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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
最終章・一部 真の救世主
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アルティ・アルフェルト ~その剣は生きている~

「気合、入ってますね」


 気分転換の進級式。それから帰ってきたベイの魔力操作は、一段違っていた。いつもよりも早く、そして正確。今、ベイ達は輪になって外殻を作っている。それを、アルティはその輪の外から見ていた。普通であるのならば、アルティもその輪に加わってベイの隣に立ち、魔法の制御を手伝うべきなのだが。他の仲間と違ってアルティのみ、その立ち位置が異なる。それは、彼女が剣であるからだ。鎧ではなく武器。ベイの魔力の一部ではあるのだが、アルティは本来腰にその位置を取る。つまり、鎧ではないのでベイからフィー達よりも少し位置的距離があっても問題ない立場にいるのだ。その上、今のアルティは創世級。こうして輪の外で座りながらベイ達を眺めていても、そのサポート能力は衰えない。こうしていても、アルティはしっかりとベイのサポートをしている。十分すぎるほどに。


「マスターは、熱心に訓練していますよ、姉さん。凄いですね。毎日、文字通り血を吐くまで。いつになったら、私達はこの痛々しい光景を見なくて済むのでしょうか」


 アルティは、鞘に入ったサリスを抱えてそういう。そもそも、アルティが輪の外にいるのは、このサリスをベイに預けられたからだ。鞘に水の魔法でくくりつけたため、傷がついたかも知れないとベイが後で気になったのでアルティに確認させていたのだ。その間にも、ベイは時間が惜しいと感じて外殻を作っている。それを、サリスを確認しながらでも問題ないとアルティが判断して、外からサポートしながら続けていた。


「おっ、もう腰部分まで外殻が出来てますね。新記録です。私が外殻として出るまでもうすぐですよ、姉さん。ま、私の構造は大きくなろうとも剣の形態ならば一定ですので、邪魔になることはないでしょう」


 その通り、徐々に腰にアルティらしき物体が作られていく。


「ん?」


 しかし、その逆の腰には、別のものが作られていた。それは、アルティが今持っている武器の形状と同じ形をしている。それは剣。それはサリス。見間違うことなど無い、アルティの姉の姿であった。


「……姉さん?」


 サリスは、普通の剣である。よって、喋ることもなければ、生命を持つことなど無い。アルティとは違うのだ。だが、現にサリスの外殻は作られている。今のベイには、ちょっとした思いつきでサリスの外殻を作ろう、とかいう余裕はない。つまり、作らないようにしようと思うのならば無視できるのだ。サリスの外殻は。それに、剣であるから大きくなっても内部構造が同じとは言え外殻は大きく、その構成魔力は少なくない。つまり、作らないほうが楽なのだ。しかし、この状況でサリスの外殻は出来ている。この状況で。


「それはつまり」


 サリスも、ベイと繋がっているという事だ。魔力で。それは、構成するべきベイの一部であるという証にほかならない。つまり、ベイと魔力で契約しているのだ。それも、魔石でもないのに。それはつまり、サリスの一部が魔力で出来ているという証。ということは、サリスは剣でなく、アルティと同じ魔剣であるということ。


「つまり」


 サリスは、生きていると言える。何故ならば、アルティと同じなのだから。


「姉さん?」


 アルティは、ジーッとサリスを見つめる。しかし、反応はない。生きていると分かったとは言え、人格があるとは言えない。しかし、アルティは疑っていた。何故ならば、外殻が構成されるだけの繋がりのある魔力を保有しているという事実があるからだ。


「姉さん」


 アルティは、サリスを鞘から抜き放つ。そして、見つめるとその刀身をくすぐり始めた。


「こちょこちょこちょ」


 サリスに反応はない。


「あくまで知らをきるのですか、姉さん」


 反応はない。


「マスターが、この事実を知ったら悲しみますよ。なんで言わなかったんだって」


 じっと見つめる。サリスの刀身に変化はない。だが、一瞬何かが変わった気がした。何かが。


「言いつけますからね、姉さん。マスターに言いつけますからね。喋るなら、今のうちですよ」


 反応はない。今度は、何も変わっていない気がした。しかし、さっき何かが変わったのだ。確実に何かが。


「ガハッ!!」


 血を吐き出して、ベイがその場に膝をつく。それを見ると、アルティは回復魔法をかけながらサリスを鞘にしまって、ベイ達に駆け寄った。


「大丈夫ですか、マスター、皆さん」

「ああ、いつも通りだ。疲れただけだよ。それと、ちょっと血が出た。俺だけ」

「当たり前です。皆さんの中心がマスターですからね。残念ですが、一番負担が大きいんですよ」

「だよなぁ~」


 アルティは、サリスをベイに渡した。サリスを支えに、ベイは立ち上がる。


「マスター」

「ああ」

「姉さん、生きてますよ」

「うん?」

「サリス姉さんは、生きています」

「うん?」


 ベイは、サリスを鞘から引き抜いた。そして、その刀身を見つめた。


「本当か?」


 サリスに、ベイは声を掛ける。しかし、返事はない。だが、何故かそのタイミングで刀身がきらめいた気がした。それが、沈む夕日の光を反射したからか。返事なのかは、ベイには判断ができなかった。


「……ま、これからもよろしくな」


 そう言ってベイは、サリスを鞘にしまう。そして、家に戻っていった。


「……今、返事しましたよね、姉さん」


 アルティは、刀身のきらめきを返事だと判断した。ベイ・アルフェルトは、魔剣を2つ持っている。一つはアルティ。彼の魔力より生まれた魔石剣が、生命の魔力を吸収し生まれた魔晶剣だ。そして、もう一振りはサリス。アリーに送られ、ベイと成長を共にし、共に冒険を歩んだ普通の剣である。しかし、その剣の使い手の魔力は絶大。その上、その魔力は物質にまで深く浸透するのだ。そして、サリスはその魔力を蓄積し、魔剣となった。しかし、サリスに意思があるのかは、今はまだ確認することが出来ない。


「……ただの剣が、主人に意見するなどあってはならない」


 今は、まだ。



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