サラサ・エジェリン ~追いつけなくても隣りにいたい~
一日目の営業が終わり、夜がふける。今年狩られたクマたちは、去年よりは小さかったものの。それでも、大人の身長を三段重ねしたような巨大なクマが、優勝の獲物となっていた。完全に化物だな。あの大きさでも。
「ふぅ~」
「サラサ、どうした?」
「ああ、ベイか。見てくれ、あのクマを。あれは、私が倒したんだ」
「へ~。じゃあ、今年の優勝者は、サラサか」
「ああ。アリーさん達が出なかったからな。楽勝だったよ」
そう言って、サラサは再び飾られたクマを見上げる。
「なぁ、ベイ」
「うん?」
「私は、強くなれているんだろうか?」
「……ああ。俺には、そう見えるよ」
「そうか。でも、アリーさん達を見ていると、自信を無くしそうになる。もしかして、私の努力が足りないんじゃないのか。そう思う時もある」
「うん」
「だけど、お前がそう言ってくれるのならば、私は安心できるんだ。間違ってないと思える」
「……俺が見たライオルさんは、気と魔法を融合した鎧を作り出していた。その力を纏って戦ったライオルさんは、とてつもなく強かった。もし、サラサがあの境地に辿り着けるのなら、サラサは今よりも、更に強くなれるだろう」
「そうか。しかし、魔法がな。どうにも苦手だ」
「焦ることはないさ。ゆっくり、自分のペースで慣らしていけばいい。それでこそ、初めて身についたって言えるんだ。無理して扱っていても、実践では使えないだろうからな」
「そうだな」
サラサは、そう言うと俺の腕を握る。そして、自身の剣を、もう片方のあいている腕で触った。
「ベイ、私は、実力でお前の隣には立てないかもしれない。それこそ、生涯をかけてもだ。それどころか、アリーさん達に勝てるようになるかも怪しい。それでも、お前は私の隣りにいてくれるか?」
「ああ、当たり前だろ。サラサがいない生活なんて、もう考えられないんだ。絶対に離さないからな」
「ふふっ、嬉しいよ。ベイ」
そう言うと、サラサは唇を近づけてきて、俺とキスをした。俺は、目を閉じて暫くサラサに身を委ねる。サラサがゆっくりと唇を離すと、俺はサラサを担ぎ上げた。
「えっ、ベイ?」
「優勝賞品は、もう貰ったよな?」
「あ、ああ。もう表彰もされた」
「じゃあ、行こうか」
「どこへ?」
「店へ」
「店?」
「皆、疲れた顔をして待ってるよ。だから、俺はサラサを迎えに来たんだ」
「ベイ、何を言って?」
「行こうか、サラサ。まだ、俺は元気なんだ」
「ちょっと。ちょっとベイ、待って!!」
俺は、サラサの静止の声も聞かず、サラサを店内のベッドへと担ぎ込んだ。
*****
「おはようございます」
「「「「おはようございます」」」」
「皆さんには、昨日お話した通り、サイフェルムで活動予定のアルフェルト商会の一員になっていただきます。現地には、社宅を建設予定です。住むところには困りません。また、別途何かを取りに行きたい、探しに行きたい場合でも、当社は後で送り届けます。移動の必要はございません。こちらでお送り致します。何かご質問はございますか?」
「あの、親に一言行ってから行きたいのですが」
「であれば、先に現地をご案内してから、私達も連れ添って両親に挨拶に行きましょう。そういうことでよろしいでしょうか?」
「は、はい。大丈夫です」
「サイフェルムっていうのは、そんなに近いのかい?」
「いえ。私達は、転移魔法を使って皆さんを送り届けます。長距離移動も一瞬です。ですので、移動時間はあまりかかりません」
「危険は、無いんでしょうか?」
「転移魔法においては、その筋のエキスパートの方が使われるので問題ありません。現地での作業の方でしたら、皆さんには出荷する荷物の護衛。資金の運搬などもしていただきますので、危険がないとはいい切れません。しかし、冒険者である皆さんならば、その程度のことは日常茶飯事のはず。手当もおつけしますし、怪我などをなさった時は治るまで継続して治療代金もお払いします。それで不満があるようでしたら、後ほど契約を解除していただいても構いません。後で、私の方までご相談下さい」
「分かりました」
「他には、おられませんか。では、サイフェルムに移動いたしましょう。アリーさん、お願い致します」
「うむ」
そう言うと、アリー達は女性冒険者達を連れて転移した。
「社宅なんて、どこに作るんだ?」
「え、家の隣ですよ?」
「……いつから決まってたんだ」
「数日前から」
「……まぁ、いいか」
ロザリオが、知らなかったんですか、という目で俺を見る。はい。知らなかったんです。
「最近、野菜の販売が上手く行ってまして。それで、土地を少し大きめに買うことにしたんですよ。野菜を育てる畑も増やして、社宅も建てます」
「それ、いつ建てるとか聞いていい?」
「えっと、今日の予定ですけど」
「……ミズキの親方には、頭が上がらねぇなぁ」
「そうですね。一日で完璧に仕上げてくださるんですから、感謝しかありません」
「それでどうしよう。俺たちも戻るべきかな?」
「いえ、昨日でもう昨年のお客様達は全員抱き込めたみたいですから、今日はゆっくり祭りを楽しんでくれってロデが」
「そっか。じゃあ、見て回ろうかな」
「はい」
出店を回りながら、俺はそんなに多くの人数をマッサージしたかな? と、昨日のことを思い出していた。途中から、結構皆さん景気よく気絶なさっていたからな。そんなもんだったのかもしれない。ロデが連れて行った人数も、まるで観光地に行く団体さんって感じだったもんな。そんな人数にマッサージを行っていたのだろう。
「ムラムラしていても、手を出さずにマッサージを続けるとは。流石、ご主人様ですね」
「その後で、あたし達が大変だったけどね」
ミルクとカヤが、後ろでそう喋っている。いや、お客さんだしな。手を出しちゃいかんでしょ。うちはそういうお店じゃないんだよ。健全です。健全。だが、正直やばかった。無心でやってないと、途中から駄目になりそうになっていた。でも、アリーの顔を思い浮かべながら、頑張ったんだ。偉いぞ、俺。やりきった。
「ま、どっちにしろ落としてますから、どっちにしろですけどね」
「そうねぇ~」
「……」
あっ、あっちに昨年食べた野菜炒めの屋台がある。あれは美味しいんだよ。食べないといけないよな。うん、食べなきゃな。




