアさん?」
「いやねぇ~、同じことばっかやってる気がしない?」
そこは、サイフェルム城の一室。そこには王が居て、国の研究者達もいる。勇者と呼ばれる、ライオルまでもが呼ばれていた。その中で、ライアは疲れたようにテーブルに突っ伏す。最初は、彼女も真剣に研究者達の話を聞いていた。しかし、その議論が半年間以上も続いている。しかも、全く同じ話題でだ。
「この前の調査結果では、変わった反応は得られなかった」
「しかし、依然として創世級迷宮の様相は、目に見えて変化している。調査が不十分なのでは?」
「……この会議が始まってから、我々は魔力測定装置、遠距離からの観察、出来るだけ近距離に近づいての監視を行って来たが。得られた情報は、外見的変化のみだ。近づける距離にも変わりはなく。直近では、まるで波紋のような模様が周期的に現れては消えている。それが、結界の歪みによるものなのか、内部からの攻撃によるものなのかは分からない。しかし、それも最近は落ち着いたのか、数が減ってきている。今言えることは、創世級迷宮が、何らかの形に変化しようとしているのではないか、ということだけだ」
「だが、もしそれが結界が消えるという変化だった場合、どうするのかね?」
「サイフェルムでは、今現在貯蔵している魔石で国全体を覆う結界を維持することしか出来ないでしょう。他の国とも協議しましたが、やはりそれぞれの国で自衛手段を取るしか無い、という結論になっています」
「……絶望的な結論だな」
「それぞれの国の民衆を、一箇所に集めて結界を張るという意見もありましたが、現実的ではありません。それ程の広範囲を覆う結界を張ることも、食料を全民衆に行き渡らせる土地を結界で確保することも不可能に近いです。それならば、各国々で出来るだけの自衛策をとるべきでしょう」
「全員生き残る道はないか……」
「創世級迷宮が崩壊するのならばですが」
「それが最悪のシナリオだからな」
その話を聞きながら、ライアはこめかみを押さえる。
「この話も、何度もした気がするなぁ~」
「言ってることは、少し変わってるんですけどね」
「結論は変わらないじゃん、シアちゃん。国々は、最終的な防衛面では協力しない。ただし、結界の監視、分析は国々で協力して行う。しかし、得られるのは外見的変化のみ。いつも同じだよねぇ~」
そう、ライアがシアに言う。そんな事を話していると、1人の魔法使いが新しい意見を話し始めた。
「その防衛策なのですが」
「何かね?」
「我々が創世級を防衛戦力として使うというのはどうでしょう?それならば、我が国の生存は、可能だと思いますが?」
「はっ?」
「……」
その発言をしたのは、召喚魔法を研究している研究者だった。
「創世級の魔物を、従えるというのかね?我が国で?」
「ええ、そうです」
「方法はあるのかね?」
「リングルスターにおいて、とある魔法使いが創世級を召喚しようとしていたという事件は、皆さん知っておられるかと思います」
「うむ。あったな」
「実は、我々も創世級迷宮の変化。この問題を解決するべく色々と古文書を見て回っていたのですが、その中に恐らくその犯人が使っていた魔法と同じ召喚魔法が書かれていると思わしき古文書を、最近発見いたしました」
「おお、そうなのか」
「ええ。それによれば、こう書かれています。星に流れる魔力の糸を利用して魔法陣を作れ。そして結界を構築し、その中に力あるものを召喚せよ。そして、結界から開放することを条件に契約をするべし。そう、書かれていました」
「創世級を、結界に閉じ込めたまま召喚するというのか」
「はい。そうすれば人類の言うことを聞くとも書かれていました」
「それは、本当なのか?」
訝しげに、サイフェルム王が聞く。
「嘘でしょ」
事もなげに、ライアはそういった。
「ええ、私も嘘だと思います。現に、リングルスターでは、人間に従っているようには見えなかったとの報告が上がっています」
「では、駄目ではないか?」
「いえ、召喚魔法陣と、その魔法の効果自体は本物のはずです。つまり、創世級に言うことを聞かせる何かを新たに作れれば、可能性はあると思います」
「その何かとは?」
「これには、星に流れる魔力の糸という記述があります。これは、とても大きな魔力の流れです。これをこの本では、召喚のためにのみ使っていますが、これを使って結界を構築できるはずです。その結界ならば、創世級の攻撃からサイフェルムを守ることも出来るでしょうし、いざとなれば創世級を捕らえる檻を作る事も出来るでしょう」
「……なるほどな」
「すぐに、その古文書を結界魔法を研究しているこちらに渡したまえ!!」
「もちろんです。結界の完成が最優先なのは、こちらもそう思っています。ですが、結界はあくまで防御しか出来ないもの。最悪、創世級を従える手段として用いるというのは有りではないかと思います」
「……分かった。それは後で考えるとしよう。では、その古文書を使って、サイフェルムの結界を強化することにする。話はそれからだ」
「「「「はっ!!」」」」
その会話を、遠くで聞いているものが居た。
「げっ」
「どうしたの、アリーちゃん?」
アリー・アルフェルトである。
「……面倒な事になったわね。ただでさえ今は、創世級迷宮がずたずたで迷宮の結界維持が乱れてるっていうのに。その結界維持の魔力供給装置を、横から使おうってわけ」
「つまり?」
「サイフェルムの魔法研究者が、創世級迷宮の結界の寿命を縮めるってことよ」
「最悪ってことだね」
「そうね。でもまぁ、そんな会話が出てきたのが今でよかったわ。ライアさんに、会話送信装置を持たせてたかいが合ったわね」
「どうするの?」
「どうもしないわよ。だって……」
アリーは、窓の外を見る。
「……最高じゃな」
そう、レーチェは呟いた。眼の前の光景を見て。
「そろそろ準備しましょうか」
「遂にってとこかな」
「ええ。ちょっと場所取りをしてくるわ」
「うん。取れなかったら言ってよ。作るから」
「分かった」
そう言って、アリーはその場から転移した。




