ライア・スペリオ ~スペリオを超えし者~
「おめでとう、ヒイラちゃん!!」
「おばさん、勝ったよ!!」
ヒイラは、嬉しそうに自身を抱きしめてくるライアさんを、受け止めてそういった。
「おめでとう、ヒイラ」
「おめでとう」
「「「「「おめでとうございます」」」」」
「ありがとう、ベイくん、アリーちゃん、皆」
「え~、では、休憩をはさみまして、特別試合を行いたいと思います。皆さん、少しの間お待ち下さい」
*
「副校長先生」
「なんでしょうか、校長先生?」
「……勝てなくない?」
「ヒイラ・スペリオにですか?」
「そうじゃよ。だいたい、あれは何かね?魔力で鎧を作るという発想。明らかにぶっ飛んでいるのだが。あんな芸当、うちの教師の中で出来るものは居るのかね」
「いや、彼女以外もしていたでしょう」
「それはそうだが、あれとは彼女のはレベルが違う。戦士科の生徒たちがあれをしたのには驚いたが、あれはよく見るとあくまで補助みたいなものだ。だが、ヒイラくんのは違う。あれその物が、攻撃魔法であり、強力な補助であり、防御なのだ。無理だろ。勝てるわけがない。彼女と戦うことになる先生は、とても災難だな」
「……校長。くじの結果だと、戦うのは校長先生なのですが」
「……特別試合ってね。生徒にまだまだ上の実力の人がいるよって見せるのが目的なんだよ、副校長。私では無理だね。約不足だよ」
「……逃げるんですか?」
「逃げるのではない。ただ、辞退するだけだ。あと、ちょっとお腹も痛い」
「では、どうするのですか?」
「客席から募集しよう。それっぽい人が何人か居るから。ただし、生徒以外でだぞ」
「生徒以外ですか。分かりました。では、それで呼びかけてみましょう。でも、誰一人名乗りを上げなければ、校長に出ていただきますからね」
「……止む終えまい。ボコボコにされよう」
*
「え~、只今通達が有りました。特別試合参加予定の校長先生が腹痛を訴えておりまして、代理の特別試合参加者を募集しています。募集条件は、生徒以外。そして、ヒイラ・スペリオさん以上に戦える、または勝てる見込みのある方となっております。どなたかおられましたら、ステージ上に起こし下さい」
「……何それ?」
「校長、逃げたのか?」
「まぁ、ヒイラ相手では、誰でも役不足よね」
「あはは。私って、そんなに怖い相手かな?」
「でしょう」
「だろうね」
会場が、アナウンスを聞いて静まり返る。誰一人、ステージに移動するものはいない。近くにいる、ガンドロスとジーンでさえ動かない。目を閉じて、2人は固まっている。多分、戦闘シュミレーションを脳内でして、勝てる結論が出ないのだろう。今のヒイラ相手に、剣士は攻撃が通じるか怪しいからな。そうなるよな。フィー達は、行くなよ。そう、目で俺は合図した。
「……はぁ~。私しかいないって訳ね」
風魔法を使って、客席からステージに一人の人物が舞い降りる。その名は、ライア・スペリオ。ヒイラのおばさんである。
「おおっと!!ただ一人、名乗りを上げる方がいらっしゃいました~~!!彼女は、ライア・スペリオさん!!なんと、ヒイラさんのご家族の方です!!」
「どうもどうも」
「あれが、ライア・スペリオ」
「スペリオ家の当主」
「若くないか?」
ライアさんを見た、人々の小声が聞こえる。まぁ、ライアさんは有名人だからな。仕方ないか。
「さて、勝負しようか。ヒイラちゃん」
「……ライアおばさん」
「ヒイラ」
「……」
「師匠超えしてきなさい」
「アリーちゃん、出来るだけのことはするよ」
「ふっ、成長を見せてあげなさい」
「うん」
そうアリーに言うと、ヒイラも風魔法でステージに着地した。
「合図頂戴!!」
「はい!!それでは、特別試合!!はじめええええ~~!!!!」
会場に、試合開始の合図が響く。しかし、2人は動かない。お互いを見つめてライアさんは微笑み、ヒイラは暗い表情でライアさんを見ていた。
「……どうする?」
「おばさん相手に、手加減なんて出来ないよ」
「じゃあ、全力で相手しちゃおうかな?」
「うん」
その瞬間、2人が魔力に包まれた。ライアさんは紫の鎧を身に纏い、ヒイラは紅の鎧を身に纏う。
「おお~~!!両選手、鎧を身に纏っています!!これが、スペリオ家の魔法使いの戦い方なのかぁ~~!!!!」
「ライアさんも、ベイの影響を受けたみたいね。それにしてもあの鎧、よく考えられてる。ミルクほどじゃないけど、ある意味無敵かもね」
「……私の愛とどちらが無敵か、試すべきでしょうか?」
「落ち着けミルク。張り合う必要はない」
「そうね。ベイの言う通り。ミルクが負ける要素がないもの」
「いや、そう言うことじゃなくてだな」
俺たちがそう言うやり取りをしている間、2人は睨み合っていた。しかし、数秒立つと二人共動き始める。ヒイラが、血で出来た槍をライアさん目掛けて打ち込んだ。しかし、ライアさんの鎧を、その槍は素通りしていく。
「……」
「ふふっ」
いや、素通りしたという表現は正しくないか。まるで、ライアさんがそこにいないかのように、槍が突き抜けたという表現が正しいだろうか。ライアさんの鎧に、当たりそうな手前で槍が消え、ライアさんの後ろの空間から突き出ている。どうやら、転移魔法を使って飛んできた槍を背後に転移させたようだ。
「……なるほど」
「そういうこと」
ヒイラが、更に多くの槍を生み出してライアさん目掛けて飛ばす。しかし、どの槍もライアさんの鎧に辿り着くことはなかった。
「じゃあ、次は私の番だね」
ライアさんが、ヒイラ目掛けて腕をかざす。すると、ヒイラの鎧の帽子部分が吹き飛んだ。
「……」
「ふふん」
そして、帽子がライアさんの魔力を受けて、一瞬で消滅する。それを、ヒイラはただ見ていた。
「……」
「どう、ヒイラちゃん。おばさんの新しい魔法は?」
「……」
ヒイラは、ライアさんに向き直る。そして、無いはずの帽子を摘む動作をした。
「なるほど。つまり」
「うん?」
「こういうことだよね、おばさん」
その瞬間、ヒイラの鎧に紫の帽子が出現した。
「はぁ!?」
「なるほど。ちょっと扱いづらいね」
ヒイラの鎧に、紫の色の装甲が重なってついていく。紅と紫を身に纏い、ヒイラの鎧は変化を遂げた。
「流石、ヒイラ」
「……天才って、凄いなぁ」
俺は、ヒイラを見てそう思った。
「嘘でしょ!?ヒイラちゃん、この鎧が使えるの?」
「おばさん。私ね、転移魔法も今は使えるんだよ」
「……面白いじゃない」
ライアさんがそう言うと、2人の鎧が消えた。
「……見える、ベイ?」
「ああ。ヒイラが先端を転移魔法で作ったブラッズランスでライアさんの鎧をじわじわ削っているな。ライアさんも、転移魔法を制御して防いだり、攻撃しようとしているが、ヒイラの方が手数が多い。徐々に押されている」
「はぁ、はぁ。強くなったね、ヒイラちゃん!!」
「うん。2人のお蔭で!!」
「ベイ君と、アリーちゃんだね。ふっ、今度アリーちゃんとも、戦ってみないと駄目だね。これは」
「ああ~、おばさん。それは、やめておいたほうが」
「え?」
「今のアリーちゃんは、ちょっと私達じゃ相手に出来ないよ」
「……」
「神魔級強化すれば、見えるわね」
「ま、そういうもんだよ」
戦いの最中、ライアさんがこっちを見た気がした。
「マジでいってる?」
「本当だよ、おばさん。今のアリーちゃんは、正直言って普通じゃない。だって、神才だもの」
「……」
喋りながらも、ヒイラの攻撃は緩まない。ライアさんの鎧が、徐々に傷ついていく。
「はぁ~。じゃあ、ヒイラちゃんに負けてなんていられないね」
「そうだね。アリーちゃん以上ならね」
「じゃあ、勝負つけようか」
その瞬間、ライアさんの腕が紫に光った。
「失敗したらごめんね」
その時、ヒイラの鎧の中心部が、紫に輝き始める。ライアさんは、ヒイラの鎧に転移魔法の亀裂を走らせ、鎧を完全破壊しようとしている。そのコントロールを少しでも間違えれば、ヒイラの肉体すら破壊されて消えるだろう。だが、それをライアさんは迷うことなく実行した。そのコントロールは精密で、ヒイラの鎧のみを狂いなく広がり、紫の亀裂が走っていく。流石ライアさんだ。しかし、その亀裂の進行がいきなり止まる。すると。徐々にその輝きが消えていった。
「えっ?」
「相殺」
そして、あっという間に走っていた亀裂は消えて。無傷のヒイラの鎧が、ライアさんを見ていた。
「うん。勝負つけるよ」
ヒイラが、ライアさんに腕をかざす。
「ディメンション・ブラッズ」
ヒイラの腕から現れたのは、血で出来た大きな鎌だった。その刃は、紫の亀裂が入っており、怪しく輝いている。その鎌が、ライアさんの鎧を、一撃で切り裂いた。
「へっ?」
ライアさんの鎧から、ライアさんが転移してはじき出される。そして、ライアさんの鎧に亀裂が走って消えた。
「おばさん。私、強くなったよ」
ヒイラは、ステージに座り込んだライアさんの前に着地する。そして、血で出来た槍を向けた。
「……はぁ~、強くなったね、ヒイラちゃん。私を超えるほどの立派な魔法使いが育ったわけだし、スペリオも安泰かな。これは」
「うううん。私、アルフェルトになるから」
「いや、そうだとしてもだよ。ヒイラちゃんが、スペリオだった事実は消えないさ。スペリオを超えた技術を、ヒイラちゃんが次世代に受け継ぐ。それで良いんだよ。スペリオの魔法も、一緒に引き継がれていくってことだからね」
「……わかった」
「ヒイラちゃん、ベイ君とお幸せにね」
「うん」
「よし。おばさんは負けを認める。降参するよ」
「しょ、勝負有り!!勝者、ヒイラ・スペリオ!!!!」
実況が勝利を告げると、ヒイラが魔法を解いてライアさんを引っ張り起こす。そして、ライアさんに抱きついていた。
「あはは、よしよし」
「……おばさん。私、幸せになるね」
その言葉を聞いたライアさんの表情は、嬉しそうでもあったが、一瞬だけ暗い表情にも見えた。
「……ベイ」
「うん?」
「お願いがあるんだけど」
「どうしたんだ、アリー?」
「いい。絶対、ヒイラもライアさんも、幸せにしてあげてね」
「う、うん?」
「約束よ」
「あ、ああ。分かった」
よく分からないが、あの2人を幸せに出来るなら、俺は何も後悔しないだろう。そう思い、俺はアリーにそう答えた。




