ロデ&ロザリオ ~商人、海辺にて策を練る~
「海に行きましょう」
そうアリーが言ったから、今日は海に来ている。なんでも、ヒイラとロザリオの学校大会優勝記念ということらしい。それで何故海に行くのかと思わないでもないが、皆の水着が見られるのだから俺に断る理由はない。
「ご主人さま~~!!行きますよ~~!!」
弾む胸、揺れるお尻。かなり目の保養になる光景が広がっているのだが、今は目の前のミルクに集中せねばなるまい。なんせ、あの腕力で放たれるボールのスパイクを受けねばならないからだ。俺は、腰を深く落として腕を構えた。
「わしに任せろ!!」
構えていたのだが、横からジャンプして腕を伸ばし、レーチェが強引にボールを拾う。そうして打ち上げられたボールを、俺が飛んで相手陣地に打ち込んだ。
「……角度よし」
それを、涼しげな顔でミズキが腕で弾いて拾う。チクショ~。かなり本気で打ち込んだんだけどな。ミズキ相手では、この程度なんでもないか。
「おっしゃああ!!行きますよ!!!!」
「ベイ、拾ってくれ。わしが打ち込んで見せる!!」
「ああ!!」
ミルクが、再度ボールを打ち込んできた。それを、気合を入れて俺は腕で弾く。
「……痛い」
強化魔法使用禁止だからな。結構痛い。でもまぁ、死ぬもんでもないし良いか。
「よくやった!!任せろ!!」
ボールを追いかけて、レーチェが空中へと飛ぶ。そして、ボール目掛けて力強く腕をふるった。
パーン!!
「あっ」
「あっ」
ボールが、レーチェの一撃を受けて破裂した。しかも、衝撃が辺りに伝わって、周囲の砂を巻き上げて飛ばす。
「皆、目を瞑れ!!」
「ちょ、なんで砂がいきなり!!」
「口にちょっと入った」
「……すまんの」
レーチェが、着地して皆にそういった。
「だから、ある程度の手加減が入りますよって言ったじゃないですか」
「う~む、難しいのう。つい力が」
「これで割ったの5個目ですよ。もうちょっと、力加減を覚えてもらわないと」
「そ、そうじゃな」
ミルクが、レーチェに説教をしている。その光景から目線を外し、俺は波打ち際に目を向けた。
「いい。腰を落として、踏ん張る足を後ろにずらして」
「こ、こうですか?」
「そうそう。それで腰らへんでそれを構えて」
「はい」
「全身で衝撃に備える感じで撃つ!!」
「撃つ!!」
その瞬間、海に巨大な水柱が出来た。ロデが撃った、アリー特製の銃の弾丸が、海面に激突したせいだ。それを、皆が驚いたように見ていた。
「……まぁまぁね」
「……いや、まぁまぁで済む威力なんですか、アリーさん?」
「当たり前でしょう。もうちょい上げたいとこだけど。あんたが扱うんだし、このくらいにしておきましょうか」
「それでお願いします」
そう言うと、ロデは銃を抱えて振り返る。しかし、その肩をアリーが掴んだ。
「どこにいくの?」
「えっ、もう終わりですよね?」
「違うわよ。今のは通常弾。こっちが魔石で作った火炎弾。氷塊弾、紫電弾、それの配合を変えた融合魔法弾」
「……まさか」
「全部試し撃ちするわよ。ヒイラ」
「記録はバッチリだよ、アリーちゃん。この水晶で、威力も数字化出来てる」
「問題ないってわけね。それじゃあ、続けましょう」
「私、なんで水着でこんな事やってるんでしょうかね」
そう言いながら、ロデはアリーに渡された弾丸を装填し始めた。
「結構な威力ですね。アリーさん達の作ったこの結界発生装置の中でないと、周囲の町の人達がちょっとびっくりするかもしれません」
「かもな」
そう言いながら、ロザリオが俺にタオルを持ってきた。それを俺は受け取って、わずかにかいていた汗を拭く。
「ありがとう、ロザリオ」
「いえ、ベイ様のお役に立てて嬉しいです。それに、この日差しの中で見るベイ様の筋肉、最高です」
「そ、そうか」
相変わらずの筋肉フェチだな。若干ヨダレ垂らしてないか、ロザリオ。美少女が台無しだぞ。
「撃て~~!!」
「ひいいいいぃぃぃぃいいいい!!!!」
「さっきよりも水柱が高いね」
「よし。次は紫電弾よ。皆、ちょっと海から上がって!!!!」
「「「「は~~い」」」」
「……今日は、バカンスじゃなかったんですか?」
「そうよ。でも、それはそうと実験はしておきたいから」
「大事だしね」
「祝われるべきヒイラさんがそう言うのであれば、私はもはや何も言いません。よし、どんどん撃ち尽くしてやらあああああ!!!!」
「良いわね、その意気よ」
「測定は任せて」
「大変ですね」
俺は、浜辺に設置したビーチチェアに座る。その横に、ロザリオが寄り添うように座ってそういった。
「そうだな。正直心配だ。確かに、アリーの作った武器は凄い。だが、ロデを戦闘に連れ出して大丈夫なんだろうか?ロデは、ニーナよりも戦闘訓練をしていない。そんなロデが、銃の引き金を引くだけとはいえ、創世級迷宮の周りに行くことになるんだ。俺は、やめといたほうが良いと思うんだが」
「いえ、ベイ様。私も、ニーナさんもその時はご一緒します。ロデも、嫌でしょうけど行くでしょう」
「……」
「ベイ様の、ベイ様達の帰りを、一番近くで待つために」
「……俺としては、うちに居てもらいたいんだけどなぁ」
「確かに、それが一番安全かもしれません。けど、皆なにかしたいんだとおもいます。アリーさんに言われたからではなく、何か出来ると知ったから、ロデもああやって実験を手伝っているんです。ベイ様を、少しでも支えるために。私も、そうですから」
「……ありがとう」
「いえ、私の方が常にそう思っています。この体も、心も、ベイ様のお蔭で満たされています。お礼を言うのは、私の方です。ありがとうございます、ベイ様。私の、望みを叶えてくれて」
「望み?」
「はい。素敵な方のお嫁さんになるのが夢だったんです。前は色々と制限がありましたから、それで問題のないロデを、生涯の相手なら彼女しか居ないと」
「容姿を変えられるからか?」
「はい。それも大きな要因ですが、ロデは優しいんです。それを、私は知っています。だから、前は彼女しか居ないと思っていました。それぞれの商会の跡継ぎを作る意味でも」
「なるほど」
その言葉に俺がロデを見ると、海に撃った銃弾の衝撃で泥が巻き上げられて、ロデが泥まみれになっていた。風の魔石の弾だったみたいだな。
「ああ~~~~!!!!ベイくん、助けて~~!!!!」
「待ちなさい、すぐに洗い流すから!!」
「う~~ん、すごい勢いで駆けていったね。これは、逃げる機会を伺ってたかな。少し、休憩にしようよ、アリーちゃん」
「はぁ~~。そうね。そうしましょうか」
「助けて~~!!ベイくん!!少し休憩したい!!!!」
「はいはい」
そう言って、俺は駆けてきたロデに水魔法をかけて泥を洗い流してあげた。ツインテールを振り乱し、ロデが水を払い飛ばす。そして、俺に抱きついてきた。
「ありがとう、ベイくん。それとロザリオ、私が頑張ってる時にいちゃつこうとするな。むかつく」
「あはは、良いじゃない、たまには。ほら、ロデも飲み物飲む?持ってきてあるよ」
「飲む~~!!」
そう言うとロザリオは、テーブルに置いていた飲み物をロデに渡した。それを、ロデはビーチチェアに座って飲み始めた。ついでに、俺もロデに引っ張られて隣のビーチチェアに座る。その横に、ロザリオが座り直した。
「あ、ロザリオもおめでとう。優勝しても、ヒイラさんみたいに学業免除にならないけどね」
「そうだね。うちも、そうだったら良かったなぁ~」
「しかもあんた、就職先が決まってるんだから、就職のアピールとしても使えない全く意味がない優勝じゃない。それで、よく大会に出るきになったわね」
「うん。本当は、私もそっちの学校の見学に行きたかったんだけど、こっちは生徒全員参加のお祭りみたいなものだからね。どうせ何かしないといけないなら、自分の腕を試すべきかなって」
「暇つぶしってこと?」
「そう。そういうこと」
「ふ~ん、暇つぶしで優勝ねぇ」
そう言うとロデは、何故か俺のビーチチェアの方に寄ってきた。そして、俺の真横に無理やり隙間を作って座る。せ、狭い。
「そう」
そして、ロザリオも寄ってきた。ロザリオも、無理やり俺の真隣に座ろうとする。いや、無理だって、これ以上は。そう俺が思っていると、案の定座れないのでロザリオは、諦めて俺に抱きつく形で隣りにいることにした。
「あんた、そんな隙があるなら野菜の販路とか、今後の商売展開のしかたとか考えなさいよ。ベイくんのために」
「知ってる、ロデ?うちの学校で優勝するとね、学校のお墨付き。つまり、学校内である程度の事をすることが可能になるんだよ」
「ある程度のこと?」
「そう。例えば、模擬店とかね」
「……野菜とマッサージ。どっちが向いてる?」
「野菜かなぁ。女生徒は私が言うのもなんだけど、じゃじゃ馬と言うか、刺々しいと言うか」
「そう。じゃあ、いずれはということで」
「それよりも、レーチェさんの野菜で肌のお薬作ってるよね。アレのほうが良いかも」
「ああ~~、実験台にってこと」
「そうそう」
「良いわね、やるじゃない」
「でしょう」
2人は、俺を挟んで握手する。この2人、なんだかんだでいいコンビだよなぁ。そう俺は思った。




