ヒイラ・スペリオ ~降臨!!鮮血の超英雄!!~ 後編
「……」
サラサは、無言で剣を構えた。サラサの持っている剣は大剣である。その刀身は大きく、斬撃の間合いは広い。その分重くはあるが、普段その剣を振り回しているサラサにとって、その重量は気にならない重さであった。
「……ふぅ~」
剣の感触を、柄を握ってサラサは確かめる。目を閉じて息を吸い、サラサは息を吐いた。そして、目の前の敵を見据える。
「ん?」
ヒイラ・スペリオは、自然体でそこに立っていた。何も構えず、サラサの視線を感じとると、にこりと微笑む。そして、実況席の方をちらりと見た。
「それでは~~!!決勝戦、始めえええええええ~~~~!!!!」
実況の、戦闘開始の合図が響く。その瞬間、サラサは黒い気と鎧を身に纏った。そのまま、一足で一気に踏み込んで飛び、距離を詰めてヒイラへとサラサは大剣を振りかぶる。ヒイラの目の前への移動終え、サラサが剣を振りかぶるまでに一秒と経っていない。その僅かな時間で移動するサラサを、ヒイラは黙って見つめていた。
「……良いね」
「!?」
ヒイラの腕が、サラサの振りかぶった大剣へと伸びる。そして、その腕に赤い何かが集まって装甲となった。
「ブラッズガントレット」
赤いガントレット。それは、サラサの大剣を掴み、その斬撃を空中で止めた。
「グッ!!」
サラサは、ステージに敷かれている石の土台を一足で蹴破った。その勢いのまま加速し、サラサは渾身の斬撃を放っている。しかし、今までの勢いが嘘のように、サラサは空中に静止した。
「魔法使いに、初手から全力の一撃を叩き込む。いい手だね。私達以外にはだけど」
サラサは、即座に動かせなくなった大剣を手放して後ろに飛ぶ。そして、腰に付けていたショートソードを抜いて構えた。
「さて、次は私が攻める番だ」
ヒイラは、大剣を場外へと放り投げた。その後、ヒイラのガントレットから溢れ出した赤い血液が、その体を包み込んでいく。そして、赤い帽子とローブを羽織った、紅の鎧を完成させた。
「ごめんね、サラサちゃん。最初から、勝ちに行くよ」
パチンと、ヒイラが指を弾く。すると、ヒイラの足元から、大量の血の津波が発生した。
「なっ!?」
それは、サラサを飲み込もうと迫る。それに対し、サラサは剣を一旦鞘にしまうと、津波目掛けて剣を一閃した。
「はああああああああ!!!!」
その瞬間、津波が割れた。サラサの放った斬撃で、津波が切られたのだ。だが、どこか様子がおかしい。津波は、その切られたままの姿で動きを止めている。そしてその後。切られた部分を修復すると、またサラサに向かって動き始めた。
「駄目か!!なら!!」
サラサは、津波に向かって真っ向から飛び込んだ。
「いや、それは駄目だよ。流石に」
ヒイラがそういうと、津波がサラサを飲み込んだまま、その動きを止める。その瞬間、津波の中央が輝き始めた。すると、津波の中央を突き破って、サラサがステージへと着地する。
「はぁっ!!はぁっ!!」
「おお~~、攻撃魔法を使ったね。成長してるね、サラサちゃん」
「……ベイ達のお陰です」
そのまま、剣を抜いてサラサは、ヒイラへと走り出した。
「でも、今のは危ないかなぁ。殆ど自爆みたいなもんだしね。せめて、次は穴を魔法で開けてから飛び込もう」
「ヒイラさん相手には、いくら穴を開けてから飛び込もうが、無駄な気がしますけどね」
サラサは、ヒイラ目掛けて剣を一閃した。だが、これをヒイラは、易々とガントレットで受け止める。すると、サラサの持っている剣が光りだした。
「今度は、斬撃の威力に魔法を合わせてきた訳だ」
「これなら!!」
「駄目に決まってるでしょ。私を、誰だと思ってるの」
その瞬間、サラサの剣の輝きが消えた。ヒイラに、魔法を相殺されたのだ。
「クッ!!」
「ごめんね。本気の私には、私より優れた魔法使いか、私の認識を超えた速度を出せる人ぐらいしか勝てないよ。だから」
ヒイラは、ガントレットから血液を溢れさせる。その血液は、動きを封じられたサラサを掴んで飲み込み、その動きを封じた。
「今のサラサちゃんじゃ、勝つのは無理だね」
ヒイラは、サラサを封じ込めた血液部分を切り離すと、それを場外に向かって放り投げる。すると、血液が弾けて、場外へとサラサは放り出された。それを見ると、ヒイラは鎧を解除する。
「ま、ざっとこんなもんかな」
「……あのサラサが、ほとんど何も出来ずに」
「嘘だろ」
会場が、静まり返る。ヒイラが魔法を解除するまで、その場には独特の匂いが漂っていた。それは、血の匂い。それが、ヒイラが魔法を解除するのと同時に、嘘のように消えた。
「血を使う、魔法使いだと」
「あれが、ヒイラ・スペリオ」
「いやぁ~、流石ヒイラちゃんだねぇ~。おばさん、嬉しいよ」
「えっと、もうステージ降りても、大丈夫かな?」
「……はっ。勝者、ヒイラ・スペリオ!!!!」
その声を聞いて、ヒイラはステージを降りていく。そして、起き上がったサラサに近づいていった。
「……」
「神魔級強化と、それで強化したブラッズを使ったよ」
「凄い、魔法ですね」
「うん。硬いし、変幻自在。その上、私自身も超強化されるからね。並の人では無理かなぁ」
「私は、並なのでしょうか」
「……ごめん。かなり強い人でも無理だよ。しかも、魔法がある程度使えないと無理」
「ヒイラさん」
「うん?」
「強すぎませんか?」
「そりゃあ」
ヒイラは、そう言いながら歩きだす。すると、サラサの大剣が、ヒイラの真上へと振ってきた。それをヒイラは、無言で強化魔法をかけてキャッチする。そして、サラサに渡した。
「未来の私でさえ、国相手に戦えるって言われてたみたいだしね。多分、今の私はそれを超えてる。それで弱いって方が、おかしいと思わない?」
「……そうですね」
「それに、私に魔法の使い方を教えてくれる人が、今でも2人ほど居るからね。あの2人と同じ肩書を持っている手前、負けられないよ。私は」
「超英雄ですか?」
「そ。まぁ、アリーちゃんが付けたものだけどね。私には誇りだよ。その肩書が」
ヒイラは、そう言うと選手入場口へと歩みを進め、控室へと移動する。その背中を見つめていたサラサは、少し微笑むと、ヒイラの後を追うように控室へと移動した。
「なんという魔法!!なんという強さ!!これがヒイラ・スペリオ!!溢れ出す血液を操り、今大会優勝の本命とまで言われたサラサ選手を寄せ付けないほどのその強さ!!我々も息を呑まざる終えません!!特に彼女の使ったあの魔法!!それは、観客の皆さんの中に、忘れられない記憶として残ることでしょう!!ヒイラ・スペリオの名と共に!!彼女はきっと、その大きな実力と魔法で有名になることでしょう!!血のヒイラ・スペリオ、いや……」
「鮮血」
「そう、鮮血のヒイラ・スペリオとして!!」
時をやり直し、彼女は過去にてその実力を伸ばす。そして、あるべき称号をその身に再び宿し、未来にて得た称号に相応しき実力を身に着けた。彼女は、ヒイラ・スペリオ。鮮血の超英雄である。




