女性冒険者の皆さん ~一年越しに落ちる~
「さて、準備も整ったわけですが」
「なによ、一等地じゃない」
「そうですよ、アリーさん。事前準備を、今回はバッチリしておきました。このために作っていただいたレーチェさんの野菜の貯蔵も完璧です。そして、例のスペースも確保済み」
「それで、後は開始を待つのみと」
「予定だと、そろそろですかね」
ロデが、目線を中央広場へと向ける。すると、その中央で一人の女性が高らかに声を上げた。
「お前ら、お待ちかねの時間、熊狩だああああああああああ!!!!」
「「「「うわああああああああああああああああ!!!!」」」」
女性の声に歓声が上がる。その声を聴くと、ロデ達は店に入っていった。
「ミズキさん、始まりましたので、開店致します」
「うむ」
「ミズキが、料理をカウンターに出して、後はセルフで持ち運んで食べてもらう形式なのね」
「そうです。ウエイトレスをなくすことで、トラブルも減ります。食い逃げ防止に、お金の支払はご注文時にしました。まぁ、逃げてもミズキさんに八つ裂きにされるだけでしょうが」
「それはそうね」
「さて、裏のベイくんの様子も見てきますか。アリーさんは、皆のいる別室に向かって下さい。こちらの従業員専用通路からいけます」
「分かったわ」
アリーと別れ、ロデは調理場へと向かう。そして、その裏のドアを開けた。
「準備はいかがですか、ベイくん?」
「また、やるのかよ!!」
「そうですよ。昨年来た方々が、がっかりするでしょうからね。ただし、昨年来た方のみお通しします。だから、数は限られてますので、気にせずこなして下さい」
「……はぁ~」
「では、少し待ってて下さいね」
そう言って、ロデは部屋を出ていった。
「はぁ~。気が重いな」
そう言って、ベイは持ってきていた牛乳を飲み干す。すると、ベイは目を見開いて飲んだ牛乳の注がれたコップを見つめ直した。
「なんで、さっきまでミルクのだったのに。味が、レーチェの……」
その事実に、ベイは顔を押さえて震える。そして、すっとその場で立ち上がった。
「……ムラムラするなぁ」
ベイは、そう呟いた。
*****
「無いですね」
「無いね」
女性冒険者の集団が、暗い路地に佇んでいる。その視線は、一年前にあったはずの店を探して泳いでいた。
「……明日、また来よう」
「今年は、無いんでしょうか」
「レビン、その可能性もある。ま、なかったら仕方ない。諦めるしか無いさ」
「そんな!!この日を楽しみに、一年頑張ってきたのに!!」
「……私もさ。でもね、どうしようもないことってあるんだよ」
「……お前達。何を探している?」
不意に、聞き慣れない声が路地裏に響いた。その声の主が、どこに居るのか彼女たちには分からない。
「誰だ!?」
「答えろ。何を探していると聞いた。答えないならば、これ以上聞く気はない」
「……マッサージ屋を探している。去年、ここにあった屋台だ」
「……中央通りの野菜料理専門店に顔を出せ。そこで、荷物を預かってくれといい。マッサージを受けたいものだけ、野菜料理を二品注文しろ。言っておくが、他の者にこの事を教えた場合、それ以降のマッサージは二度と受けられない。そう思え」
「それは、マッサージを受けられるってことか!!」
女性冒険者は聞き返す。しかし、もう二度と声が帰ってくることはなかった。
「ナークさん、どうしましょうか?」
「……藁にもすがるって感じだが、いってみるとしようか」
「は、はい!!」
彼女たちは歩き出す。その姿を、ミズキは上から眺めていた。
*****
「アリー、会いたいよ~。君を、いますぐ抱きしめたいんだ。アリー、聞いてるんだろう。来てくれよ。愛してるんだ。君を抱きしめたい」
そう言って、ベイは先程からアリーを呼んでいる。その声を、別室で聞いていたアリーは、その場の全員に取り押さえられていた。
「アリーさん、これは罠です!!行ったら、この部屋がバレますし、アリーさんが大変なことになりますよ!!」
「離して!!ベイが呼んでいるの!!私が行かないと、行けないの!!!!」
「アリーちゃん!!落ち着いて!!ここは堪えて!!堪えて!!」
「ヒイラ、離して~!!ベイが呼んでいるの!!私を、呼んでいるのよ~!!!!」
「……アリーさん、そろそろお客が来ますよ」
「……仕方ないわね。様子をうかがうとしましょう」
「そうです。何のためにこのセッティングをしたと思ってるんですか。前回の事件を踏まえて、その威力を客観的に私達が見るためでしょう。それで、真っ先にアリーさんに落ちられては困ります」
「でも、ベイが」
「それは分かりますから、今は我慢ですよ。我慢」
「……んん」
しょんぼりした顔をして、アリーは部屋を写す魔法モニターを見つめた。
「ベイ様。お客様ですよ」
「……分かった」
ロザリオが、お客を部屋へと招き入れると出ていく。その女性は、ベイを見つめると丁寧にお辞儀をした。
「お、お久しぶりです!!ミセです。お、覚えていらっしゃいますか?」
「ああ、以前新米冒険者をしてらした」
「は、はい!!その、ミセです。また、お会いできましたね」
そう言うと、ミセはベイに抱きついた。
「……それでミセさん。今日は、どういった風にしましょうか?」
「……えっと。おまかせで、お願いできますか?」
「かしこまりました」
そう言うと、ベイはミセをベッドに寝かせた。
~それから十分後~
「うわぁ~~」
そう言って、アリーはモニターを見ていた。
「血行が良くなりますからね、重点的にここはほぐしましょう」
「少し暑いでしょうか?脱がれてもいいですよ」
「そうそう。体をそらして、伸ばしましょう。体の歪みが消えますよ」
そう言って、至って普通のマッサージをベイは続ける。だが、それを受けているミセの方の表情は、普通ではない。よだれを垂らして、完全にほうけてしまっている。今、ミセはベイに何を言われても従うだろう。そう思わせるほど、ミセの態度はベイに対して献身的なものになっていた。
「はぁ~、はぁ~」
「お疲れですか?」
「いえ、まだ、らいじょうぶです」
「そうですか。では、もう少し強く揉んでいきますね」
「……はい」
「うわぁ~~」
数分後、気絶したミセは、その場からロザリオによって運び出された。その途中、ベイがロザリオの腕を掴んだのだが。次のお客がすぐにくるというので、ベイは渋々ロザリオの腕を離した。
「うわぁ~~」
「……これ程とは」
「確かに、しておるのはただのマッサージであった。しかし、あの雰囲気は何じゃ?何故、あそこまでおなごがほうけておる。わしらの時とは違って、ただのマッサージじゃぞ。全く意味が分からん。だが、一つ言えることがある」
「なんですか、レーチェさん?」
「これ、あとでわしらがこのベイを受け止めるってことじゃろ?」
「……そうですね」
「死ぬんじゃないか?」
「……無いと言えないのが、なんとも」
こうして、多くの犠牲者を出しつつ一日目が過ぎていていく。そして、そのすべての犠牲者を、サイフェルムで働くアルフェルト商会の人員として、ロデは雇うことに成功した。




